【子供の大学進学の養育費・婚姻費用・扶養料への影響(金額加算・終期の延長)】
1 子供の大学進学の養育費・婚姻費用・扶養料への影響
2 大学進学による扶養義務への影響(基本)
3 大学進学による費用分の扶養義務の判断要素
4 大学進学の費用の扶養義務を認める最近の傾向
5 大学進学の内容の特殊性の影響
6 親子間の愛憎や信頼の考慮を否定する方向性
7 養育費と扶養料請求の関係(概要)
1 子供の大学進学の養育費・婚姻費用・扶養料への影響
養育費や婚姻費用の金額の一般的な算定(標準的算定方式・簡易算定表)では,子供の教育費として公立の小中学校・公立高校が前提となっています。そこで,それ以外の教育費が実際にかかっているケースでは修正が必要になります。
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用の算定における教育費の扱い(私立学校・予備校・習い事など)
特に,子供が大学に進学した(する予定)場合には,必要になる学費の金額が大きく,かつ,長期間(子供が成人した後まで)続きます。そこで大学のような高等教育を養育費や婚姻費用にどのように反映させるか,という問題が生じます。これは,子供自身が扶養料を請求するケースでも同じです。本記事ではこの問題について説明します。
なお,以下の説明では特にコメントしていませんが,基本的に養育費・婚姻費用・子供自身による扶養料請求で共通しています。
2 大学進学による扶養義務への影響(基本)
子供が大学に進学した(する予定)の時に,これを扶養義務(養育費・婚姻費用・扶養料)の金額に反映させる(上乗せする)べきかどうか,というのが根本的な問題です。
やや抽象的な基準としては,その子供(家庭)の環境として大学に進学するのが通常(当たり前)だといえる場合には,扶養義務に反映させるということになります。大学進学が通常だといえるかどうかは両親の経済力や学歴が大きく影響します。
扶養義務への反映とは,具体的には扶養義務が大学の卒業まで続くことと,金額として学費分を加算するということです。
<大学進学による扶養義務への影響(基本)>
あ 終期の延長の傾向
最近では,高学歴時代を迎えている
子の大学在学中の期間について
養育費・婚姻費用・扶養料を認める判例や調停実務が多い
い 学費の加算の一般的な基準
扶養義務者の支払能力や学歴などの社会的地位を勘案して,その家庭環境下で大学進学が通常のことと考えられる場合には,大学の入学金や授業料も養育費として請求できる
※小川政亮稿/中川善之助ほか編『実用法律事典2 親子』1969年p278
3 大学進学による費用分の扶養義務の判断要素
子供が大学に進学したことによって生じる費用を親の扶養義務に含める(加算する)かどうかという判断の基準は前述しました。
この判断の際の判断材料(要素)を明示した裁判例があります。当然ですが,多くの事情(材料)を元にして判断するのです。
<大学進学による費用分の扶養義務の判断要素>
あ 基本部分
『い』の事情を考慮した上で,卒業する時期までの学費・生活費(の不足分)の調達の方法,親からの扶養の要否を判断する
い 考慮する事情
ア 不足する金額イ 不足するに至った経緯ウ 奨学金(給与・貸与方式)
受けることができる奨学金の種類,金額,支給(貸与)の時期,方法
エ アルバイトによる収入の有無,見込み,金額オ 奨学団体以外からその学費の貸与を受ける可能性の有無カ 親の資力キ 子の大学進学に関する親の意向ク その他の子の学業継続に関連する諸般の事情
※東京高裁平成12年12月5日(扶養料請求)
4 大学進学の費用の扶養義務を認める最近の傾向
以上のように,大学進学の費用分を扶養に加算するかどうかの判断基準や判断材料(要素)は明確になってきています。
最近の実際の事案の傾向としては,子供自身が大学に進学する能力と意欲があれば,大学進学による費用を扶養に含める(加算する)という傾向が強くなっています。
<大学進学の費用の扶養義務を認める最近の傾向>
あ 学費を扶養義務に含める典型例
親の収入がある程度あり,親自身が大学を卒業している家庭である場合
→子の大学卒業までを未成熟子(扶養義務あり)として扱うのが一般である
※森公任編著『簡易算定表だけでは解決できない養育費・婚姻費用算定事例集』新日本法規出版2015年p162
