【建物建築の設計・監理契約の法的性質と監理者の負う責任の種類】

1 建物建築の設計・監理契約の法的性質と監理者の負う責任の種類
2 監理契約の法的性質
3 監理を準委任契約とした場合の扱い
4 監理を請負契約とした場合の扱い
5 設計・監理の注意義務違反により生じる責任の種類

1 建物建築の設計・監理契約の法的性質と監理者の負う責任の種類

建物の建築工事のミスが発覚した場合,施工者は当然として,ミスを見逃した監理者も責任を負うことがあります。
詳しくはこちら|建物建築工事における設計・監理業務の内容(告示・ガイドライン)
ところで,設計・監理の契約の法的な性質や監理者が負う責任の種類によって,実際に責任が生じるか(追及できるか)どうかが変わってくることがあります。実務では意見の対立が生じやすいところです。
そこで,本記事では,設計や監理契約の法的性質や監理者が負う責任の種類について説明します。

2 監理契約の法的性質

監理契約の法的性質については,統一的な見解がありません。現状では準委任または請負と考える傾向が強いです。

<監理契約の法的性質>

あ 準委任とする見解

監理のみなからなる契約について
委任(準委任)と解する
※東京地裁昭和48年10月29日
※福岡高裁昭和61年10月1日
※東京地裁平成4年12月21日
※東京高裁平成9年2月19日

い 請負とする見解
う 無名契約(非典型契約)とする見解

多くの判例や学説は,(設計)監理契約を請負or準委任のいずれかに解している
→無名契約と解する見解は少ない
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p53,59

3 監理を準委任契約とした場合の扱い

監理契約準委任契約であると判断する裁判例が多くあります。この見解を前提とすると,損害賠償請求の期間制限は(請求できる時から)10年間ということになります。

<監理を準委任契約とした場合の扱い>

あ 責任の種類・内容(理論)

債務不履行責任を負う(過失責任)
追完請求権,損害賠償請求権,解除権の3つがある

い 実務における意義

監理が不完全であった場合,追完は不可能であることが多い
解除はあまり意味がない
結局,施工開始後は,設計・監理いずれの不完全給付についても,損害賠償請求(民法415条)だけが意味を持つ

う 権利行使の期間

監理上の債務の履行を請求できる時から10年で時効により消滅する
※民法167条1項
商法522条が適用される場合は5年となる

4 監理を請負契約とした場合の扱い

監理契約の法的性質を請負であると考える見解があります(前記)。この見解を前提とすると,損害賠償請求の期間制限は(監理業務の終了から)1年間ということになります。準委任契約と考えた場合(前記)よりも大幅に短いことになってしまいます。

<監理を請負契約とした場合の扱い>

あ 責任の種類・内容

(請負人は)瑕疵担保責任を負う
監理契約の瑕疵担保責任の内容は損害賠償請求だけである
修補の請求,解除はできない
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p54

い 権利行使の期間

監理の瑕疵について
監理終了時から1年間である
※民法637条2項

5 設計・監理の注意義務違反により生じる責任の種類

設計や監理の業務にミス,つまり注意義務違反があった場合には法的な責任が生じます。この責任の理論的な種類は債務不履行か不法行為(責任)のどちらかです。
2種類のどちらの責任も発生すると判断する裁判例もありますし,債務不履行責任だけを指摘する裁判例もあります。責任の種類によって期間制限などに違いが出てくるので,状況によっては責任の種類は何かについて意見が熾烈に対立するというケースもあります。

<設計・監理の注意義務違反により生じる責任の種類>

あ 債務不履行+不法行為責任

設計or工事監理契約が締結されている場合
注意義務違反は,債務不履行責任or不法行為責任を成立させる
※大阪地裁昭和53年11月2日
※大阪地裁昭和57年5月27日(同趣旨)
※横浜地裁川崎支部平成13年12月20日

い 債務不履行責任(のみ)

債務不履行責任のみ言及する裁判例もある
※神戸地裁平成15年2月25日

本記事では,建物の建築工事における設計と監理の契約の法的性質と,ミスによって生じる責任の種類について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることもあります。
実際に建物の建築工事に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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