【建築工事の瑕疵による損害賠償の損益相殺や居住による慰謝料】

1 建築工事の瑕疵による損害賠償の損益相殺や居住による慰謝料

建物の建築工事に瑕疵があった場合、瑕疵担保責任による損害賠償請求が認められます。
詳しくはこちら|売買・請負の契約不適合責任(瑕疵担保責任)の全体像
この点、注文者(施主)は、いったん完成した建物に居住するなどして利用していることが多いです。そうすると、被害者である注文者が利益を得たということで損益相殺ができるか、という問題があります。また逆に、瑕疵のある建物に居住していたことによる慰謝料が生じるのではないか、という問題もあります。
本記事ではこのように、建築の瑕疵による責任に付随する、損益相殺や慰謝料の問題について説明します。

2 被害者が受けた利益の具体例

建物の建築に瑕疵があったケースで、被害者である注文者が利益を得たという考えもあり得ます。その内容としては、減価償却(分)や居住利益が挙げられます。

被害者が受けた利益の具体例

あ 減価償却

(建替前の)建物の減価償却分
→実質的には経年による老朽化(を回避できた利益)という意味である

い 居住利益(※1)

建物に居住した利益(居住利益控除論)
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p17

3 建替費用相当額の損害賠償請求と損益相殺(判例=否定)

前記のような被害者が受けた利益を想定して損益相殺することについて、最高裁は否定しています。なお、この判例は、倒壊するリスクがあるくらい大きな欠陥があることを前提としています。

建替費用相当額の損害賠償請求と損益相殺(判例=否定)

新築建物に重大な瑕疵があり、これを建て替えざるを得ない場合において、瑕疵が構造耐力上の安全性に関わるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど、社会通念上、建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるときには、買主がこれに居住していたという利益については、損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害額から控除することはできない
注文主が結果的に耐用年数の伸長した新築建物を取得することになったとしても、これを利益とみることはできず、このことを理由に損益相殺ないし損益相殺的な調整をすることはできない
※最高裁平成22年6月17日

4 修補(相当額の損害賠償)請求と損益相殺

建築瑕疵の損害賠償について、損益相殺を否定した前記の最高裁判例は倒壊リスクがあるほど大きな欠陥(瑕疵)があることが前提となっていました。
では、比較的小さい規模の欠陥(瑕疵)があった場合には、居住利益などを損益相殺としてカウントすることができるのではないか、という発想もあります。これについては統一的な見解(最高裁判例)はありません。肯定する見解も否定する見解もある状況です。

修補(相当額の損害賠償)請求と損益相殺

修補(orこれに要する費用の賠償)請求を認める場合
例=雨漏りのため、天井に染みが生じた→天井全面のクロスを張り替える修補を要する
注文者に修補費用の一部を負担すべきといえるかどうかについて
学説、裁判例も分かれている
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p327

5 瑕疵のある建物への居住による慰謝料

大きな欠陥のある建物に被害者が居住していたことによって、被害者(居住者)はむしろ損失を受けたと考えることもできます。つまり、生命にリスクがある状態で居住していたことによって精神的な苦痛を受けたということです。
この点、瑕疵を認めた場合は財産的損害の賠償を認めることになるので、さらに慰謝料を上乗せすることを否定する見解もあります。一方、精神的苦痛を重視して、(財産的損害とは別に)慰謝料を認める見解もあります。

瑕疵のある建物への居住による慰謝料

あ 慰謝料を否定する見解

財産上の損害の回復だけを認め、慰謝料を否定する
※大阪高裁平成13年11月7日
※東京高裁平成14年1月23日(その後上告あり)

い 慰謝料を肯定する見解

ア 傾向 瑕疵のある建物への居住は苦痛を強いられたと考える
→住居に対する被害の発生の特質に注目して、慰謝料を認める傾向がある
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p17
イ 裁判例 不快で非健康的な生活を送ってきたことによる慰謝料として700万円を認めた
算定方法→1年間あたり約100万円×約7年10か月分
※神戸地裁平成14年11月29日

本記事では、建物の建築工事の瑕疵の損害賠償に関する損益相殺や瑕疵のある建物に居住したことによる慰謝料の問題を説明しました。
実際には個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に建物建築の瑕疵の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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