【建物の建築工事の瑕疵による債務不履行責任(否定方向)】

1 建物の建築工事の瑕疵による債務不履行責任

請負契約による仕事の目的物に欠陥があった場合、請負人の瑕疵担保責任が発生します。
詳しくはこちら|売買・請負の契約不適合責任(瑕疵担保責任)の全体像
このような状況で、債務不履行責任も発生するのではないか、という問題があります。
本記事では、建物の建築工事を始めとする請負契約における瑕疵による債務不履行責任が成立するかどうかを説明します。

2 債務不履行と瑕疵担保責任の違い(概要)

ところで、請負による仕事に欠陥がある場合、通常は瑕疵担保責任を追及するという発想になります。しかし、瑕疵担保責任と債務不履行責任には期間制限などの違いがあります。
建築の欠陥によって生じる複数の種類の責任の違いについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物の建築工事の欠陥・瑕疵についての法的責任の種類

3 瑕疵による債務不履行責任の基本的理論(前提)

請負人が行った仕事に欠陥がある場合、素朴に考えると、仕事完成義務の不履行ということになります。そのため、債務不履行責任が生じると考えられます。

瑕疵による債務不履行責任の基本的理論(前提)

あ 請負人の義務

請負契約上、請負人は『仕事完成義務』を負っている
※民法632条

い 単純な理論による結論

瑕疵があった場合
請負人の仕事完成義務に債務不履行(不完全履行など)がある
→債務不履行責任を負う
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p20

4 瑕疵担保責任と債務不履行責任の関係

前記のように、単純に考えると請負の仕事の瑕疵によって債務不履行責任が発生するはずです。しかし、同時に瑕疵担保責任も発生します。この2つの関係をどのように扱うかという問題があります。
通説や多くの下級審裁判例は、瑕疵担保責任は債務不履行責任の特則であると判断しています。つまり、瑕疵担保責任が生じる場合には債務不履行責任の規定の適用は排除されるという見解です。ただし、最高裁判例としてこの見解を示すものはありません。

瑕疵担保責任と債務不履行責任の関係

あ 通説・下級審裁判例

瑕疵担保責任は債務不履行責任の特則である(通説)
→一般法である債務不履行責任の規定の適用は排除される
※神戸地裁平成10年6月11日
※大阪地裁昭和42年4月4日
※東京高裁昭和47年5月29日
※通説
※幾代通ほか編『新版 注釈民法(16)債権(7)』有斐閣1989年p136
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p317
※後藤勇著『請負に関する実務上の諸問題』判例タイムズ社1994年p114、115

い 判例

債務不履行責任の規定の適用を排除するかどうかについての判断を示す最高裁判例はない
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p20

5 工事の完成の有無の判断基準

建築工事(などの請負の仕事)の債務不履行責任を考える際には、別の問題もあります。仕事の完成に至ったといえるかどうかです。
というのは、仕事に欠陥があるということは、そもそも仕事が完全に完了(完成)していないとも考えられるのです。仮にこのように考えると、工事に欠陥があった場合は、仕事が完成していないため、瑕疵担保責任は適用されないことになります。このような結果は瑕疵担保責任の制度(規定)が想定していないことです。そこで、工事の最終工程まで達したのであれば、仮に補修が必要な状態が残っていても完成したものとして扱うことになります。

工事の完成の有無の判断基準

あ 工程による判断

当初予定されていた工事の工程が最後まで終了した場合『完成した』ことになる

い 補修の必要性との関係

補修を加えなければ完全なものとならない場合も『完成した』に含む
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p317

本記事では、建物の建築工事などの請負契約の仕事の欠陥(瑕疵)により債務不履行責任が生じるかどうかという問題を説明しました。
実際には個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に建物建築の瑕疵の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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