【使用貸借における目的に従った使用収益の終了の判断の実例(裁判例)】

1 使用貸借における目的に従った使用収益の終了の判断の実例

使用貸借契約は、目的に従った使用・収益が終了した時に終了します(民法597条2項、改正前民法597条2項本文)。
詳しくはこちら|一般的な使用貸借契約の終了事由(期限・目的・使用収益終了・相当期間・解約申入)
この、目的に従った使用収益や、これが終了したかどうかということをはっきり判断できないことが多いです。
本記事では、これらを判断した実例(裁判例)を紹介します。

2 契約開始の経緯や人的関係からの判断

目的に従った使用・収益とは具体的にどのような使い方のことなのか、については使用貸借が始まる経緯から判断されます。
不動産などの財産を無償で貸す、という場合は、当然背景として特殊な人的関係などがあるはずです。事案ごとに異なる、特有の個別的な事情を元に判断するのです。

3 土地の使用貸借における使用収益の終了時期の例

(1)昭和31年東京地判・当該土地上の建物の朽廃まで

建物所有を目的とする土地の使用貸借において、目的に従った使用収益の終了を判断した実例(裁判例)を紹介します。建物の朽廃までと判断されました。要するに建物が存在する限りは使用貸借は続く、という判断です。

昭和31年東京地判・当該土地上の建物の朽廃まで

建物所有目的の土地の使用貸借について
裁判所は、使用収益の終了時期建物が朽廃するまでであると判断した
※東京地判昭和31年10月22日

(2)「相当期間」の経過+解約による終了(概要)

なお、建物所有目的の土地の使用貸借においては、通常、相当期間によって終了(するかどうか)を判断することが多いです。相当期間を判断した裁判例については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物所有目的の土地の使用貸借における相当期間を判断した裁判例

4 建物の使用貸借における使用収益の終了時期の例

(1)建物の使用収益の終了を判断した裁判例・集約

建物の使用貸借において、目的に従った使用収益の終了を判断した実例(裁判例)を紹介します。
内縁の夫婦の間での使用貸借のケースで、内縁解消(紛争解決)までと判断した裁判例、親族間での使用貸借のケースで、借主が経済的に独立(自活)できるまでと判断した裁判例などがあります。

建物の使用収益の終了を判断した裁判例・集約

あ 内縁解消(紛争解決)まで

建物の使用貸借において
裁判所は、使用収益の終了時期内縁関係解消に関する紛争の解決までであると判断した
※東京地裁平成18年3月30日

い 子の婚姻関係破綻(終了)まで(概要)

夫の母が貸主、(夫と)妻が借主であったケースについて
裁判所は、婚姻関係の破綻により使用収益の終了を認めた
※東京地判平成9年10月23日(後記※1

う 借主の自活まで

建物の使用貸借において
裁判所は、使用貸借の終了時期借主が自活できるまでであると判断した
※東京地裁平成17年3月25日

(2)平成9年東京地判・義母から元妻への明渡請求→認容

平成9年東京地判は、義母Aが所有する建物に、Aの息子とその妻(夫婦)が居住していたところ、夫婦の関係が悪化し、夫が家を出たので妻だけが残る(居住する)状態となったケースです。無償で居住させていたので使用貸借にあたることを前提として、使用貸借の目的は家族が共同生活を営む(住居として使用する)ことであるため、婚姻関係が破綻した時点で終了となる、と裁判所は判断しました。

平成9年東京地判・義母から元妻への明渡請求→認容(※1)

(注・夫(T)の母が使用貸借の貸主であったケース)
・・・Tと被告H間の婚姻関係はもはや破綻し、Tは本件建物から出てしまい、他で居住するようになったものであるから、本件建物を、Tとその家族が共同生活を営むための住居として使用するという本件使用貸借契約上の目的に従った使用収益は、本件口頭弁論終結時(平成九年九月一一日)には既に終了したものといわざるを得ない。
したがって、本件使用貸借契約が終了したとする原告の再抗弁は理由があり、被告らは、右時点後は本件建物の占有権原を失ったものというべきである。
(明渡請求を認めた)
※東京地判平成9年10月23日

