【係争物に関する仮処分の担保基準(担保の金額の相場の表と実務の傾向)】
1 係争物に関する仮処分の担保基準
2 仮処分全体の担保の実情(目安)
3 処分禁止の仮処分の担保基準
4 処分禁止の仮処分の担保の実情(目的物=不動産)
5 占有移転禁止・引渡断行の仮処分の担保基準
6 占有移転禁止の仮処分の担保の実情(目的物=動産)
7 占有移転禁止の仮処分の担保の実情(目的物=不動産)
8 引渡断行の仮処分の担保の実情
1 係争物に関する仮処分の担保基準
民事保全(仮差押・仮処分)では,発令の際,担保が要求されます。担保の金額の算定については,実務では,担保基準が目安(相場)として用いられています。
担保基準は,あくまでも目安であり,実際に決定される担保金額は個別的な事情で変動します。とはいっても,現実には担保基準に沿った担保金額が決定されるケースが多いです。
詳しくはこちら|民事保全の担保の基本(担保の機能・担保決定の選択肢・実務の傾向・不服申立)
本記事では,担保基準のうち,係争物に関する仮処分に関するものを説明します。
2 仮処分全体の担保の実情(目安)
まず,仮処分全体(つまり,係争物に関する仮処分と仮の地位を定める仮処分)の担保の金額の実情としては,目的物価格の15〜30%が多いといえます。
<仮処分全体の担保の実情(目安)>
仮処分の担保の金額は目的物価格の15%から30%を一応の基準としている
※『東京地裁保全部の事件処理の現況』/『判例タイムズ238号』1969年11月p11
以下,仮処分のうち,係争物に関する仮処分についての担保基準を説明します。
3 処分禁止の仮処分の担保基準
係争物に関する仮処分に含まれる仮処分は,さらにいくつかの種類に分類できます。
まず,処分禁止の仮処分に関する担保基準を表にまとめたものを示します。
<処分禁止の仮処分の担保基準>
被保全権利 | 目的物 | |||||
不動産 | 抵当権 | 商品・機械 | 有価証券 | 自動車 | その他の財産権 | |
所有権・登記請求 | 10〜20 | 10〜20 | 15〜25 | 10〜20 | 10〜25 | 5〜30 |
賃貸借契約終了 | ― | ― | 20〜30 | ― | 15〜30 | ― |
民事保全法55条による処分禁止の仮処分 | 15〜30 | ― | ― | ― | ― | ― |
詐害行為取消権 | 20〜40 | 20〜30 | 25〜40 | 20〜40 | ||
その他の債権 | 10〜30 | ― | 10〜20 | 10〜30 |
※仮登記上の権利は,それぞれの本権に準じて算定する
※司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 補正版』日本弁護士連合会2014年p30
4 処分禁止の仮処分の担保の実情(目的物=不動産)
処分禁止の仮処分の中で実際によく活用されるのは不動産に対するものです。前記の担保基準では,被保全権利の種類によって一定のパーセンテージが示されています。
実際に裁判所が決定した担保金額の実情としても,目的物(不動産)の価格の10〜30%におさまっているものが多く,基準に沿ったものであるといえます。
<処分禁止の仮処分の担保の実情(目的物=不動産)>
あ 1977年大阪地裁の担保の目安
目的物の価格の10〜25%程度
※『最近における大阪地方裁判所保全部の事件処理の実情1』/『判例タイムズ341号』1977年2月p56
い 1977年大阪地裁の実績のまとめ
処分禁止仮処分およびその複合型の仮処分の場合
評価額の10〜30%あたりに集まっていることが観察される
※『最近における大阪地方裁判所保全部の事件処理の実情1』/『判例タイムズ341号』1977年2月p59
う 1977年大阪地裁の実績の内容(分布)
担保金額/目的物の評価額 | 件数割合 |
1〜9% | 13.0% |
10〜19% | 22.9% |
20〜29% | 17.6% |
30〜39% | 16.3% |
40〜49% | 3.9% |
50〜59% | 3.3% |