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定』新日本法規出版2018年p15
※松本哲泓稿『婚姻費用分担事件の審理−手続と裁判例の検討』/『家庭裁判月報 平成22年11月=62巻11号』最高裁判所事務総局p74
※小川政亮稿/中川善之助ほか編『実用法律事典2 親子』1969年p278
い 最近の傾向
子に能力と意欲さえあれば
(=大学に在学さえしていれば)
親に学費と生活費を負担させる傾向がきわめて強い
※早野俊明稿/『判例タイムズ1096号臨時増刊 平成13年度主要民事判例解説』2002年9月p95
※早野俊明稿『親の子に対する高等教育費用の負担』/『アルテス リベラレス(岩手大学人文社会科学部紀要)69号』2001年12月p113
※東京高裁昭和35年9月15日
※熊本家裁昭和39年3月31日
※大阪家裁昭和41年12月13日
※福岡高裁昭和47年2月10日
※広島高裁昭和50年7月17日
※大阪高裁平成2年8月7日
5 大学進学の内容の特殊性の影響
子供が大学に進学するケースでも,特殊な事情によって通常よりも多くの学費(長期間の学費)が必要になることがあります。
浪人や留年,大学院の進学や医学部・歯学部・薬学部などへの進学で通常よりも在学年数が増えて,必要な学費の金額や続く期間が増えるというようなケースです。このような特殊な事情が家庭環境からは想定内といえるかどうかで,学費の全体を扶養義務に反映させるかどうかを判断することになります。
<大学進学の内容の特殊性の影響>
あ 特殊事情の影響
『い』のいずれかのような事情がある場合
→終期(や分担額)を個別事情に応じ判断することになる
い 大学進学に関する特殊事情の例
ア 子が浪人・留年しているイ 子が大学院に進学するウ 子が医学部・歯学部・獣医学部・薬学部に進学する
平成18年からは薬学部は6年制となった
※森公任編著『簡易算定表だけでは解決できない養育費・婚姻費用算定事例集』新日本法規出版2015年p162
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定』新日本法規出版2018年p15
※松本哲泓稿『婚姻費用分担事件の審理−手続と裁判例の検討』/『家庭裁判月報 平成22年11月=62巻11号』最高裁判所事務総局p74
6 親子間の愛憎や信頼の考慮を否定する方向性
ところで,大学に進学する子供と扶養義務として学費を負担する親の仲が良くないというケースもあります。
このような親子間の愛情,嫌悪や信頼の状態は学費の負担の有無には基本的に影響しないと考えられています。
<親子間の愛憎や信頼の考慮を否定する方向性>
あ 考え方
未成熟子に対する扶養の程度を決定するにあたっては,親子間の愛憎や信頼の状況を,重要な要素として考慮すべきではない
い 事案の要点と結論(概要)
子が父に対して愛情を欠き,父との交流を望まない状態であった
→これを理由にして大学卒業までの扶養義務を否定しなかった
※大阪高裁平成2年8月7日(子による扶養料請求)
詳しくはこちら|子供の大学進学における養育費・婚姻費用・扶養料を判断した裁判例の集約
7 養育費と扶養料請求の関係(概要)
前記のように,子供が大学に進学した費用を,養育費・婚姻費用の中で加算することもありますし,また,子供自身による扶養料請求として認めることもあります。
そこで,養育費として決められた期間の支払が完了した後に,今度は子供自身が扶養料として請求するということもありえます。つまり,養育費の支払が終われば子供にかかる出費は終わったとは限らないのです。
詳しくはこちら|父母間の養育費と子供自身による扶養料請求の関係(子供の大学の学費など)
本記事では,子供の大学の学費を養育費・婚姻費用や扶養料に含める(考慮する)かどうか,という問題について説明しました。
実際には,具体的な事情や,主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることがあります。
実際に養育費・婚姻費用や扶養料についての問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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