【家事調停・審判の管轄の標準時(家事事件手続法8条の解釈)】
1 家事調停・審判の管轄の標準時
2 管轄の標準時の家事事件手続法の条文
3 条文上の『手続開始』の解釈
4 審判移行・付調停における手続開始時の解釈
5 標準時の位置づけ
1 家事調停・審判の管轄の標準時
家事調停や審判では,管轄(どの裁判所に申し立てるべきか)について細かいルールがあります。
詳しくはこちら|家事事件の管轄のまとめ(調停・審判・訴訟での違いと優先管轄)
管轄のルールを適用する際には,いつの時点の状況で判断するのか,という問題があります。これを管轄の標準時と呼びます。
本記事では,家事事件手続法8条に規定されている管轄の標準時について説明します。
2 管轄の標準時の家事事件手続法の条文
最初に,家事事件手続法8条の条文を押さえておきます。比較的単純な内容です。
<管轄の標準時の家事事件手続法の条文>
(管轄の標準時)
第八条 裁判所の管轄は、家事審判若しくは家事調停の申立てがあった時又は裁判所が職権で家事事件の手続を開始した時を標準として定める。
3 条文上の『手続開始』の解釈
管轄を判断する基準となる基本的なタイミングは,手続開始の時点です。手続が開始されるプロセスには申立と職権の2つがありますが,手続開始といえます。
<条文上の『手続開始』の解釈>
あ 申立
『家事審判若しくは家事調停の申立てがあった時』とは
家事審判or家事調停の申立書が裁判所に受理された時である
い 職権
『裁判所が職権で家事事件の手続を開始した時』とは
裁判所が家事事件として立件した時である
※金子修編著『逐条解説 家事事件手続法』商事法務2013年p16
4 審判移行・付調停における手続開始時の解釈
家事審判や調停の手続が開始するプロセスには,申立・職権以外の特殊なものもあります。自動的に審判に移行するというものと,裁判所が訴訟や審判から調停に切り替えるというものです。
いずれの場合でも,これらによって審判や調停が始まった(切り替わった)時点が標準時となります。
<審判移行・付調停における手続開始時の解釈>
あ 審判移行
家事調停が不成立となり家事審判の手続に移行した場合(272条4項)
詳しくはこちら|別表第2事件の家事調停の不成立による審判移行(対象事件・管轄・資料の扱い)
家事審判事件の管轄の標準時は家事審判の手続への移行時である
い 付調停
訴訟or家事審判の手続から調停に付した場合(274条1項)
詳しくはこちら|一般的付調停|事実上の調停前置・必要的付調停との違い
家事審判事件の管轄の標準時は調停に付した時である
※金子修編著『逐条解説 家事事件手続法』商事法務2013年p16
5 標準時の位置づけ
標準時とは要するに,この時点の状況を前提として管轄を判断するということです。逆に,標準時
の後に状況が変化しても,管轄の判断には影響しません。
なお,移送の判断では標準時以降の事情も考慮されます。
詳しくはこちら|家事事件・移送申立|係属裁判所が変更する制度|基準・典型例
<標準時の位置づけ>
『標準として定める』の解釈について
この時点において管轄原因が認められれば足りる
その後に管轄原因が消滅しても管轄に影響を及ぼさない
※金子修編著『逐条解説 家事事件手続法』商事法務2013年p16
本記事では,家事調停や審判の管轄を判断する標準時について説明しました。
実際には細かい個別的事情によって,管轄の判断が違ってくることもあります。
実際に家事調停や審判の手続に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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