【流用した登記の有効性・対抗力(無効主張の制限)】
1 流用した登記の有効性・対抗力(無効主張の制限)
2 登記の流用の意味と具体例
3 流用した登記の有効性
4 登記申請の当事者による無効主張の制限
5 流用登記の負担を承服した購入者の無効主張の制限
6 仮登記の流用的移転の後の購入者の無効主張の制限
7 登記の無効主張の制限と登記の有効性との関係
1 流用した登記の有効性・対抗力(無効主張の制限)
不動産の登記を流用するというケースが実際にあります。登記の対抗力の基本原則からは有効要件を欠くものとして無効となります。
詳しくはこちら|登記の対抗力の有効要件の全体像(形式的有効要件と実質的有効要件の内容)
しかし、実際には裁判所が有効となったような判断をすることもあります。
本記事では、流用された登記の有効性について説明します。
2 登記の流用の意味と具体例
まず、登記の流用とは、もともと有効になされた登記が形式だけ残っている状況で、まったく別の権利を示す登記として使うというものです。
滅失した後に残ったままの建物の登記とか、弁済して消滅した後に残ったままの抵当権の登記を別の建物や抵当権として便宜的に再度使うというケースが典型です。
<登記の流用の意味と具体例>
あ 登記の流用の意味
登記すべき事実or物権変動が発生した場合に
新たに登記をしないで
既存の登記(い)を利用して、当該事実or法律関係を公示する登記とすること
い 既存の登記の意味
過去に有効に実体を反映していた
その後実体が消滅した
しかし抹消登記手続がなされていない
う 登記の流用の典型例
ア 滅失した建物の登記
滅失した建物の登記が残っている
これを新築建物の登記として流用する
イ 消滅した抵当権の登記
消滅した抵当権の登記が残っている
これをその後に設定された抵当権の登記として流用する
※舟橋諄一ほか編『新版 注釈民法(6)物権(1)補訂版』有斐閣2009年p454
3 流用した登記の有効性
もともと、実体と登記が一致していることで初めて登記の対抗力が認められます。流用した登記は、実体と一致していないので、原則として対抗力はない(無効)となります。
<流用した登記の有効性>
あ 原則
登記と実体が異なる
→登記は無効である
詳しくはこちら|登記の有効要件の全体像(形式的有効要件と実質的有効要件の内容)
登記と実体に同一性がないので更正登記はできない
い 判例(滅失建物)
ア 登記上の建物の同一性判断(前提)
(登記手続上は)「社会通念上もはや建物といえない程度にまで取り壊され、登記により公示された物理的な存在を失うに至つた場合には」、再築又は移築をしても、「それはもはや登記されたものとは別個の建物といわざるを得ないのであり、その間に”物理的な同一性を肯定することはできない。」
※最判昭和62年7月9日
詳しくはこちら|建物の移動(移築・再築・曳行)における建物の同一性・「滅失」該当性
イ 登記の流用(否定)
滅失した建物の登記の流用について
登記の効力を認めない
※最高裁昭和40年5月4日
う 学説
いくつかの見解がある
登記の流用前に出現した第三者と流用後に出現した第三者とで区別する見解が通説とされている
※舟橋諄一ほか編『新版 注釈民法(6)物権(1)補訂版』有斐閣2009年p454〜456
4 登記申請の当事者による無効主張の制限
実際に登記が流用されたケースの判例をいくつか紹介します。
最初に、流用されたことを理由として登記が無効であると主張した者が、流用した登記の申請の当事者であったという事例です。
このような特殊な事情があったので、裁判所は、登記の無効を主張できないと判断しました。抹消登記請求を認めなかったので、登記は残ることになりました。
ただし、裁判所は登記(の対抗力)は有効であると判断したわけではありません(後述)。
<登記申請の当事者による無効主張の制限(※1)>
あ 事案(登記の流用)
抵当権設定登記の流用について
登記申請の当事者Aが流用登記の無効を主張した
い 裁判所の判断
登記申請の当事者には自ら流用登記の無効を主張する正当な利益がない
