【日弁連が提唱する養育費・婚姻費用の新算定方式と実務的な評価(運用状況)】
1 日弁連が提唱する養育費・婚姻費用の新算定方式と実務的な評価
2 日弁連の新算定方式の提言(情報ソース)
3 日弁連新算定方式の理念
4 日弁連新算定方式における基礎収入の算定
5 日弁連新算定方式における生活費指数
6 日弁連新算定方式の実務的な評価
7 標準的算定方式の比較的な評価
8 日弁連新算定方式提言に添付されている資料(参考)
1 日弁連が提唱する養育費・婚姻費用の新算定方式と実務的な評価
養育費や婚姻費用の金額を算定する方法としては,標準(的)算定方式と,これを元にした簡易算定表が広く実務で普及しています。
詳しくはこちら|標準算定方式による養育費・婚姻費用の算定(計算式・生活費指数)
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用分担金の金額算定の基本(簡易算定表と具体例)
これに対し,日弁連は標準的算定方式を批判しています。その上で,平成28年に改良した算定方式を提唱しています。
本記事では,日弁連が提唱する新算定方式について説明します。
2 日弁連の新算定方式の提言(情報ソース)
最初に,日弁連による提唱として公表された書面そのものや掲載されているウェブサイトをまとめておきます。
<日弁連の新算定方式の提言(情報ソース)>
あ 公表日とタイトル
平成28年11月15日
日本弁護士連合会
『養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言』
※本サイトでは『日弁連新算定方式(提言)』という
い 書面本体
外部サイト|日本弁護士連合会|養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言
う 掲載されているサイト
3 日弁連新算定方式の理念
日弁連の標準的算定方式への批判の要点は,計算の中で,義務者(支払う側)の保護が厚すぎるので,権利者の生活の保護が薄くなっているというものです。そこで,日弁連新算定方式は,標準的算定方式の計算の枠組みを維持しつつ,権利者自身や(権利者側に含まれる)子供の保護を厚くする方向に変更されています。
<日弁連新算定方式の理念>
あ 標準的算定方式を元にした改良
現在の実務では標準算定方式が広く普及している
詳しくはこちら|標準算定方式による養育費・婚姻費用の算定(計算式・生活費指数)
日弁連新算定方式は,標準算定方式を改良した
い 新算定方式の理念
生活保持義務の理念を徹底した
子の利益を最優先として考慮した
→結果的に権利者に有利な方向にシフトしている
※日弁連新算定方式提言p8
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定−裁判官の視点にみる算定の実務−』新日本法規出版2018年p48参照
4 日弁連新算定方式における基礎収入の算定
具体的に,日弁連新算定方式で変更した事項のうち主要なものの1つは基礎収入の算定の方法です。
要するに,義務者の生活維持のための費用として真っ先に控除する(分配対象としない)出費を切り詰めたということになります。結果として基礎収入割合を大きくアップさせています。
<日弁連新算定方式における基礎収入の算定>
あ 特徴(改良内容)
基礎収入の算定において特別経費を控除しない
公租公課は原則として実額で控除する
職業費を稼働者のための支出に限定した
い 具体的な影響の傾向
(結果として)
基礎収入は,総収入の約6〜7割となる
=標準的算定方式よりも約2〜3割の増加である
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定−裁判官の視点にみる算定の実務−』新日本法規出版2018年p49
※日弁連新算定方式提言p8,9
5 日弁連新算定方式における生活費指数
日弁連新算定方式で変更した主要項目のもう1つは子供の生活費指数です。
標準的算定方式では年齢で2種類に区分されているだけでした。日弁連新算定方式では年齢だけではなく子供の人数にも応じて3〜4種類に区分することが提唱されています。
<日弁連新算定方式における生活費指数>
あ 標準的算定方式(参考)
子の年齢によって2段階(55と90)が適用される
い 新算定方式
子の年齢区分を3or4段階とする
子の人数に応じて修正する
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定−裁判官の視点にみる算定の実務−』新日本法規出版2018年p49
※日弁連新算定方式提言p10
6 日弁連新算定方式の実務的な評価
以上のように,日弁連新算定方式は,いろいろな検討を経て標準的算定方式を改良するものとして提唱されています。
では,本当に標準的算定方式は不合理であり,日弁連新算定方式が妥当であるとかいうと,そうとは限りません。理想を追及したために現実的な妥当性が損なわれていると指摘されています。
実際に実務では現在でも標準的算定方式は広く使われていて,新算定方式をそのまま使うということはほとんどありません。
