【保全の担保算定における不動産の評価(用いる評価・担保負担・敷地権)】

1 保全の担保算定における不動産の評価(用いる評価・担保負担・敷地権)
2 担保の算定における不動産そのものの評価(全体像)
3 担保の算定における不動産の評価の種類
4 不動産の評価における負担の控除
5 不動産の評価における敷地利用権の調整

1 保全の担保算定における不動産の評価(用いる評価・担保負担・敷地権)

民事保全(仮差押・仮処分)の発令において,裁判所が担保の金額を定める際には,担保基準が用いられています。
詳しくはこちら|保全の担保金額算定の基本(担保基準の利用・担保なしの事例)
担保基準の中では,算定の基礎として,不動産などの保全の目的物の評価額を用いることが多いです。不動産の評価については,評価方法や利用する権利の調整などの問題があります。
本記事では,担保金額算定における不動産の評価について説明します。

2 担保の算定における不動産そのものの評価(全体像)

一般的に,不動産の評価額の算定には複数の方法があります。保全の担保金額の算定における不動産の評価額として,どの算定方法を用いるか,は明確に決まっているわけではありません。

<担保の算定における不動産そのものの評価(全体像)>

あ 前提(目的物価額基準説)

保全における担保の額の算定の基礎として
目的物(不動産)の価額を用いることがある
詳しくはこちら|保全の担保算定における目的物価額基準説と請求債権額基準説

い 土地の評価の一般論

土地には複数の種類の評価(額)がある
詳しくはこちら|不動産(土地)の評価額の基本(実勢価格・時価・不動産鑑定評価・売出価格・成約価格)
詳しくはこちら|土地の公的評価額の種類(1物4価(5価)・実勢価格との比率)

う 保全の担保の算定基礎

担保の算定で用いる不動産の価額(あ)について
統一的な見解(扱い)はない(後記※1
※『東京地裁保全部の事件処理の現況』/『判例タイムズ238号』1969年11月p11

3 担保の算定における不動産の評価の種類

保全の担保金額を算定する時に使う不動産の評価額としては,実務では固定資産評価額を用いることが多いです。これは,簡易に明確で公的な金額が把握できるための便宜的な手法といえます。
そこで,固定資産評価額実勢価格と大きく違っているようなケースでは,実勢価格を算定するようにします。とはいっても,正式な鑑定をするというわけではなく,他の公的な資料を元に実勢価格に近いといえる金額を割り出すということです。

<担保の算定における不動産の評価の種類(※1)

あ 固定資産評価額

実務では,固定資産評価額をもって目的不動産の価格とみなす取扱いがなされる例が多い

い 実勢価格(客観的評価額)

固定資産評価額(あ)が時価を反映していない場合
→不動産価格の参考となる他の資料(例=路線価・公示地価・取引事例価格)が必要となる
※民事保全規則20条1号ハ参照
※司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 補正版』日本弁護士連合会2014年p27
※『最近における大阪地方裁判所保全部の事件処理の実情1』/『判例タイムズ341号』1977年2月p56
※『東京地裁保全部の事件処理の現況』/『判例タイムズ238号』1969年11月p16
※西山俊彦著『新版 保全処分概論』一粒社1985年p116

4 不動産の評価における負担の控除

前記の不動産そのものの評価とは別に,不動産が負担している権利の調整も必要です。
具体的には,不動産に担保権が設定されている場合は,その担保権の被保全債権の金額を控除するということです。
実際にはこの被保全債権の金額(現在の残額)が把握できないことも多いです。そこで便宜的に,登記上の『債権額』や『極度額』をそのまま用いる(控除する)こともあります。

<不動産の評価における負担の控除>

あ 共通事項

目的物に担保権の負担がある場合
被担保債権額(い)を控除して目的物の価額を算定する
※司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 補正版』日本弁護士連合会2014年p27

い 理想的な被担保債権額の控除

実際の被担保債権額を不動産の価格から控除すべきである

う 実務における被担保債権額の控除

登記されている債権額・極度額実際の被担保債権額とは一致しないことの方が多い
実際の被担保債権額が不明である場合
登記されている『債権額or極度額』を控除する
※司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 補正版』日本弁護士連合会2014年p27
※『東京地裁保全部の事件処理の現況』/『判例タイムズ238号』1969年11月p16
※『最近における大阪地方裁判所保全部の事件処理の実情1』/『判例タイムズ341号』1977年2月p56

え 過剰な控除への配慮

(『う』による)控除の結果が被保全債権額以下となる場合
被保全債権額を担保の算定の基礎とする(請求債権額基準説)
※『東京地裁保全部の事件処理の現況』/『判例タイムズ238号』1969年11月p16

5 不動産の評価における敷地利用権の調整

不動産の評価においては,敷地利用権の調整をします。建物であれば,これに付随する権利(敷地利用権)として加算します。土地であれば逆に負担する権利として控除します。この方法は担保金額の算定に限らず,不動産の評価に関しての一般論です。

<不動産の評価における敷地利用権の調整>

あ 建物の評価

建物の価額は,敷地利用権の価値を加えた価額である

い 土地(敷地)の評価

建物の敷地となっている土地の価額について
敷地利用権の負担を控除した価額である
※司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 補正版』日本弁護士連合会2014年p27

本記事では,保全の担保金額の算定における不動産の評価を説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で担保に関する判断は違ってきます。
実施に保全の担保に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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