【新所有者が承継する期間と契約終了に関する事項(存続期間・解除関連・転貸譲渡承諾)】

1 新所有者が承継する期間と契約終了に関する事項

対抗力のある賃借権の目的物が譲渡されると、新所有者賃貸人たる地位を承継します。いわゆるオーナーチェンジのことです。
詳しくはこちら|対抗力のある賃借権の目的物の所有権移転と賃貸人たる地位の承継(基本)
この時に、基本的に従前の賃貸借契約に関する事項はほぼすべて承継されます。しかし、個々の事項によって解釈の問題があるものもあります。
詳しくはこちら|賃貸人たる地位を承継した新所有者に承継される事項の全体像
本記事では、期間と契約終了に関する事項について、承継されるかどうかの問題を説明します。

2 存続期間(残存期間)→承継する

賃貸借契約の存続期間は、新所有者に承継されます。
重要な事項なので、賃借権登記の登記事項の1つとなっています。

存続期間(残存期間)→承継する

あ 存続期間の承継

賃貸借の存続期間(残存期間)は維持される(承継される)

い 登記(公示)

存続期間は賃借権登記の相対的登記事項である
※不動産登記法81条2号

3 旧法適用の状態→承継する

賃貸借の関係については基本的にすべて承継されるので、旧法が適用される状態も承継されます。そこで期間を中心とする各種ルールは旧法が引き続き適用されます。
なお、「承継」と言わなくても、契約の始期は変わらない、という説明もできます。

旧法適用の状態→承継する

借地法・借家法(旧法)の適用がある場合には、その特別法の適用状態も原則としてそのまま承継される
借地借家法(新法)ではなく旧法が引き続き適用される

4 賃料滞納状態(解除事由)→原則承継なし

(1)賃料滞納状態(解除事由)→原則承継なし

前所有者の時期に発生した解除事由が新所有者に引き継がれるかどうかという問題があります。
典型的な賃料の滞納という状態は、原則として新所有者に承継されません。ただし、賃料債権を新所有者が譲り受けたという場合には、滞納の状態も引き継がれます。つまり、新所有者は賃料滞納を理由として解除することができます。

賃料滞納状態(解除事由)→原則承継なし

あ 賃料滞納の状態の承継

賃料滞納について
新所有者は、滞納分の債権を譲り受けた場合にのみ、滞納を理由に解除権を行使できる
※大判昭和10年12月21日
※大判昭和12年5月7日
※大判昭和14年8月19日
※東京高裁昭和33年11月29日

(2)旧所有者の解除権→消滅

前述のように、旧所有者時代(譲渡前)に賃料滞納があった場合、新所有者は解除できません。では、旧所有者が解除することはできるかというと、今度は、旧所有者はすでに賃貸人ではないという理由でこれもできません。

旧所有者の解除権→消滅

賃貸人の地位が譲受人に移転した以上は、旧賃貸人(譲渡人)は契約解除権を失う
※最判昭和39年8月28日

(3)地上権のケース→地代滞納状態の承継あり

なお、賃借権(賃貸借)ではなく地上権が設定されているケースで、土地の譲渡がなされて、地上権設定者の地位を新所有者が承継した場合は、地代滞納の状態は新所有者に承継されます。

地上権のケース→地代滞納状態の承継あり

地上権のケースにおいて地代滞納の効果は新所有者に当然に承継される
滞納が新旧地主を通じて2年以上になれば、新所有者は地上権の消滅請求(民法266、276条)をすることが
地代債権の譲渡の有無に関わらない

5 解約申入状態→原則承継する

建物の賃貸借では、期間の定めがないということもあります。この場合に、賃貸人が解約申入(告知)をすることができるケースもあります。
前所有者が解約申入(の通知)をしてから契約終了の効果が発生するまでの間に目的物を譲渡した場合、新所有者は、解約申入をしている状態を承継しません。つまり、当初予定されていた契約終了の効果が発生する時期が到来しても契約は終了しないのです。
以上のことは、期間の定めのある借地や建物賃貸借で、前所有者が更新拒絶を通知した後、期間満了までの間に目的物を譲渡したというケースでも同じように考えられます。

解約申入状態→原則承継する

あ 原則=承継あり

期間の定めのない建物賃貸借における解約申入状態について
→原則として承継しない
※大阪控判昭和18年10月29日

い 例外=承継なし

旧家主が示した正当事由が新家主になったからといって別段変更しないと認められる特段の事情があるときは、旧家主のなした解約申入の効力は新家主にもそのまま承継される
※大阪地判昭和33年6月13日

う 正当事由の存在が要求される期間→解約申入後6か月(参考)

正当事由は解約申入後6か月満了時にもなお存在しなければならない
※最判昭和29年3月9日

え 更新拒絶への適用

『あ・い』については、期間の定めのある賃貸借(借地・建物賃貸借に共通)にも適用される可能性がある

6 参考情報

参考情報

※幾代通稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p194〜196
※我妻榮ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p1302、1303

本記事では、対抗力のある賃借権の目的物の譲渡によって新所有者が賃貸人たる地位を承継する場合に、新所有者に承継される事項のうち、期間や契約終了に関するものを説明しました。
実際には、細かい事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に不動産の譲渡に伴う賃貸借契約に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

共有不動産の紛争解決の実務第2版

使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記・税務まで

共有不動産の紛争解決の実務 第2版 弁護士・司法書士 三平聡史 著 使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記、税務まで 第2班では、背景にある判例、学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補! 共有物分割、共有物持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続きを上手に使い分けるためこ指針を示した定番書!

実務で使用する書式、知っておくべき判例を多数収録した待望の改訂版!

  • 第2版では、背景にある判例・学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補!
  • 共有物分割、共有持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続を上手に使い分けるための指針を示した定番書!
  • 他の共有者等に対する通知書・合意書、共有物分割の類型ごとの訴状、紛争当事者の関係図を多数収録しており、実務に至便!
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【新所有者が承継する敷金(返還義務)に関する事項と売買における敷金引継】
【不正指令電磁的記録作成等罪の基本(条文と解釈)】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00