【建築の施工ミスを見逃した監理者の責任(注意義務・施工者の責任との関係)】
1 建築の施工ミスを見逃した監理者の責任
2 施工ミスによる監理上の注意義務の内容(裁判例)
3 施工ミスによる監理上の注意義務違反を認める傾向
4 監理契約の法的性質と生じる責任の種類(概要)
5 工事監理上の過失を理由とした施工者の免責
6 施工者と監理者のそれぞれの責任の関係
1 建築の施工ミスを見逃した監理者の責任
建物の建築の施工にミスがあった場合,施工業者に責任が生じるのは当然として,さらに,ミスを見逃した監理者にも責任が生じることがあります。監理者の責任の有無は,監理業務の注意義務の内容によって決まってきます。また,監理者の責任が認められた場合,施工者の責任との関係も問題となります。
本記事では,監理者の注意義務や責任と監理者の責任と施工者の責任との関係を説明します。
2 施工ミスによる監理上の注意義務の内容(裁判例)
建築工事の監理業務の内容については,国土交通省の告示やガイドラインに記載があります。
詳しくはこちら|建物建築工事における設計・監理業務の内容(告示・ガイドライン)
監理者に責任が認められるかどうかは,監理者が負う注意義務の内容によって決まります。この注意義務の内容を示す裁判例がいくつかあります。
要するに,監理業務の義務とは,施工者が設計図書どおりに施工するように注意を払うことなのです。
前提として,施工者は設計図書よりも簡略化する,つまり手抜き工事をするおそれがあります。監理者は,そうならないように意識して確認し,施工に不備があったら是正を求めるという法的義務を負うのです。
<施工ミスによる監理上の注意義務の内容(裁判例)>
あ 手抜き工事を防止する義務
監理とは,設計図どおりに建築工事が行われ,手抜き工事がないように建築業者を指導監督することである
この監理が不十分な場合には建築業者が設計図どおりに施工しなかったり,手抜き工事をする危険がある
※大阪地裁昭和53年11月2日
い 不正な施工を是正する義務
自己の責任において工事を設計図書と照合し,工事が設計図書のとおりに実施されていないと認める時は,直ちに工事施工者に注意を与えるなどの措置を講ずべき注意義務
※大阪高裁平成元年2月17日
う 専門性に基づく指導監督義務
専門的知識と経験に基づいて適切な指導監督をなすべき義務がある
※大阪地裁昭和59年12月26日
3 施工ミスによる監理上の注意義務違反を認める傾向
前記のように,監理者は,施工不備(手抜き工事)を回避するように注意する義務を負います。そこで実際に施工ミスが発覚した場合には,監理者が是正措置を取らなかったということになり,監理者の責任が認められる傾向が強いのです。
<施工ミスによる監理上の注意義務違反を認める傾向>
裁判例では,建物の瑕疵の原因が施工上のミスにある場合
工事監理上の注意義務違反が認定されることが多い
※長崎地裁大村支部平成12年12月22日
※横浜地裁川崎支部平成13年12月20日
※仙台地裁平成18年8月9日
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p38
4 監理契約の法的性質と生じる責任の種類(概要)
以上のように,施工ミスについて,監理者の責任も認められることがよくあります。
監理者が責任を負うことになった場合には,生じた責任の種類や監理契約の法的性質が問題となることがあります。というのは,これらの解釈によって期間制限などに違いが出てくるからです。このことについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物建築の設計・監理契約の法的性質と監理者の負う責任の種類
5 工事監理上の過失を理由とした施工者の免責
ところで,施工ミスがあった場合には,施工者の責任が生じています。これに加えて監理者の責任も生じた場合,2者の責任の関係が問題となります。
施工者としては,監理者がきちんと工事を是正してくれればミスに至らなかったと主張したいところです。しかし,施工の内容については主に施工者が判断することです。是正されなくてもミスをしないことが求められています。そこで,監理の不備を理由に施工者の責任を否定(免除)することはできません。
<工事監理上の過失を理由とした施工者の免責>
あ 監理者の確認義務(前提)
工事監理を行う建築士は,設計図どおりに施工がなされているかをチェックする法的義務を負う
※建築士法2条6項参照
い 施工者による免責の主張(発想)
施工者が『設計や監理が適切に行われていなかった』ことを理由に免責されると主張することがある
→免責は否定される
※神戸地裁平成15年2月25日(設計図書が構造上の安全性を欠くものであった事例)
6 施工者と監理者のそれぞれの責任の関係
前記のように,施工ミスがあった場合,通常,施工者と監理者の両方が責任を負うことになります。施工者の責任と監理者の責任の関係は,不真正連帯債務となります。
被害者(施主)に対しては,施工者・監理者のそれぞれが全額の賠償責任を負います。
2者の内部の関係はこれとは別です。例えば監理者が全額の賠償金を支払った後は,監理者が施工者に施工者の責任割合に応じた金額を求償することになります。
<施工者と監理者のそれぞれの責任の関係>
あ 2者の責任の発生(前提)
施工者と監理者(建築士)のそれぞれに責任が生じた
両者がともに損害発生との関係で因果関係を有する
い 2者の責任の関係
施工者・監理者のそれぞれが全部の責任を負う
独立して成立する責任が競合することによって分割責任となるわけではない
不真正連帯債務という関係になる
※神戸地裁洲本支部平成14年4月26日
※長野地裁松本支部平成15年9月29日
※京都地裁園部支部平成18年3月28日
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p44
本記事では,建物の建築工事における施工ミスを見逃した監理者の責任を説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることもあります。
実際に建物の建築工事に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。