【司法書士による虚偽の本人確認情報(保証書)作成の懲戒処分事例】

1 司法書士による虚偽の本人確認情報(保証書)作成の懲戒処分事例
2 本人の意思能力が欠けていたが別の記載をした事例
3 補助者が面談したが別の記載をした事例
4 代理人と面談したが別の記載をした事例
5 面談以外の連絡をしたが別の記載をした事例
6 実施した面談の日時・場所・状況を偽って記載した事例

1 司法書士による虚偽の本人確認情報(保証書)作成の懲戒処分事例

不動産登記申請を行った司法書士が懲戒処分を受けた事例は多くあります。
詳しくはこちら|登記申請に関する司法書士の懲戒処分の全体像(不適切な業務の分類)
その中で,登記済証がないケースで,司法書士が虚偽の本人確認情報(や保証書)を作成したことを理由とした懲戒処分を,本記事では紹介します。
先にいってしまうと,前提となる調査を省略しつつ,本人確認情報には,完全な調査をしたように記載をしてしまうケースが多いです。
ところで,本人確認情報の制度自体が,精度の高い本人確認がなされることを前提とするものです。
詳しくはこちら|不動産登記申請を行う司法書士の確認義務の枠組み(疑念性判断モデル)
多少の脚色であっても,客観的な虚偽の本人確認情報の提供は重大な違法行為として,懲戒処分以外にも,刑事責任(刑事罰)も認められます。
詳しくはこちら|不動産登記申請における司法書士の確認不足の分類と責任の種類

2 本人の意思能力が欠けていたが別の記載をした事例

司法書士が虚偽の本人確認情報を作成するには,何らかの特殊な事情(経緯・理由)があるはずです。
その典型例の1つは,意思能力が低いと感じたのに,取引の実現に協力したいと思い,意思能力が十分であったと判断できる虚偽の事情を記載してしまうというものです。

<本人の意思能力が欠けていたが別の記載をした事例>

あ 共通する事情

司法書士は登記義務者に面談した
登記義務者が意思能力,事理弁識能力を喪失している(または不十分である)と認識した
しかし『確認した理由』に虚偽の事実を記載した
例=住所・氏名・年齢・干支を正確に回答した

い 懲戒事例

ア 意思能力が不十分であったケース

公表 処分内容
『月報司法書士2011年6月』p123 業務停止1週間
『月報司法書士2007年11月』p78 業務停止1か月
『月報司法書士2011年7月』p124 業務停止1週間
『月報司法書士2006年5月』p108 業務禁止(※1)

※1 懲役1年2か月の実刑判決も受けた
※大阪地裁平成17年12月21日
イ 被補助人であったケース

公表 処分内容
『月報司法書士2010年2月』p95 業務停止2か月

3 補助者が面談したが別の記載をした事例

一般的な決済の立会を補助者が行うことは,これだけで司法書士の責任が絶対に肯定されるとはいいきれません。
しかし,補助者が面談したのに,本人確認情報には『司法書士が面談した』と記載した場合には,客観的に虚偽の本人確認情報の提供をしたということになります。確実に司法書士の責任が認められます。

<補助者が面談したが別の記載をした事例>

あ 共通する事情

司法書士ではなく補助者が登記義務者と面談した
しかし,司法書士が面談したと記載した

い 懲戒事例
公表 処分内容
『月報司法書士2012年1月』p138 業務停止1年6か月
『月報司法書士2006年2月』p90 戒告(※2)

※2 自称登記義務者がなりすましであった

4 代理人と面談したが別の記載をした事例

もともと,司法書士は,当事者本人以外の者と面談したにすぎないのに,本人確認情報には本人と面談したと記載するケースも生じています。

<代理人と面談したが別の記載をした事例>

あ 共通する事情

登記義務者の代理人(と称する者)or家族と面談した
しかし,登記義務者本人と面談したと記載した

い 懲戒事例
公表 処分内容
『月報司法書士2009年7月』p92 業務禁止
『月報司法書士2007年6月』p125 業務停止3か月

5 面談以外の連絡をしたが別の記載をした事例

司法書士が,当事者本人に電話で確認したのに,そのまま本人確認情報に記載するわけにいかないので,直接面談したという旨の記載をしてしまったケースもあります。

<面談以外の連絡をしたが別の記載をした事例>

あ 共通する事情

司法書士は,登記義務者と直接面談していない
別の連絡手段を取った
例=電話で確認した
しかし,面談したと記載した

い 懲戒事例
公表 処分内容
『月報司法書士2009年9月』p90 業務停止2か月
『月報司法書士2010年5月』p106 業務停止1週間

6 実施した面談の日時・場所・状況を偽って記載した事例

司法書士が当事者本人への面談を実施したことは間違いないが,その日時や場所や状況について虚偽の記載をしたケースもあります。その中でも,過去に別の理由(登記申請)で面談したことを,今回の登記申請に流用するというものが多い傾向があります。

<実施した面談の日時・場所・状況を偽って記載した事例>

あ 共通する事情

司法書士は登記義務者との面談を実施した
しかし,面談の日時・場所・状況を偽って記載した

い 懲戒事例
公表 処分内容 事案内容
『月報司法書士2008年1月』p76 戒告 確認した書面に不備があった
『月報司法書士2012年8月』p116 業務停止2週間 過去の登記申請時の面談を流用した
『月報司法書士2009年5月』p108 業務停止3か月 偽造した運転免許証のコピーであった・なりすましでもあった
『月報司法書士2010年10月』p66 業務停止2週間 過去の根抵当権設定登記申請時の面談を所有権移転登記申請に流用した

本記事では,司法書士が受けた懲戒処分の事例のうち,(登記済証がないケースで)司法書士が本人確認情報に虚偽の記載をしたことが理由となった事例を整理して紹介しました。
実際には,個別的な細かい事情や,その主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に不正な登記申請に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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