【登記の形式的有効要件の状況別の判断基準(物権変動の当事者間・対抗関係)】

1 登記の形式的有効要件についての状況別の判断基準
2 手続的瑕疵のある登記の具体例(前提)
3 物権変動の当事者間で登記の有効性が問題となる状況
4 物権変動の当事者間における形式的有効要件
5 対抗関係にある者の間で登記の有効性が問題となる状況
6 対抗関係にある者の間における形式的有効要件(判断基準)

1 登記の形式的有効要件についての状況別の判断基準

登記を得ても,対抗力が有効ではない(無効)場合は,結局,所有権(などの権利)を得られないことになります。登記の対抗力が有効であるための要件は,形式的有効要件と実質的有効要件に分けられます。
詳しくはこちら|登記の対抗力の有効要件の全体像(形式的有効要件と実質的有効要件の内容)
本記事では,登記の形式的有効要件が問題となる状況を2つに分けて,判断基準や判断の枠組みを説明します。

2 手続的瑕疵のある登記の具体例(前提)

登記の形式的有効要件を簡単にいうと,登記の申請手続が適法になされていることです。登記の対抗力の条文(民法177条)から読み取れる根本的なルールです。
具体的には,登記申請の手続に瑕疵(不正)があると登記は無効となるという意味です。登記申請手続の瑕疵の具体例は虚偽の書類が使われたとか,権限のない者が申請したとか,登記申請の内容に不正があったというようなものです。

<手続的瑕疵のある登記の具体例(前提)>

あ 書類の不正

偽造書類を添付してされた登記申請

い 権限の不正

無権代理人によりされた登記申請

う 申請内容の不正

申請に基づき中間省略登記がされた
※舟橋諄一ほか編『新版 注釈民法(6)物権(1)補訂版』有斐閣2009年p444

3 物権変動の当事者間で登記の有効性が問題となる状況

登記の形式的有効要件の判断の枠組みは,有効性が問題なる状況によって異なります。対立する当事者の関係が,物権変動(取引)の当事者なのか,対抗関係にある者なのかという2つで違うのです。
まず,物権変動の同時者の間で登記の有効性が問題となる状況の具体的な状況をまとめます。
この場合は,登記の対抗力が有効か無効か,という問題ではありません。単純に抹消登記請求を認めるべきかどうか(手続的瑕疵のある登記を維持させるべきかどうか)という判断です。
登記が抹消された場合には,当然,対抗力も失われます。その意味で間接的に対抗力の有無と関係しています。

<物権変動の当事者間で登記の有効性が問題となる状況>

あ 登記の有効性の対立の状況

物権変動の直接の当事者間において
登記が有効かどうかについて対立している

い 主張する請求の内容

抹消登記手続請求権を主張している

4 物権変動の当事者間における形式的有効要件

物権変動の当事者の間で登記の形式的有効要件を判断する時には3つの要件を使います。
登記が実体と合致していることは大前提であり,さらに登記義務者に帰責性があり,最後に登記権利者を保護すべき状況であるという場合に初めて(手続に瑕疵がある登記であっても)有効として扱われるのです。

<物権変動の当事者間における形式的有効要件>

あ 判断基準

『い〜え』のすべてが成り立つ場合に登記は有効となる

い 実体との合致

実体と合致している

う 登記義務者の帰責性

(有効性が問題となっている登記における)登記義務者側において,登記を否定する正当な利益がない

え 登記権利者の要保護性

登記権利者側において,当該登記の申請手続が適法なものであると信じるにつき正当な事由があった
※舟橋諄一ほか編『新版 注釈民法(6)物権(1)補訂版』有斐閣2009年p444,445
※最高裁昭和41年11月18日参照
※最高裁昭和42年10月27日参照
※最高裁昭和54年4月17日参照

5 対抗関係にある者の間で登記の有効性が問題となる状況

次に,対抗関係にある者の間で登記の形式的有効要件が問題となる状況の具体例を説明します。これはストレートに対抗力の有無(有効性)の判断です。
典型例は2重譲渡があったケースでの登記を得ていない方の譲受人が登記を得た譲受人に対して,登記手続の瑕疵(不正)を理由に抹消登記を請求している状況です。

<対抗関係にある者の間で登記の有効性が問題となる状況>

あ 登記の有効性の対立の状況

手続的瑕疵のある登記がされた
対抗関係にある者の間において対抗力の有無について対立している

い 主張する請求の内容

抹消登記手続請求権を主張している

う 対抗関係にある状況の例

2重譲渡の第1譲受人と第2譲受人

6 対抗関係にある者の間における形式的有効要件(判断基準)

対抗関係にある者の間登記の形式的有効要件を判断する枠組みは,両者の事情を比較するという単純なものです。
個別的な事情から,保護すべきかどうかという実質的な評価をするのです。明確な基準というものがあるわけではありません。

<対抗関係にある者の間における形式的有効要件(判断基準)>

あ 判断の枠組み

両方の者(2重譲渡の各譲受人)の事情を比較考量して決定する

い 登記獲得者の要保護性が欠ける例

登記を得た者に適法な登記であると信じる正当な理由がない場合には,他方の者に抹消登記手続請求権が認められる
=(この当事者間においては)対抗力を失う

う 背信的悪意者排除理論(参考)

登記を得た者の背信性が強い場合には,手続的瑕疵の有無に関係なく同様の結論となる
※不動産登記法5条参照
詳しくはこちら|登記を得た者の主観による対抗力への影響(背信的悪意者排除理論)
※舟橋諄一ほか編『新版 注釈民法(6)物権(1)補訂版』有斐閣2009年p445,446
※最高裁昭和50年7月15日参照

本記事では,登記の形式的有効要件の判断の基準や枠組みを説明しました。
実際には,具体的な状況や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に不正な登記に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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