→民法177条の第三者に該当しない
→Aは登記(の対抗力)の無効を主張することはできない
→流用登記の抹消登記請求を認めなかった
※最高裁昭和37年3月15日
5 流用登記の負担を承服した購入者の無効主張の制限
抵当権の登記が流用されたケースです。この不動産を購入した者が流用された登記であることを理由に流用登記の抹消を請求しました。
この購入者の購入代金は抵当権の負担が存在することを前提にして、被担保債権分を差し引いた金額でした。実質的(経済的)に負担を受入れているということを考慮して、裁判所は流用登記の無効を主張することを認めませんでした。
これも、積極的に流用登記が有効であると判断したわけではありません(後述)。
<流用登記の負担を承服した購入者の無効主張の制限(※2)>
あ 事案(登記の流用)
流用された抵当権の登記が残っていた
Aはこの状態を理解して不動産を購入した
Aは抵当権の被担保債権額を控除した代金額で購入した
Aは抵当権者に対して抵当権設定登記の無効(抹消登記請求)を主張した
い 裁判所の判断
Aには登記の欠缺を主張する正当な利益がない
→民法177条の第三者に該当しない
→Aは登記(の対抗力)の無効を主張することはできない
→流用登記の抹消登記請求を認めなかった
※大判昭和11年1月14日
6 仮登記の流用的移転の後の購入者の無効主張の制限
担保目的の所有権の仮登記が流用されたケースです。このケースでは、流用する際に、形式的に仮登記の移転をする(付記)登記が行われていました。
そして、流用した登記の無効を主張する者は、この付記登記の後に不動産を購入した者でした。
裁判所は、この時間的な順序を考慮して、購入者が流用登記の無効を主張することを認めませんでした。
これも、積極的に流用登記が有効であると判断したわけではありません(後述)。
<仮登記の流用的移転の後の購入者の無効主張の制限(※3)>
あ 事案(登記の流用)
金銭債権担保のための所有権移転請求権仮登記があった
登記上の所有者はA(債権者)となっていた
この仮登記を別の債権者Bの債権の担保として用いることにした
所有権移転請求権仮登記をAからBに移転する付記登記を行った
=(実質的な)登記の流用である
その後、Cが不動産を取得した
CはBに対して抹消登記手続請求をした
い 裁判所の判断
Cは流用としての移転の付記登記の後に所有権の登記を得た
→民法177条の第三者に該当しない
→Cは登記(の対抗力)の無効を主張することはできない
→流用登記(所有権移転請求権仮登記)の抹消登記請求を認めなかった
※最高裁昭和49年12月24日
7 登記の無効主張の制限と登記の有効性との関係
以上のように、流用した登記について、無効を主張することが認められなかった判例があります。
ここで裁判所は流用登記を有効と認めたと考えるのは誤解です。
流用登記(の対抗力)の有効性そのものについては、判例はコメントしていないのです。
むしろ、流用登記(の対抗力)は無効であることを当然の前提として、その上で、個別的な当事者の事情を理由にして、無効であると主張することを制限しているのです。
<登記の無効主張の制限と登記の有効性との関係>
あ 無効主張の制限
前記※1、※2、※3の判例について
いずれも登記の無効の主張を認めなかった
い 対抗力(登記の有効性)の判断
裁判所が積極的に登記の対抗力がある(登記は有効である)という判断をしたわけではない
『登記の無効の主張』をすることができるかどうかを判断している
→流用登記は無効であることが前提となっているといえる
無効主張を否定した結果として、流用登記の対抗力があるのと同じ状態になったにすぎない
※舟橋諄一ほか編『新版 注釈民法(6)物権(1)補訂版』有斐閣2009年p456
本記事では、流用した登記の有効性について説明しました。
以上の説明のように、具体的な状況によって結論は違います。また実際には、主張・立証のやり方次第でも結論が違ってきます。
実際に不正な登記に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。