【賃貸建物の明渡料の具体的な算定方法(計算式)と具体例】
1 賃貸建物の明渡料の具体的な算定方法(計算式)と具体例
建物の賃貸借において、更新拒絶や解約申入をする際に、通常、明渡料の支払が必要になります。
詳しくはこちら|賃貸建物の明渡料の金額の基本(考慮する事情・交渉での相場)
本記事では、建物の明渡料の算定の方法(算定式)とその具体例を説明します。
2 簡易的な建物の明渡料の算定方法(計算式)
建物の明渡料の算定方法について、明確・画一的な計算式が確立しているわけではありません。
実務では借家権価格をベースとする算定方法が単純なのでよく使われます。
考え方は、消滅することになる借家権の価格を出して、ここから正当事由が充足された程度を控除する、というものです。
繰り返しになりますが、この方法は簡易に明渡料の目安を算定するには有用ですが、正式・正確なものとは違います。
簡易的な建物の明渡料の算定方法(計算式)
3 借地権割合と借家権割合の実情
前記の簡略的な明渡料の算定の中の借家権割合の部分は、通常、借地権割合と借家権割合を使います(割合法)。
借地権割合は60〜70%というエリアが多く、また、借家権割合は30%を用いることが比較的多いです。つまり、(これらの割合を使うと)更地の18〜21%を借家権価格となるということです。
借地権割合と借家権割合の実情
あ 借地権割合の傾向
借地権割合は60~70%が多い(※3)
い 借家権割合の傾向
東京やその付近の住宅地においては、借家権割合は30%が使われる
う 借地権割合と借家権割合の掛け算
『あ』の借地権割合と『い』の借家権割合を掛けると18〜21%となる
え 借家権価格の目安
(『あ〜う』を前提にすると)
借家権価格は、更地価格の18~21%となる
お 借地権割合の補足説明(参考)
建物の明渡料の算定では一般的な借地権割合を用いる(前記※3)
一方、借地の明渡では、一般的な借地権割合を修正することが多い
詳しくはこちら|簡易的な借地権評価の方法(路線価図の借地権割合の不合理性)
4 割合法による借家権価格の計算(概要)
以上のように、建物の明渡料の計算は通常、借家権価格をベースとします。借家権価格の計算方法も含めて以上で説明しましたが、税務上の評価との違いなど、より詳しいことは別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|借家権価格の性質や位置づけと算定方法(借家権割合の相場)
5 正当事由を充足する方向に働く事情の例
更新拒絶や解約申入の正当事由が充足しているほど、明渡料は低くなります(前記)。
正当事由を充足する方向に働く事情、つまり、明渡料が低くなる方向に働く事情をまとめます。
要するに、賃貸人側に、対象建物を使う必要性が高く、また、過去に不当な行為はなかったというものや、賃借人側に、対象建物を使う必要性が低く、また、過去に不当な行為があった、というような事情があると、賃借人不利、つまり明渡料が低い方向に働くのです。
正当事由を充足する方向に働く事情の例
あ 賃貸人の必要性(が高い)
賃貸人は、特に対象建物を戻してもらわないと困窮する状況にある
賃貸人が居住していた所有建物が震災で倒壊した
い 賃借人の必要性(が低い)
賃借人は、対象建物がなくてもそれほど困らない
賃借人は別に所有しているマンションに居住していて、対象建物は物置として使っている
う 従前の経緯(賃借人)
賃借人には、これまでの経緯で不誠実な面が多かった
賃料滞納が多数あった
ペット禁止なのに飼っていた
え 従前の経緯(賃貸人)
賃貸人には特に落ち度はなかった
仮に、正当事由の充足割合が100%ということになれば、それだけで契約終了が認めらます。つまり、明渡料はゼロとなります。このような実例はあまりありませんが、実際に認められることもあります。
詳しくはこちら|建物の明渡料ゼロで明渡を認めた裁判例(有効利用目的・倉庫の転貸)
6 建物の明渡料の算定の具体例
以上で説明した簡易的な方法によって建物の明渡料を算定する具体例を示します。
正当事由の充足割合が80%なので、不足部分の20%を明渡料で埋める”という状態がよく分かると思います。
建物の明渡料の算定の具体例
あ 借家権価格の算定
借家権価格
= 更地価格 × 借地権割合 × 借家権割合
= 5000万円 × 60% × 30%
= 900万円
い 正当事由の充足の程度の反映
明渡料
= 借家権価格(あ)×(100% − 正当事由の充足割合 )
= 900万円 × (100% − 80%)
= 180万円
7 特殊事情の反映(営業用の賃貸借など)
以上で説明した明渡料の算定方法はあくまでも簡易的なものです。明渡料の算定で考慮すべき事情をすべて反映しているわけではありません。
特に、営業用の建物の賃貸借の場合には、営業への影響の反映が必要になります。
つまり、営業店舗などで、退去させられると収入が途絶えるという場合です。
本来であれば営業利益を得られたはずなのに、退去により得られなくなったことになります。もちろん、移転して、移転先で営業を続ければ良いのですが、回復するまでの一定期間は収入が減少しているということになるのが一般です。
他には、賃料や保証金(敷金)が、相場よりも異常に低いとか高い、という事情があれば、これも明渡料の算定で反映させることになります。
明渡料の算定で考慮すべき事情については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|賃貸建物の明渡料の金額の基本(考慮する事情・交渉での相場)
本記事では、建物の賃貸借契約の更新拒絶や解約申入における明渡料の金額の実務的な算定方法について説明しました。
実際には、個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に建物賃貸借の明渡料に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。