【登記申請に関する司法書士の懲戒処分の全体像(不適切な業務の分類)】
1 登記申請に関する司法書士の懲戒処分の全体像(不適切な業務の分類)
2 本人面談を欠いた理由の分類(登記済証あり事案)
3 本人確認情報(保証書)の虚偽の記載の分類
4 その他の不適切業務による懲戒処分
1 登記申請に関する司法書士の懲戒処分の全体像(不適切な業務の分類)
登記申請を行う司法書士は,常に,なりすましなどの不正に巻き込まれるリスクに直面しています。また,中には,意図的に不正な登記に関与するケースもあります。
不正な登記申請に関与してしまった司法書士は法的責任を負います。法的責任の1つに懲戒処分(行政責任)があります。
詳しくはこちら|不動産登記申請における司法書士の確認不足の分類と責任の種類
本記事では,司法書士が受けた懲戒処分の事例を集約して,不適切とされた業務を分類します。
これらは逆に,司法書士が虚偽や不正な登記申請を未然に防ぐために役立つものです。
2 本人面談を欠いた理由の分類(登記済証あり事案)
懲戒処分となった事案のうち,登記済証がある,つまり,本人確認情報や保証書の作成をしていない事案について分析してみます。
圧倒的に多い懲戒処分の理由(不適切な業務)は,本人の確認が不十分であったというものです。その中でも,本人との面談をしなかったということは代表例です。
この点,司法書士が当事者本人との面談をして確認することは常識的なことです。
逆にいえば,本人との面談をしなかったのにはいろいろな理由があります。
その理由を分類します。
<本人面談を欠いた理由の分類(登記済証あり事案)>
あ 紹介者がリピーターや知り合いだった事案
依頼をしてきた第三者(仲介業者など)or当事者の一方と知り合いであった
過去に依頼を受けた件でトラブルが発生したことはなかった
い 家族の説明を信用した事案
家族が当事者本人から依頼されている(任されている)ことに間違いないと説明した
う 信頼できる金融機関からの依頼であった事案
信頼できる金融機関(担当者)からの依頼であった
え 信頼できる他の専門職からの依頼であった事案
信頼できる他の専門職(弁護士,税理士,土地家屋調査士など)からの依頼であった
お 過去の本人確認を流用した事案
過去に登記を依頼された者であり,その際本人確認を行っていた
新たに依頼された登記申請について,改めて本人確認を行う必要はないと考えた
※石谷毅ほか著『司法書士の責任と懲戒』日本加除出版2013年p248,249
これらの分類の元となった個々の懲戒処分の事例については,別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|司法書士が本人と面談しなかったことによる懲戒処分事例(登記済証あり)
なお,前記のように当事者本人との面談をしなかった場合に,必ず司法書士の責任が認められるとは限りません。
司法書士の責任の判断基準(枠組み)については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不動産登記申請を行う司法書士の確認義務の枠組み(疑念性判断モデル)
3 本人確認情報(保証書)の虚偽の記載の分類
登記申請の際に,登記済証がない場合には,本人確認情報(法改正前は保証書)を作成します。
本人確認情報(や保証書)を司法書士が作成する際,内容として虚偽の記載をしてしまうケースも,懲戒処分の代表例です。なお,虚偽の本人確認情報の提供は刑事罰の対象となる,つまり犯罪に該当します。そのように重大な違法行為なので,ほぼ確実に民事責任や行政責任も認められることになります。
司法書士が本人確認情報や保証書に虚偽の記載をしてしまうという異常なケースでは,いろいろな理由や経緯があります。それを分類してみます。
<本人確認情報(保証書)の虚偽の記載の分類>
あ 本人の意思能力が欠けていたが別の記載をした事例
司法書士は登記義務者に面談した
登記義務者が意思能力,事理弁識能力を喪失しているor不十分であると認識した
しかし『確認した理由』に虚偽の事実を記載した
い 補助者が面談したが別の記載をした事例
司法書士ではなく補助者が面談した
しかし,司法書士が面談したと記載した
う 代理人と面談したが別の記載をした事例
登記義務者の代理人(と称する者)or家族と面談した
しかし,本人と面談したと記載した
え 面談以外の連絡をしたが別の記載をした事例
司法書士は登記義務者と直接面談していない
例=電話で確認した
しかし,面談したと記載した
お 実施した面談の日時・場所・状況を偽って記載した事例
面談は実施した
しかし,面談の日時・場所・状況を偽って記載した
※石谷毅ほか著『司法書士の責任と懲戒』日本加除出版2013年p249
これらの分類の元となった個々の懲戒処分の事例については,別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|司法書士による虚偽の本人確認情報(保証書)作成の懲戒処分事例
4 その他の不適切業務による懲戒処分
司法書士が懲戒処分を受けた事例には,以上で整理したカテゴリ以外のものもあります。
本人確認を行ってはいたけれど,不十分であったという(他のカテゴリよりは)軽めのものもあります。
また,本人確認をしっかり行ったのはよいけれど,そのために申請する時期が遅れ,この遅れている間に差押登記が入ってしまったというものもあります。登記申請には迅速性が求められるということを再認識させられます。
さらに,最初から優先される担保権の登記が存在していたところ,新たな担保権設定登記申請の際,このことを説明しなかったために懲戒処分を受けたというケースもあります。
<その他の不適切業務による懲戒処分>
あ 本人確認の不足
当事者本人の身分証の確認を欠いたor不十分であった
公表 | 処分内容 | 事案内容 |
『月報司法書士2008年7月』p91 | 業務停止3週間 | 自宅訪問+口頭確認のみ |
『月報司法書士2005年3月』p76 | 戒告 | 抵当権抹消の義務者・名刺だけで確認した |
『月報司法書士2009年1月』p137 | 戒告 | 印鑑証明書+登録印の確認のみ |
い 本人確認が遅れた事案
司法書士は本人を面談をして本人確認情報を作成した
しかし,これに想定より長い期間を要した
その結果,差押登記がなされ,申請した登記が劣後することになった
公表 | 処分内容 |
『月報司法書士2011年8月』p129 | 業務停止1か月 |
う 優先される担保権の確認・説明が欠けた事案
補助者による立会が行われた
後から,先順位の根抵当権設定仮登記があったことが発覚した
公表 | 処分内容 |
『月報司法書士2008年9月』p124 | 業務停止1週間 |
本記事では,司法書士が受けた懲戒処分の事例を集約して,不適切な業務を分類しました。
実際には,個別的な細かい事情や,その主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に不正な登記申請に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。