【試行的面会交流により母親の誘導を見抜いて親権者変更を認めた事例】
1 試行的面会交流により母親の誘導を見抜いて親権者変更を認めた事例
2 母親の影響が疑われる子供の面会交流拒否(事案)
3 試行的面会交流における子供の態度の変化(事案)
4 親権者変更についての裁判所の判断
5 親権者変更と監護権者の維持の実質的意義
1 試行的面会交流により母親の誘導を見抜いて親権者変更を認めた事例
離婚の際に子供の親権者を父か母に定めます。その後,状況によっては親権者を変更できることがあります。
詳しくはこちら|親権者・監護権者の変更の手続(家裁の審判・子の意見の聴取)と要件
裁判所が親権者の変更を認めたケースの中に,子供が父親との面会交流を拒否するように母親が誘導していたことが決め手となったものがあります。とても参考となる実例です。
本記事では,この裁判例を紹介します。
2 母親の影響が疑われる子供の面会交流拒否(事案)
事案を順に説明します。
夫婦が離婚した時には,母が子供の親権者となりました。そして父は月に1回,子供と面会交流をしていました。
しかし,子供が父との面会を拒否するような態度をみせるようになってきたのです。
父は,母が子供を誘導していると思いました。そこで家裁に親権者変更の申立をしました。
<母親の影響が疑われる子供の面会交流拒否(事案)>
あ 離婚に伴う合意
夫婦が離婚するに際して,母を親権者とすることで合意した
母親が子供(小学生)を引き取り育てることになった
子供と父親との面会交流を月1回実施することについても父・母は合意した
い 実施された面会交流の状況
子供が父との面会交流を拒否する態度をみせていた
う 父による親権者変更の申立
父親は,母親が子供に面会交流を拒絶するよう仕向けていると感じた
父は家裁に親権者の変更を申し立てた
※福岡家裁平成26年12月4日
3 試行的面会交流における子供の態度の変化(事案)
当然,母は,子供を誘導しているということを自分かた認めることはありませんでした。
家裁は,状況を把握するために試行的面会交流を複数回実施しました。裁判所のプレイルームで父と子供が面会し,その状況を家裁の調査官(や裁判官)が観察するという方法です。
詳しくはこちら|子供の意思の調査のための試行的面会交流の意義や実例
初回は子供と父は仲良くしていましたが,次の時には子供が父との面会を拒否したのです。
これだけだと子供が父親を嫌っているというようにも思えるような結果です。
<試行的面会交流における子供の態度の変化(事案)>
あ 試行的面会交流の実施
家裁内のプレイルームで面会交流を2回実施した
プレイルームには父親と子供だけが入る
この状況をマジックミラー越しに母親が見ている(立ち会う)
い 子供の状況変化
1回目 | 父親と2人で遊んだ |
2回目 | 子供が面会交流を拒否した |
※福岡家裁平成26年12月4日
4 親権者変更についての裁判所の判断
試行的面会交流の際,家裁の調査官はより広く状況を把握するように努力しています。このケースでは,初回の試行的面会交流の直後に母親が子供と再会した時に,ママが見ていたということを言ったのです。
裁判所は,母親のこのような態度が,子供が父親との面会を拒否したことにつながっていると判断しました。つまり,母親が子供を誘導したことを見抜いたのです。
子供の立場で考えると,母親への迎合です。本当は好きなパパと毎日一緒にいるママとの葛藤状態にあり困っている状態です。
そこで,結論として裁判所は親権者を父に変更しました。ただし,監護権者は母親のままとしました。
<親権者変更についての裁判所の判断>
あ 事実認定
試行的面会交流の1回目の後,母親が子供に『(マジックミラーで)ママ見てたよ』と言った
そのため,子供は1回目の交流に強い罪悪感を抱いた
そして『母親に対する忠誠心を示すため』に,父親に対する拒否感を強めた
い 裁判所の評価
父親と子供の関係はもともと良好だった
面会を実施できない主な原因は母親にある
円滑な面会交流実現のためには親権者変更以外に手段がない
子供を葛藤状態から解放すべきである
う 裁判所の判断(結論)
親権を父親に変更する
監護権は母親のまま維持する
(親権と監護権を分属させる)
※福岡家裁平成26年12月4日
なお,一般的に子供は親に迎合する傾向があります。
詳しくはこちら|両親の対立状況での子供の心理(親への迎合・忠誠葛藤や敵意の発生)
そこで,調査では子供の真意を把握するための工夫が必要とされます。
詳しくはこちら|家裁調査官による子供の意見の調査(真意を把握する工夫や心理テスト)
5 親権者変更と監護権者の維持の実質的意義
前記の結論は,結局,母親のもとに子供がいる状態に変化はありません。
しかし,面会交流の妨害が親権を奪われることにつながるという意味では今後の実務への影響が大きいといえます。
つまり,状況によっては面会交流を妨害した親から親権と監護権の両方を奪うという判断をしやすくなっているのです。
<親権者変更と監護権者の維持の実質的意義>
あ 監護権者である母の状況
母親が監護権者である
→母親が子供を養育する
い 親権者である父の状況
父親は子供を引き取ることができない
父親が得る実益はあまりない
詳しくはこちら|『親権』の細かい内容|親権・監護権の分属|誤解が多いので条項化の際は要注意
う 親権者変更を認めた審判の意義
(福岡家裁平成26年12月4日の審判により)
面会交流の妨害により親権者変更を認めた実例ができた
=面会交流の妨害が子の監督の適性にマイナスとなると位置づけられた
→面会交流を妨害したら子供を引き渡すという判断が出やすい状態となったといえる
本記事では,試行的面会交流の観察により,親権者を変更した実例を説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に親権者や監護権者の変更が望ましい状況にある方や,変更を求められている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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