【有責配偶者の離婚請求に関する判例の歴史(否定から肯定への変化)】
1 有責配偶者の離婚請求に関する判例の歴史
2 有責配偶者の離婚請求を否定した時代(昭和20年代)
3 有責バランスによる離婚請求否定の制限(昭和30年代)
4 破綻後の不貞の有責扱いの否定(昭和46年・参考)
5 有責配偶者の離婚請求を認める基準の定立(昭和62年)
6 昭和62年判例の後の判例の傾向
1 有責配偶者の離婚請求に関する判例の歴史
夫婦関係が壊れる要因を作った者を有責(配偶者)と呼びます。例えば不貞(不倫)を行ったような有責配偶者が離婚請求をしても,裁判所は否定的な扱いをしています。しかし,時代によって違いがあります。
昭和20年代は全面的に否定していましたが,徐々に緩和されてきています。
本記事では,有責配偶者の離婚請求についての判例の変化について説明します。
2 有責配偶者の離婚請求を否定した時代(昭和20年代)
昭和20年代には,有責なのに離婚を請求することはわがままであり,道徳に反するものとして否定されていました。婚姻関係から放り出される側が踏んだり蹴ったりであると指摘する判例が有名です。
<有責配偶者の離婚請求を否定した時代(昭和20年代)>
あ 前提事情
破綻の責任がある配偶者が離婚を請求をした
例=不貞行為をした配偶者による離婚請求
い 解釈論
ア 『破綻』の認定
『破綻』自体は認められる
イ 加害者の立場
加害行為によって破綻という状況に至った
加害的行為をした者は離婚を希望している
加害者の希望が加害行為を理由として叶うことは不合理である
ウ 被害者の立場
被害者には何も落ち度がない
→被害者を保護すべきである
う 過去の判例における結論
背徳行為を行った者の離婚請求を認めることは道徳観念が許さない
→離婚請求を認めない傾向が強かった
※最高裁昭和27年2月19日(踏んだり蹴ったり判決)
※最高裁昭和29年11月5日
※最高裁昭和29年12月14日
3 有責バランスによる離婚請求否定の制限(昭和30年代)
現実には,夫婦関係を悪化させた要因が夫婦の両方にあるということが多いです。その場合,夫婦の両方に有責性(有責行為)があるということになります。
昭和30年代の判例は,離婚請求をした者が有責性があるだけで否定する態度を変更しました。離婚を請求される側に有責性があれば,離婚請求を認める(可能性がある)ことに変わったのです。
<有責バランスによる離婚請求否定の制限(昭和30年代)>
あ 共通事項
夫婦のそれぞれの有責の程度のバランスによって離婚請求の可否を決める
→有責性がある配偶者の離婚請求が認められる可能性が認められた
い 判断基準(判例)
破綻について『もっぱらまたは主として』原因を与えた当事者は,自ら離婚の請求をなしえない
※最高裁昭和38年6月7日
う 離婚を認めた最高裁判例
ア 小さい有責性
有責性の小さい者から大きい者への離婚請求を認めた
※最高裁昭和30年11月24日
※最高裁昭和38年6月7日
イ 同程度の有責性
有責性が同程度である夫婦の一方からの離婚請求を認めた
※最高裁昭和31年12月11日
え 離婚を認めた下級審裁判例
ア 暴力に起因した不貞
夫の暴力→妻の不貞という事実経過の事案について
妻は主たる責任を有しない
→妻からの離婚請求を認めた
※大阪高裁昭和38年10月15日
イ 有責性の比較
夫の有責性が妻の有責性を上回る
→妻からの離婚請求を認めた
※名古屋高裁昭和51年6月29日
4 破綻後の不貞の有責扱いの否定(昭和46年・参考)
昭和46年の判例では,(形式的な)不貞を行った者からの離婚請求を認めました。これは,従来の判例の基準が変わったというわけではありません。
男女関係が生じた時期が婚姻の破綻の後であったために,不貞(有責)として扱わなかったというものです。
<破綻後の不貞の有責扱いの否定(昭和46年・参考)>
婚姻破綻後に(形式的な)不貞関係が生じた
→有責配偶者として扱わない
→不貞行為を行った者からの離婚請求を認めた
※最高裁昭和46年5月21日
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)
5 有責配偶者の離婚請求を認める基準の定立(昭和62年)
昭和62年の判例で,有責配偶者からの離婚請求を認める基準が示されました。これは現在でも使われる(生きている)判断基準です。
判断基準は3要件でできていますが,算式のように実際の案件について明確に判断できる,というわけではありません。
<有責配偶者の離婚請求を認める基準の定立(昭和62年)>
有責配偶者からの離婚請求について
→一定の事情があれば認められることになった
考慮事情として3つの項目が示された
※最高裁昭和62年9月2日
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)
6 昭和62年判例の後の判例の傾向
昭和62年の判例(前記)の後,この判例の基準自体が変更されたということはありません。ただ,時代の流れとともに,判例の基準の適用の場面では,有責配偶者からの離婚請求を認める方向に動いています。
<昭和62年判例の後の判例の傾向>
あ 共通事項
不貞配偶者からの離婚請求について
必要とする別居期間は次第に短縮された
い 判例のまとめ
別居期間 | 離婚請求の結論 | 判例(裁判例) |
10年 | 認めた | 最高裁昭和63年12月8日 |
8年余 | 認めなかった | 最高裁平成元年3月28日 |
約7年半 | 認めた | 最高裁平成2年11月8日 |
約14年(未成熟子あり) | 認めた | 最高裁平成6年2月8日 |
6年(未成熟子あり) | 認めた | 那覇地裁沖縄支部平成15年1月31日 |
2年4か月(未成熟子あり) | 認めなかった(※1) | 最高裁平成16年11月18日 |
※1 離婚を認めた原判決を破棄した
本記事では,有責配偶者からの離婚請求の判例(解釈)が時代とともに変化してきたことを説明しました。
現在では判例の基準が確立していますが,実際には個別的な細かい事情や,主張と立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に有責配偶者の離婚請求に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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