【私立大学の補助金(私学助成金)の合憲性(公の支配に属するか否か)】
1 私立大学の補助金(私学助成金)の合憲性
2 私学助成金の合憲性の問題の所在
3 『公の支配』に関する行政見解
4 私学助成金を合憲とする見解
5 私学助成金を違憲(方向)とする見解
1 私立大学の補助金(私学助成金)の合憲性
私立大学には,公的資金が補助金(私学助成金)として交付されています。
詳しくはこちら|私立大学の補助金(私学助成金)の基本(公的規制・減額や不交付)
これは,税金を財源とする公的資金が,私的な団体に交付されているということです。税金の使い方として不適切なものだという考え方もあります。私学助成金は,憲法89条に違反するかどうか,という問題があるのです。
本記事では,私学助成金の合憲性の問題について説明します。
2 私学助成金の合憲性の問題の所在
私学助成金が憲法上問題となるのは,憲法89条の規定との抵触です。税金を私的企業や団体に交付することを禁止する規定です。
条文上は,公の支配に属しない事業への公金の支出が禁止されています。
私立大学が公の支配に属しない(事業)といえるかどうか,という解釈については後述します。
<私学助成金の合憲性の問題の所在>
あ 憲法89条の条文
公金その他の公の財産は,宗教上の組織若しくは団体の使用,便益若しくは維持のため,又は公の支配に属しない慈善,教育若しくは博愛の事業に対し,これを支出し,又はその利用に供してはならない。
※憲法89条
い 問題点
私立大学が公の支配に属しない(教育の事業)であるとすれば
補助金の交付(公金の支出)は憲法違反となる
合憲性に関する見解は分かれている
※小野元之著『私立学校法講座 平成21年改訂版』霞出版社2009年p246
3 『公の支配』に関する行政見解
私学助成金が憲法89条に違反するかどうかは,条文上の『公の支配』の解釈によって違ってきます。
政府(行政)は,『公の支配』とは,公的機関から発言も指導も干渉もされないことを意味するという見解です。
<『公の支配』に関する行政見解>
あ 基本的解釈
『公の支配』に属しない事業とは,国または地方公共団体の機関がこれに対して決定的な支配力を持たない事業を意味する
い 具体的基準
『公の支配』に属しない事業とは,その構成,人事,内容および財政などについて公の機関から具体的に発言,指導または干渉されることなく事業者が自らこれを行うものをいう
※昭和24年2月11日法務庁調査2発8号法務調査意見長回答
4 私学助成金を合憲とする見解
私学助成金を合憲とする見解は多くあります。考え方としては,各種の法的な監督の機能によって政府が私立大学の運営に関与(発言・指導・干渉)しているので,公の支配が及んでいるというものです。
下級審裁判例で合憲と判断するものは複数あります。また,学説としても合憲とする見解が多いです。当然ですが,政府(行政)の見解も合憲というものです。
<私学助成金を合憲とする見解>
あ 見解の内容
私立学校については,私学助成法,学校教育法及び私立学校法に定める所轄庁の監督を受けている
詳しくはこちら|私立大学の運営や私学助成金についての政府や納税者による監督
このような監督により公の支配に属している
私学助成金は憲法89条には抵触(違反)しない
い 裁判例
東京高裁平成2年1月29日
千葉地方裁判所昭和61年5月28日
う 学説(文献)
小野元之著『私立学校法講座 平成21年改訂版』霞出版社2009年p246
新井英治郎『憲法89条をめぐる政府解釈と私学助成』/『教育行政学論叢26号』
橋本公亘『憲法 現代法律学全集2』青林書院新社p485,486
鵜飼信成『憲法』岩波全書p249〜253
林修三『憲法の話』第一法規p297〜300
佐藤功『日本国憲法概説 全訂第4版』学陽書房p498,499
小林直樹『憲法講義 下』東京大学出版会p744
有倉遼吉『日本国憲法の考え方 下』有斐閣新書p201,202
え 政府見解
内閣法制局答弁
昭和54年3月13日参議院予算委員会・真田内閣法制局長官発言
昭和57年3月10日参議院予算委員会・角田内閣法制局長官発言
5 私学助成金を違憲(方向)とする見解
私学助成金を憲法89条に違反する,あるいは疑義がある(違反の可能性がある)という学説もあります。
<私学助成金を違憲(方向)とする見解>
あ 見解の内容
私立学校は『公の支配』に属していない(方向である)
私学助成金は憲法89条に違反する(方向である)
い 学説(文献)
宮沢俊義著,芦部信喜補訂『全訂日本国憲法』日本評論社p748
清宮四郎『憲法Ⅰ 第3版』有斐閣法律学全集p266
法学協会『注解 日本国憲法 下』有斐閣p1336
本記事では,私立大学の補助金(私学助成)が憲法89条に違反するかどうか,という問題について説明しました。
実際に私立大学の補助金に関する具体的問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。