【登記の対抗力の有効要件の全体像(形式的有効要件と実質的有効要件の内容)】
1 登記の対抗力の有効要件の全体像(形式的有効要件・実質的有効要件)
2 登記の対抗力の発生メカニズム(民法177条の規定)
3 登記の実質的有効要件
4 登記と実体の部分的な合致の扱い
5 登記の形式的有効要件
6 実質的・形式的有効要件の具体的な判断基準(概要)
7 民法177条の第三者に該当しない実質的無権利者(概要)
8 無効登記の追完(概要)
9 登記の流用(概要)
10 不正な登記による公正証書原本不実記載等罪(参考)
1 登記の対抗力の有効要件の全体像(形式的有効要件・実質的有効要件)
不動産の登記があれば対抗力によって権利を確実に獲得することができます。
詳しくはこちら|対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本
しかし,特殊な事情がある場合は,対抗力が生じない(無効)ことになり登記を得ていても権利(所有権など)を得られない結果となることもあります。
そこで,どのような事情があれば登記の対抗力が生じない(無効)ことになるのか,ということが問題となります。
本記事では,登記の対抗力の有効要件の基本的な理論を説明します。
2 登記の対抗力の発生メカニズム(民法177条の規定)
登記が有効かどうか,という問題は,登記が対抗力を持つかどうかということです。登記の対抗力は民法177条の規定により与えられます(法的効果として生じます)。
そこで最初に,民法177条の条文を押さえておきます。
<登記の対抗力の発生メカニズム(民法177条の規定)>
あ 対抗力の発生メカニズム
対抗力は民法177条の規定により不動産登記に付与された効力である
民法177条の規定に合致する場合に対抗力が発生する
※舟橋諄一ほか編『新版 注釈民法(6)物権(1)補訂版』有斐閣2009年p443
い 民法177条の条文
第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
3 登記の実質的有効要件
民法177条の条文から,不動産に関する物権の得喪・変更(物権変動)があることが,対抗力が生じる条件(の1つ)であるといえます。これを実質的有効要件と呼びます。
つまり,物権変動が登記されていても実体がない場合は登記は無効となります。登記されている不動産や名義人が実在しない場合も,実体がないことに変わりはありません。同様に登記は無効となります。
<登記の実質的有効要件>
あ 条文の文言
民法177条は『不動産に関する物権の得喪及び変更』を対抗力の対象としている
→『不動産に関する物権の得喪及び変更』が存在しない場合には,およそ対抗力が生じる余地はない
=物権変動の実体が存在しないのになされた登記に対抗力はない
い 実質的有効要件
登記が実体に合致していることが,登記の有効要件の1つである
う 実体が欠ける状況
『ア〜ウ』のいずれかに該当する場合,登記には実体がない
→登記は無効となる
ア 登記された物権変動が存在しないイ 不動産が実在しないウ 登記名義人が実在しない
※舟橋諄一ほか編『新版 注釈民法(6)物権(1)補訂版』有斐閣2009年p443
4 登記と実体の部分的な合致の扱い
登記と実体がまったく合致していない場合には,前記のように実質的有効要件を欠くので登記は無効となります。
しかし,一部は合致しているというケースがよくあります。この場合には有効か無効かが一律に決まるわけではありません。登記と実体のズレの程度によって判定が違ってきます。
<登記と実体の部分的な合致の扱い>
あ 完全一致の要求(否定)
登記と実体が完全に一致していることまでは必要ではない
完全には一致しない場合であっても,登記の効力が直ちに否定されるわけではない
い 不一致の程度の判断
どの程度のズレまでなら許容されるのかという問題となる
※舟橋諄一ほか編『新版 注釈民法(6)物権(1)補訂版』有斐閣2009年p443,448
5 登記の形式的有効要件
民法177条の条文からは,もう1つの有効要件を読み取れます。
不動産登記法などの法律の規定に従ってなされた登記について対抗力が発生すると規定されているのです。このように登記(申請)が適法になされたことを形式的有効要件と呼びます。
そうすると,仮に実体と合致している登記であっても,申請プロセスに不備(瑕疵)があると無効となってしまうことになります。
しかしそのように単純には判断できません。登記申請の違法性の程度によって判定が異なります。
<登記の形式的有効要件>
あ 条文の文言
民法177条は『不動産登記法(略)その他の登記に関する法律の定めるところに従い』なされた登記を対抗力の対象としている
→登記が適法になされたものでない場合には対抗力が生じない
い 形式的有効要件
登記が適法になされたことが,登記の有効要件の1つである
う 登記申請の適法性の判定
必要となる登記申請の適法性についての一般的基準はない
当事者間の利益衡量によって判断する傾向がある
=具体的事案の紛争当事者間において登記の対抗力を認めるのが適当かという観点から結論を導くことが多い
当事者間の利益衡量
※舟橋諄一ほか編『新版 注釈民法(6)物権(1)補訂版』有斐閣2009年p443
6 実質的・形式的有効要件の具体的な判断基準(概要)
以上で,登記の実質的有効要件と形式的有効要件の内容を説明しました。しかしいずれも,具体的事案についてハッキリと判断できないことが多いです。
そこで,これらの要件を元に判断する基準や枠組みについては,それぞれ別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|登記の実質的有効要件の判断の具体例(登記原因・権利内容・名義人の不一致)
詳しくはこちら|登記の形式的有効要件の状況別の判断基準(物権変動の当事者間・対抗関係)
7 民法177条の第三者に該当しない実質的無権利者(概要)
実質的有効要件を欠くために登記が無効となる具体的状況の1つに実質的無権利というものがあります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|民法177条の第三者に該当しない実質的無権利者の具体例
8 無効登記の追完(概要)
実体を伴っていない登記は実質的有効要件を欠くので無効です(前記)。しかしその後の権利変動によって実体が備わったというケースもあります。
この場合の登記も原理的には無効ですが,状況によっては有効と扱われる(ような状況になる)こともあります。
詳しくはこちら|無効登記の追完の有効性・対抗力(無効主張の制限)
9 登記の流用(概要)
有効な登記でも,後から実体を失って無効となることがあります。滅失した建物の登記や,弁済によって消滅した抵当権の登記が抹消せずに残ったままになっているような状況です。この登記を別の建物や別の債権の担保として流用してしまうケースもあります。
この場合も,原理的には無効ですが,状況によっては有効と扱われる(ような状況になる)こともあります。
詳しくはこちら|流用した登記の有効性・対抗力(無効主張の制限)
10 不正な登記による公正証書原本不実記載等罪(参考)
登記申請に虚偽があり,真実と異なる(不実の)登記がなされると,刑事責任が生じることがあります。公正証書原本不実記載等罪という犯罪です。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|公正証書原本不実記載等罪の基本(条文と公正証書の意味)
なお,登記の有効性と公正証書原本不実記載等罪(刑事責任)の成否は一致するわけでありません。たとえば,登記原因を贈与とすべきところを売買として申請してしまっても,対抗力は有効となりますが,公正証書原本不実記載等罪は成立する,というのが原則です。
本記事では,登記の有効要件の原理的な理論と,(実質的・形式的)有効要件の内容を説明しました。
実際には,具体的な状況や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に不正の疑いのある登記に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。