【別居中の夫婦の交流により破綻を否定した裁判例(有責配偶者の離婚請求棄却)】
1 別居中の夫婦の交流により破綻を否定した裁判例
2 形式的状況と有責行為
3 別居中の夫婦の関係・実情
4 離婚請求についての判断(長期間の別居の否定)
5 別居中に夫婦の交流があったが離婚を認めた裁判例(概要)
1 別居中の夫婦の交流により破綻を否定した裁判例
不貞(不倫)をした者が離婚を請求したケースで,離婚が認められるためには,夫婦関係の破綻や長期間の別居などの要件をクリアすることが条件(要件)となります。
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)
詳しくはこちら|有責配偶者の離婚請求の3要件のうち長期間の別居の判断
20年間夫婦が別の場所に暮らしていましたが,その間に夫と妻が継続的に会っていたという事例があります。最終的に裁判所は,夫婦間の愛情は続いていたので,夫婦関係は破綻していない(長期間の別居はない)と判断し,離婚を認めませんでした。
本記事では,この裁判例を紹介します。
2 形式的状況と有責行為
まず,この事案の同居と(形式的な)別居の期間と夫婦の年齢をまとめます。
また,夫に有責性があることははっきりしています。
<形式的状況と有責行為>
あ 形式的状況
同居 | 別居 | 夫 | 妻 |
27年 | 20年 | 77歳 | 74歳 |
い 夫の有責行為
夫は,新聞社社長・放送会社社長などの経歴があった
夫は妻と別居し,女性A(婚外女性)と同棲するようになった
※東京高裁平成9年2月20日
3 別居中の夫婦の関係・実情
夫と妻が別の場所で暮らすようになった後の状況は,ごく一般的な別居とは違っていました。継続的に自宅で会って,寝泊まりもあったのです。
要するに,夫が別の女性との別の家庭と元の家庭の2つを維持していたような状況です。離婚に向けた家裁の調停が始まった後も夫は妻の家に行って寝泊まりすることを続けていました。
<別居中の夫婦の関係・実情>
あ 妻が認める一夫多妻状態
夫は妻に心を寄せ,妻として接していた
そこで妻は夫に女性Aとの同棲の解消を積極的に求めないようになった
夫は妻の態度に便乗して,女性Aとの同棲を継続する一方,長期間妻に対して離婚を求めたことはなかった
い 家族としての行動の維持
夫は月に何度も上京し,その際には東京の居宅で宿泊し,妻から食事や身の回りの世話を受け続けていた
東京の居宅には妻の手によって,夫の衣類など生活用品が整えられていて,夫は家族の一員として待遇され,また,単身赴任先から戻ってくる夫であり父である者として,妻やその他の家族に接していた
家族もそれを当然のこととして受け入れていた
夫は,長期間,東京の居宅で,妻や息子などの家族とともに新年を祝っていた
音は,長期間,新年に昔の部下を東京の居宅に呼んで,昔の部下との親睦の会を重ねてきたが,その世話は妻が行ってきた
う 愛情による秘密保持
夫と妻は,夫が女性Aと同棲しているなどの状況を,勤務先はもちろん,親戚知人を含めて他人に知られないよう互いに秘密の厳守に努めてきた
それは夫が職業生活など社会的な活動において栄達するのに障害となることを恐れたからであった
妻には,夫に対する愛情から,夫の社会的な栄達を自分自身の喜びとして感じていた
夫も,妻の愛情を頼りとして,社会的活動に専念して栄達を遂げてきたのである
妻のみの愛情の発露だけではなく,夫にもそれを受け入れる気持ちがあった
え 妻を感謝する夫の態度
夫は,妻の愛情に応える意味も込めて,折にふれて妻に贈り物をし,妻の旅行の際には小遣いを与え,そろって映画見物や食事をし,妻からの贈り物に礼状を出し,妻をねぎらうなどの行動をとっていた
それらは妻のの心の支えとなっていた
お 離婚調停申立後の交流
夫が妻に対して離婚を求めるようになったのは,夫が社会の一線を退いてからである
離婚調停の申立後も,夫と妻の交流が途絶えなかった
※東京高裁平成9年2月20日
4 離婚請求についての判断(長期間の別居の否定)
前記のように別居とは言っても,夫婦(や家族)が会うこと自体は続いていました。そこで,夫婦関係が破綻したといえるのか(一般的な別居と同じ扱いができるか)ということが問題となりました。
まず,夫婦では,一緒に夫と女性Aとの関係を世間に隠す状況がありました。そして,この状況は夫婦のお互いの愛情によって維持されていると判断されました。
愛情があると判断した決め手は,夫から妻へのプレゼントや礼状があったことと一緒に映画鑑賞や食事をしたことなどです。
要するに,夫と妻の気持ち(を示すような行動)から,破綻していないという結論につながったのです。
<離婚請求についての判断(長期間の別居の否定)>
あ 夫婦関係の評価
夫婦関係は,問題を含みながらもそれなりに安定した関係として長期間継続してきた
い 別居扱いの可否(否定)
夫婦関係の長期間の形骸化(破綻)とは認められない
(長期間の別居という扱いにはならない)
う 結論
夫からの離婚請求は信義誠実の原則に反する
→離婚請求は認めない
※東京高裁平成9年2月20日
5 別居中に夫婦の交流があったが離婚を認めた裁判例(概要)
本記事で紹介した事例と同じように,別居中に夫婦の交流があったけれど,別の結論となった裁判例があります。夫と妻が共同生活をする気持ちがなかったために離婚請求が認められたというものです。
詳しくはこちら|別居中に夫婦の交流があったが破綻を認めた裁判例(有責配偶者の離婚請求認容)
本記事では,(形式的な)別居中に夫婦の交流があったために,一般の別居と同じようには扱われず,離婚が認められなかった裁判例を紹介しました。
実際には,細かい事情の違いや,主張や立証のやり方次第で結論が変わることもあります。
実際に有責性のある者の離婚請求に関する問題に直面している方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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