(3)昭和61年東京地判・養親子間の明渡請求→否定

昭和61年東京地判は養親が養子(の夫婦)に建物を無償で貸していたケースです。判決内容としては、養親子関係が悪化しただけでは使用貸借は終了しない、ということと、仮に明渡請求が認められた場合に生じる不利益が大きいことにより、解約申入が権利の濫用となる、という判断が示されています。理論的な構造が少しわかりにくいですが、実質的には以上で説明した、使用貸借の目的に従った使用収益の終了を否定したのと同じようなことだと思います。

昭和61年東京地判・養親子間の明渡請求→否定

あ 養子縁組に付随する建物の使用貸借(前提)

右事実によれば、本件使用貸借は、本件養子縁組によって、原告と被告夫婦との間に養親子関係が発生したことに伴ない、原告と被告夫婦がともに本件建物に住むことによって、親子が一緒に食事をし、子が親の生活を助けるなど、実質的な親子関係を形成し、被告夫婦において原告の老後の生活をみるという本件養子縁組の目的を達成するために締結されたもので、その意味では、被告主張のとおり、本件養子縁組に付随するものであると認めることができる。

い 直接的な養子縁組継続の目的→否定

しかし、実質的な親子関係形成の便のために本件使用貸借が締結されたということから考えても、たとえ原告または被告に本件使用貸借の継続に不都合な事情が発生しても、本件養子縁組が解消されない限り絶対に本件使用貸借は終了しないと考えて原・被告が本件使用貸借契約を締結したもの、すなわち、本件養子縁組の継続を直接その目的としたものとは解されず、原・被告の意識としては、円満な養親子関係が続き、原告または被告に本件使用貸借の継続に不都合な事情が発生しない限り、本件使用貸借は自然、継続されることになると考えていたに過ぎないものと解される。
従って、本件養子縁組継続が本件使用貸借の目的であり、本件養子縁組が解消されない限り本件使用貸借は終了しない旨の被告の主張は理由がない。

う 意図→「不都合な事情の発生」がない限り継続する

しかしながら、右に述べたとおり、原・被告は、円満な養親子関係が続き、原告または被告に本件使用貸借の継続に不都合な事情が発生しない限り、本件使用貸借は当然のこととして継続されるものと考えて本件使用貸借契約を締結したものであり、被告としても、本件使用貸借が原告の一方的意思によっていつ何どき解約されるかも知れない不安定なものではなく、右のような意味での継続性、安定性をもったもので、合理的な理由がなければ解約されないものと信じて、前記認定のとおり、子供達の転校等の犠牲を払って本件建物部分に引越したものと認められる。

え 事案の評価→円満否定+不都合事情否定

そして、前記認定事実によれば、原告と被告夫婦の養親子関係は円満な状態にないことは明らかであるが、養親子関係の問題と別に本件使用貸借契約の継続に不都合な新たな事情が発生したとも認められないし、

お 権利の濫用に関する判断

ア 両当事者の利害の評価 養親子関係悪化の主たる原因は原告側にあり、従って、現在までのところ離縁も認められておらず、被告としては、現在においても、原告の身体が不自由になったときは、その扶養・看護にあたる意思を有していることが認められるうえ、被告及びその家族は既に八年近く本件建物部分に居住しており、更に転居するとなると、被告及びその家族の不利益も大きいという事情も認めることができる。
さらに、前記認定事実によれば、原告の離縁の意思自体、原告の真に理性的な判断に基づくものか疑いのないわけではなく、八一歳という原告の年齢や病歴から考えても、離縁の認められない限り、原告に対して扶養義務を負っている被告夫婦が本件建物部分から転居することが客観的に見て原告に利益になるとは考えがたい
イ 結論→権利濫用肯定 従って、離縁の認められていない現時点においては、原告の解約申入れは、被告の使用貸借継続の信頼を裏切り、被告の利益を不当に害する結果となる反面、原告にとっても特段の利益はなく(本件建物部分の家賃収入は増えることになるが、原告の身体が不自由になったときに扶養義務者である被告夫婦から扶養・看護をしてもらうということは極めて困難となる)、被告主張のとおり権利の濫用となるものというべきである。
※東京地判昭和61年6月27日

(4)「相当期間」経過+解約による終了(概要)

建物の使用貸借についても(土地の使用貸借と同じように)相当期間が経過したことにより解約できるといえるかどうか、という枠組みの判断となることがよくあります。
詳しくはこちら|建物の使用貸借における相当期間を判断した裁判例

本記事では、使用貸借における目的に従った使用収益やその終了の判断をした裁判例を紹介しました。
実際には、個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に使用貸借の終了(明渡)の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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