【養育費・婚姻費用の算定における医療費の扱い(病気や怪我の治療・歯科矯正)】

1 養育費・婚姻費用の算定における医療費の扱い
2 養育費・婚姻費用の中の医療費の位置づけ
3 標準的医療費に含まれない医療費の具体例
4 標準的医療費を超える医療費の分担を認めた裁判例
5 持病や障害による養育費の終期の延長(概要)

1 養育費・婚姻費用の算定における医療費の扱い

実務では,養育費や婚姻費用の金額を標準(的)算定方式で算定する(簡易算定表を使う)ことが多いです。
標準算定方式では,医療費として標準的な金額が支出されていることを前提としています。
詳しくはこちら|標準算定方式による養育費・婚姻費用の算定(計算式・生活費指数)
実際に標準的な医療費の金額を超える支出をしているケースでは,標準算定方式を修正する必要があります。
本記事では,医療費が問題となる状況と,養育費・婚姻費用の計算への反映について説明します。

2 養育費・婚姻費用の中の医療費の位置づけ

原理としては,夫婦や子供が必要となった治療などの医療費は,生活費の一貫として夫婦で分担する費用(婚姻費用)といえます。
実務で一般的に使われている標準的算定方式(簡易算定表)では,個々の生活費の出費を集計することはせず,統計上の平均的な出費を前提としています。
そこで,実際には標準的な金額を超える医療費を支出したケースでは,超過分について,標準的算定方式(簡易算定表)による金額を修正する必要が出てきます。

<養育費・婚姻費用の中の医療費の位置づけ>

あ 一般的な医療費の位置づけ(前提)

一般的に医療費(治療費)は,婚姻費用(養育費)として分担する対象となる
詳しくはこちら|婚姻費用の内容(分担すべき出費の内容・標準的算定方式との関係)

い 標準的算定方式の中の医療費

標準的算定方式(簡易算定表)において
標準的な額の医療費特別経費(に含まれる出費)として考慮済みである

う 特別な医療費の扱い

標準的医療費(あ)に含まれない医療費を支出した場合
→内容によっては養育費・婚姻費用として分担する費用に含めることもある
=標準的算定方式による金額(算定表の金額)に上乗せすることもある
※森公任編著『簡易算定表だけでは解決できない養育費・婚姻費用算定事例集』新日本法規出版2015年p159,160
※松本哲泓稿『婚姻費用分担事件の審理−手続と裁判例の検討』/『家庭裁判月報 平成22年11月=62巻11号』最高裁判所事務総局p77

3 標準的医療費に含まれない医療費の具体例

標準的医療費には含まれないもの,つまり,標準的算定方式では想定されていない医療費にはいろいろなものがあります。
典型的な具体例は,持病や障害の医療費歯科矯正費用があります。いずれも夫婦で分担すべき費用(婚姻費用)に含まれる傾向があります。

<標準的医療費に含まれない医療費の具体例>

あ 持病や障害の医療費

婚姻費用・養育費の支払の終期の問題もある(後記)

い 歯列矯正費用

子の歯列矯正費用を分担すべき医療費として認める例が多い
※大阪高裁平成18年12月28日
※大阪高裁平成21年11月25日
※森公任編著『簡易算定表だけでは解決できない養育費・婚姻費用算定事例集』新日本法規出版2015年p159,160
※松本哲泓稿『婚姻費用分担事件の審理−手続と裁判例の検討』/『家庭裁判月報 平成22年11月=62巻11号』最高裁判所事務総局p77

4 標準的医療費を超える医療費の分担を認めた裁判例

子供の骨折の治療費と歯科矯正費用などの分担が問題となった実例を紹介します。
この裁判例ではまず,これらの医療費を夫婦で分担すべきものであると判断しました。
そして,標準的医療費を超える金額について,夫婦で基礎収入割合に応じて分担することにしました。

<標準的医療費を超える医療費の分担を認めた裁判例>

あ 事案

妻と夫が別居していた
妻が子を監護養育している
子らの骨折の治療費,歯の矯正治療費,眼鏡代など約26万円を要した

い 扶養義務の判断

確定申告書の医療費控除欄に記載の金額を(分担すべき)医療費と認定した
標準的医療費を超える部分(分担すべき医療費との差額)約5万9000円について,基礎収入の割合に応じて分担する
標準的医療費=標準的算定方式の中で想定されている保険医療費年額10万3332円
※大阪高裁平成18年12月28日

5 持病や障害による養育費の終期の延長(概要)

一般的に養育費の支払が終わるのは子供が20歳になった時とされています。しかし,個別的な事情によって柔軟に終了の時期(終期)は変わります。
具体的には,子供に持病や障害があるために就労して十分な生活費を得ることができない場合は,もっと長く養育費の支払が続くことになる傾向があります。
養育費や婚姻費用の支払の終期については別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|養育費の支払の終期(未成熟子の意味と持病・障害・大学進学による影響)

本記事では,養育費や婚姻費用の計算における医療費の扱いについて説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に養育費や婚姻費用に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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