【司法書士が依頼に応じる義務の規定と正当の事由の解釈(判断基準)】
1 司法書士が依頼に応じる義務の規定と正当の事由の解釈
2 依頼に応じる義務の規定と違反に対する制裁
3 正当な事由の解釈(形式説)
4 正当な事由の解釈(実質説・実体説)
5 依頼拒否の正当の事由が否定された判例(概要)
1 司法書士が依頼に応じる義務の規定と正当の事由の解釈
司法書士は登記申請の依頼に応じる義務を負っています。例外として拒否できるのは正当の事由がある場合に限定されています。
本記事では,このような規定の内容と解釈について説明します。
2 依頼に応じる義務の規定と違反に対する制裁
司法書士が依頼に応じる義務は,司法書士法21条に規定されています。正当な事由がないのに依頼を拒否することは司法書士法に違反することになるので,刑事罰や懲戒の対象となります。
<依頼に応じる義務の規定と違反に対する制裁>
あ 条文規定
(依頼に応ずる義務)
司法書士は、正当な事由がある場合でなければ依頼(簡裁訴訟代理等関係業務に関するものを除く。)を拒むことができない。
※司法書士法21条(旧8条)
い 違反に対する刑事責任
構成要件=司法書士法21条に違反した
法定刑=罰金100万円以下
※司法書士法75条1項
う 違反に対する行政責任
司法書士法21条に違反する行為について
→懲戒事由となる
※司法書士法47条
3 正当な事由の解釈(形式説)
例外的に司法書士が依頼を拒否できるのは正当な事由がある場合に限られています(前記)。
この正当の事由の解釈は大きく2つに分かれます。
まず1つ目は,形式的な理由だけとする見解です。依頼の内容(登記申請の内容)とは関係ない事項だけが依頼を拒否する理由として認められるという見解です。
<正当な事由の解釈(形式説)>
あ 見解の内容
正当な事由とは,形式的な事由に限られる
い 具体例
司法書士法22条の規定により業務を行うことができない事件について依頼を受けた場合
病気や事故,事務輻輳による業務遂行が困難な場合
※『判例タイムズ1184号臨時増刊・平成16年度主要民事判例解説』2005年9月p53参照
4 正当な事由の解釈(実質説・実体説)
正当な事由についてのもう1つの解釈は登記申請の内容も含まれるという見解です。
登記申請に不正がある場合にも依頼を拒否することができるという見解です。司法書士が高度な確認義務を負うという解釈につながる見解です。
最近の裁判例では,この実質説をとる傾向があります。
<正当な事由の解釈(実質説・実体説)>
あ 見解の内容
(形式的な理由に加えて)司法書士において実質関係を考慮して正当な事由を判断できる
→専門家としての標準的知見が要請される
い 具体例
登記義務者に目的物の処分権能が備わっていない場合
登記当事者適格が確認できない場合
登記義務者の登記申請意思の確認ができない場合
代理人と称する者の代理権の存在が確認できない場合
登記申請の適正を疑うに足りる相当な理由がある場合
※『判例タイムズ1184号臨時増刊・平成16年度主要民事判例解説』2005年9月p53
※加藤新太郎『司法書士の登記嘱託拒否と不法行為責任』/市民と法30号p63
※加藤新太郎稿『司法書士の登記嘱託拒否と民事責任』/『NBL801号』2005年1月p59参照
※山崎敏彦稿『司法書士の登記代理業務にかかる民事責任−最近の動向・補論−(下)』/『季刊・青山法学論集40巻3・4合併号』青山学院大学法学会1999年p260
※神戸地裁平成9年1月21日(大阪高裁平成9年12月12日の原審)
う 依頼拒否の説明の方法と時期の問題
依頼拒否をするにしても,その時期と言い方に配慮することが要請される
早期に書類の検討を加えて依頼を拒んでいれば,当事者は代替の司法書士に依頼することができる
説明の方法や時期によっては司法書士の責任が生じることがある
※加藤新太郎稿『司法書士の登記嘱託拒否と民事責任』/『NBL801号』2005年1月p59
5 依頼拒否の正当の事由が否定された判例(概要)
実際に,登記申請の依頼を拒否したことの正当の事由の有無を裁判所が判断した実例があります。最終的に,最高裁は正当の事由はないと判断し,その結果,司法書士は不法行為責任を負うことになりました。
詳しくはこちら|決済を流した司法書士の賠償責任を認めた判例(依頼拒否の正当事由を否定)
本記事では,司法書士が決済当日に登記申請の依頼を拒否したために賠償責任が認められた実例(最高裁判例)を紹介しました。
実際には個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
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