【官民境界査定処分の法的効力と官民査定図の精度・信頼性】
1 官民境界査定処分の法的効力と官民査定図の精度・信頼性
2 過去の境界査定処分の法的効力
3 過去の境界査定処分(査定図)の法的な影響力
4 過去の境界査定処分(査定図)の信頼性
5 一般の筆界認定(旧公図)の信頼性(参考)
1 官民境界査定処分の法的効力と官民査定図の精度・信頼性
昭和23年以前に官民境界(国有地と民有地の筆界)の査定処分が行われていました。
詳しくはこちら|過去の官民境界査定処分の制度(種類・効力の存続・行政処分の性質)
査定処分の結果(成果)は,官民査定図として現在も活用されています。
詳しくはこちら|境界の位置を判断(特定)する事情ごとの判断基準と判断材料(立証方法)
査定処分(査定図が作られるプロセス)の法的性質を理解すると,資料の精度や信頼性の高さが分かってきます。
本記事では,官民境界査定処分の法的効力や査定図の信頼性について説明します。
2 過去の境界査定処分の法的効力
査定処分には,所有権境と筆界(公法上の境界)の両方を確定(移動)する法的効力があります。境界が確定した効力は,制度自体が廃止された現在でも生きています。
<過去の境界査定処分の法的効力>
あ 法的効力の内容(※1)
所有権境(界)と筆界を書き換える効果が付与されていた
=所有権境のみならず,筆界も査定成果どおりに移動するという形成的効果も認められていた
※東京高裁昭和43年3月27日
※福岡高裁平成5年9月7日
※寳金敏明著『里道・水路・海浜−長狭物の所有と管理− 4訂版』ぎょうせい2009年p250
い 法的効力の存続(概要)
境界査定処分制度は廃止された
ただし,既に行われた査定処分の効力は否定されていない(存続している)
詳しくはこちら|過去の官民境界査定処分の制度(種類・効力の存続・行政処分の性質)
3 過去の境界査定処分(査定図)の法的な影響力
官民境界の査定処分は,行政処分としての公定力を持ちます。
詳しくはこちら|過去の官民境界査定処分の制度(種類・効力の存続・行政処分の性質)
結局,現在でも査定図は境界の確定(判断)に大きな影響を及ぼします。
<過去の境界査定処分(査定図)の法的な影響力>
あ 原則
境界査定処分により筆界が確定した(前記※1)
→境界確定訴訟において,境界査定処分の結果と異なる筆界を認めることは原則としてできない
い 例外
行政処分が当然無効の場合は異なる筆界を認定できる
当然無効=境界査定処分に重大かつ明白な瑕疵があった
境界査定処分の無効確認を求める行政訴訟の提起は必要ない
※福岡高裁平成5年9月7日
4 過去の境界査定処分(査定図)の信頼性
ところで,境界査定処分は,とても古い時期(昭和23年より以前)に作成されたものです。素朴に考えて精度が低いというような発想もあります。(旧)公図が古い時代に作られたから精度が低い(後記)と同じだというような発想です。
しかし,境界査定処分は,作成プロセスや目的が公図とは大きく異なります。つまり境界査定処分の目的は,境界の位置を特定(確定)することそのものだったのです。そこで,信頼性(精度)は高いのです。
<過去の境界査定処分(査定図)の信頼性>
あ 境界査定の目的
官有地を保全するため,土地の官民境界をはっきりさせること自体であった
い 査定簿・査定図の信頼性(精度)
査定処分の結果は査定簿・査定図となっている
古い時代のものであってもかなり信頼性が高い
※寳金敏明著『里道・水路・海浜−長狭物の所有と管理− 4訂版』ぎょうせい2009年p250
5 一般の筆界認定(旧公図)の信頼性(参考)
官民境界に限らず,一般的な境界(筆界)が特定されたプロセスは,大きく時代をさかのぼって地租改正の一環としての作業でした。
これは徴税の基準を明確にするという目的によって行われたものです。つまり,境界の位置がどこかということには強い興味は持たれていなかったのです。
このようなプロセスによって,構造的に,精度が低い傾向が強いのです。現在の境界を特定するための資料として公図の信頼性が低いということにつながっています。
<一般の筆界認定(旧公図)の信頼性(参考)>
あ 一般の境界認定作業の目的
地租改正作業の一環として,徴税目的で行われた
い 精度の傾向
地目や地積が分かれば,あとは大雑把な位置関係を知ることで足りるという状況の中で行われた
う 旧公図の信頼性
境界認定作業の結果は(旧)公図となっている
旧公図の精度(信頼性)は低いことも多い
詳しくはこちら|公図・地図・図面による境界の判断(特定)と立証方法
本記事では,官民境界査定処分の法的効力や査定図の信頼性について説明しました。
実際の境界の確定では,個別的な事情や細かい資料の使い方(立証のやり方)次第で結論が違ってきます。
実際に土地の境界に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。