<日弁連新算定方式の実務的な評価>
あ 算定方式の理論と結果
日弁連速算方式は,やや理想に偏した面があり,現実性に沿わない場合も生じる
い 運用上の問題
複雑な計算を要する場合が生じる
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定−裁判官の視点にみる算定の実務−』新日本法規出版2018年p67
7 標準的算定方式の比較的な評価
前記のように日弁連新算定方式は実務では普及していません。つまり,算定方式が置き換わったという状況ではありません。
確かに標準的算定方式をそのまま適用すると不合理となるケースもあります。しかし,個別的事情(特殊事情)による調整を加えれば合理性を保つことができます。
では,日弁連の提言は無意味なのかというとそうでもありません。
改めて標準的算定方式の提言(書面)の内容をしっかりと読むと,確実に改良が必要な事項もみえてきます。標準的算定方式の中で使われている統計上の出費(金額)が時代の流れで変わっているのです。例えば公租公課(要するに税率や控除制度の内容)については,税制で常に変わり続けています。15年前の統計を使うことが不合理ということが分かりやすいでしょう(平成30年現在)。
<標準的算定方式の比較的な評価>
あ 長年の運用実績
標準的算定方式は,提案以来約15年となるが,時間の経過による基礎的なデータの変動は比較的少ない
その方式は実務的で利用しやすく,運用が重ねられて,より具体的妥当性のある結果を導くための検討もなされてきている
い 結果の妥当性
分担額は,個別事情,特別事情がある場合はこれを考慮すれば,それほど低い額になるとは考えられない
う 全体的な結論
標準的算定方式の算定方式としての合理性は失われているとはいえない
え 修正の必要性
標準的算定方式の作成・公表があった時点と比べて
公租公課,職業費,特別経費(合計)の割合は2%程度減少している
分担額としては5〜10%の差となる
総収入が200万円程度を超える事案では,(分担額に)この程度の割合を加算する扱いを提案する
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定−裁判官の視点にみる算定の実務−』新日本法規出版2018年p67
8 日弁連新算定方式提言に添付されている資料(参考)
以上のように,日弁連新算定方式をそのまま実務で使うことはまずありません。その一方で,この提言(書面)の中の統計の数値(金額)は標準的算定方式を修正する際に使えることがあります。
ここでは,日弁連新算定方式の提言の書面に掲載されている統計データの中で,状況によっては役立つことがあるもの(の項目)を整理しておきます。
<日弁連新算定方式提言に添付されている資料(参考)>
番号 | 対象年 | 内容 |
別表2 | 2011〜2015年 | 基礎収入割合(現算定方式) |
別表3 | 2011〜2015年 | 公租公課/実収入比の平均値(給与所得者) |
別表4 | 2015年 | 公租公課/実収入比の理論値(給与所得者) |
別表5 | 2015年 | 公租公課/課税所得金額比の理論値(自営業者) |
別表7 | 2011〜2015年 | 職業費/実収入比の平均値(現算定方法) |
別表8 | 2011〜2015年 | 特別経費/実収入比の平均値(現算定方法) |
別表10 | ― | 子どもの学習費調査統計表(幼児・児童・生徒1人当たり年間額) |
※日弁連新算定方式提言p22,23
ここでは個々の表の内容(データ)を掲載しません。
なお,別表2の内容(データ)は別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|婚姻費用・養育費の算定で用いる基礎収入割合の表
また,別表3,7,8の内容(データ)は別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|公租公課・職業費・特別経費の割合の統計データ(平成14年と平成27年)
本記事では,養育費や婚姻費用の金額の算定方法についての日弁連の提言(新算定方式)を説明しました。
このように,養育費や婚姻費用の計算ではいろいろな考えや修正する必要性があり単純ではありません。個別的事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に養育費や婚姻費用の金額についての問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
多額の資金をめぐる離婚の実務ケーススタディ
財産分与・婚姻費用・養育費の高額算定表
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
相続や離婚でもめる原因となる隠し財産の調査手法を紹介。調査する財産と入手経路を一覧表にまとめ、網羅解説。「ここに財産があるはず」という閃き、調査嘱託採用までのハードルの乗り越え方は、経験豊富な講師だから話せるノウハウです。