【建物の使用貸借における相当期間を判断した裁判例】
1 建物の使用貸借における相当期間を判断した裁判例
建物の使用貸借において目的に従った使用収益に足りる期間(相当期間)の判断が問題となることが多いです。つまり,明渡請求が認められるかどうかという判断です。
詳しくはこちら|一般的な使用貸借契約の終了事由(期限・目的・使用収益終了・相当期間・解約申入)
本記事では,建物の使用貸借の相当期間が経過したかどうかを判断した実例(裁判例)を紹介します。
2 32年4か月で相当期間の経過を認めた判例
建物の使用貸借の目的を,長期間の居住として定めたケースです。この長期間の内容が問題となりました。
最高裁は,32年4か月は想定していた長期間(の経過)といえると判断しました。
<32年4か月で相当期間の経過を認めた判例>
あ 事案
貸主と借主は,借主とその家族の長期間の居住を目的として定めた
い 相当期間の判断
契約開始後32年4か月の時点で相当期間が経過したと認められた
※最高裁昭和59年11月22日
3 27年で相当期間の経過を認めた裁判例
居住のための建物の使用貸借において,契約開始後27年の時点で相当期間は経過したと判断した裁判例です。
<27年で相当期間の経過を認めた裁判例>
契約開始後27年の時点で相当期間が経過したと認められた
※東京地裁平成18年1月13日
4 40年で相当期間の経過を認めた裁判例
契約開始後40年の時点で相当期間は経過したと判断した裁判例があります。これは,途中で借主が亡くなって,その相続人が借主に代わった,つまり借主は2代目になっていたというケースです。その(2代目の)借主は39歳で会社員として働いていたので,たとえば近隣の賃貸物件に転居することも容易だった,という事情が考慮されているといえるでしょう。
40年で相当期間の経過を認めた裁判例
あ 要点
居住のための建物の使用貸借
当初の借主は死亡した
このことを理由として使用貸借契約は終了しない(民法599条(現在の579条3項は適用されない)
詳しくはこちら|借主の死亡による使用貸借の終了と土地の使用貸借の特別扱い
契約開始後約40年の時点で相当期間が経過したと認められた
い 判決文(引用)
・・・本件建物の使用貸借は昭和二四年ころに始まったものとみることができる。
したがって,本件口頭弁論終結時においてほぼ四〇年を経過することになった。
そして,・・・被告(借主)は三九歳になり妻帯し,会社員として稼働して,本件建物に母の竹子とともに居住していることが認められる。
一方,《証拠省略》によると,原告(貸主)は既に七〇歳を越しており,体力的にも「乙山」の営業を続けて行くことが困難になっていることが認められる。
使用貸借が無償の利用関係であることを考えると,このように使用期間が四〇年になろうとして,しかも当初予定していた竹子を含め松夫の家族の住居を確保するために原告の方で配慮しなければならないとの事情も変化を来している現状の下では,遅くも本件口頭弁論終結時には,本件建物の使用貸借契約はその目的に照らし使用収益をなすに足るべき期間を経過して終了したものとみるのが相当である。
したがって,被告は原告に対し本件建物を明渡す義務がある。
※東京地判平成元年6月26日
本記事では,建物の使用貸借における相当期間の経過の判断をした裁判例を紹介しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に使用貸借の終了(明渡)の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。