60%〜 | 22.9% |
※評価額は固定資産評価額を用いている
※『最近における大阪地方裁判所保全部の事件処理の実情1』/『判例タイムズ341号』1977年2月p58
え 1969年東京地裁の運用実績
保証金額/目的価格の6か月の平均=14.29(%)
※『東京地裁保全部の事件処理の現況』/『判例タイムズ238号』1969年11月p12
5 占有移転禁止・引渡断行の仮処分の担保基準
係争物に関する仮処分の中の他の類型として,占有移転禁止や引渡断行(の仮処分)があります。
これらの仮処分における担保基準の表を紹介します。
<占有移転禁止・引渡断行の仮処分の担保基準>
あ 担保基準の表
保全処分の種類→ ↓目的物 |
占有移転禁止 | 引渡断行 | |||
債務者使用 | 執行官保管のみ(※4) | 債権者使用 | |||
動産 | 契約当事者(※1) | 15 | 30 | 50 | 60 |
第三者(※2) | 25 | 40 | 60 | 70 | |
不動産 | 土地・建物 | 1〜5 | 10〜20 | 20〜30 | 30〜 |
住宅賃料基準(※3) | 1〜3か月分 | 12か月分 | 18か月分 | 24か月分〜 | |
店舗賃料基準(※3) | 2〜5か月分 |
い 補足説明
※1 債権者と債務者との間に契約関係がある
※2 債権者と債務者との間に契約関係がない
※3 原則として当該不動産の契約賃料額を基準とする。経済事情の変動などにより当該賃料額が不相当である場合には,適正賃料額を基準とする
※4 執行官保管のみの仮処分は,実際の保管に困難を来す場合が多いので,慎重に検討する
※司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 補正版』日本弁護士連合会2014年p31
6 占有移転禁止の仮処分の担保の実情(目的物=動産)
占有移転禁止の仮処分のうち,目的物が動産であるケースついて,実際に裁判所が決定した担保金額の実績も,前記の担保基準に沿ったものとなっています。
<占有移転禁止の仮処分の担保の実情(目的物=動産)>
あ 債務者使用(現状維持)
執行官保管・債務者使用の場合
目的物の価格の10〜25%
目的物の種類を考慮する
い 執行官保管のみ
執行官保管(断行的)・引渡断行の場合
目的物の価格の30%以上
※『最近における大阪地方裁判所保全部の事件処理の実情1』/『判例タイムズ341号』1977年2月p56
7 占有移転禁止の仮処分の担保の実情(目的物=不動産)
占有移転禁止の仮処分のうち,目的物が不動産であるケースついて,実際に裁判所が決定した担保金額の実績も,前記の担保基準に沿ったものとなっています。
ただし,債務者が使用できない(執行官保管のみ)方式のケースでは,個別的事情によるブレが大きいです。
<占有移転禁止の仮処分の担保の実情(目的物=不動産)>
あ 債務者使用(現状維持)
執行官保管・債務者使用の場合
目的物の価格の10〜25%
い 執行官保管のみ
執行官保管(断行的)の場合
審尋を経ることが多いので一定しない
※『最近における大阪地方裁判所保全部の事件処理の実情1』/『判例タイムズ341号』1977年2月p56
8 引渡断行の仮処分の担保の実情
引渡断行の仮処分の担保基準としては,最低額だけが示されています(前記)。
実際の裁判所が決定したたんぽ金額の実績としても,個別的事情によるブレが大きいです。
<引渡断行の仮処分の担保の実情>
不動産の引渡(明渡)の断行の仮処分について
ほとんど例外なく審尋を経るので担保金額は一定しない
※『最近における大阪地方裁判所保全部の事件処理の実情1』/『判例タイムズ341号』1977年2月p56
本記事では,係争物に関する仮処分(処分禁止・占有禁止・引渡断行)の担保基準を説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で担保に関する判断は違ってきます。
実施に保全の担保に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。