【土地の占有(占有訴権・物権的請求権)の判断(判断基準と具体例)】
1 土地の占有(占有訴権・物権的請求権)の判断
2 占有訴権の要件としての占有の判断要素
3 土地の占有の判断基準(枠組み)
4 薪・藁の置場→利用が軽度(占有否定)
5 承諾を得て断続的に使用→利用が軽度(占有否定)
6 一般公衆へ開放した私道→利用が軽度(占有否定)
7 土地の通行→排他性・必要性の有無により異なる
8 道路上の出店営業→排他性・必要性なし(占有否定)
9 自動車の駐車による賃貸駐車場の占有(概要)
10 建物の所有や占有による敷地の占有(参考)
1 土地の占有(占有訴権・物権的請求権)の判断
土地について占有(事実上の支配)が認められるかどうかが問題となるケースは多いです。ここで,同じ「占有」でも,占有訴権や物権的請求権の要件の「占有」と時効取得の要件の「占有」では判断基準が異なります。
本記事では,占有訴権や物権的請求権の要件としての土地の「占有」について,判断基準や具体例を説明します。
2 占有訴権の要件としての占有の判断要素
占有訴権や物権的請求権(の被告適格)の要件の1つに占有があります。この占有についての,(土地に限らない)一般的な判断要素は,主に排他性と必要性です。これらを補充する要素として明認性と恒常性が位置づけられます。
取得時効の要件の1つとしての占有よりは認められやすいということになります。
<占有訴権の要件としての占有の判断要素>
あ 判断基準
占有訴権の成否・物権的請求権の被告適格に関しては
物の利用の明認性および恒常性はそれ自体不可欠の要素ではない
排他性および必要性(非代替性)を補充する要素にとどまる
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p16
詳しくはこちら|『占有』概念の基本(判断基準や対象物のバラエティ)
い 時効取得の占有(参考)
時効取得の要件の1つの占有の判断について
→(占有訴権の占有よりも)厳しい判断基準を用いる
詳しくはこちら|土地の占有(取得時効)の判断(判断基準と具体例)
3 土地の占有の判断基準(枠組み)
占有訴権の要件としての土地の占有を判断する枠組みは,一応の事実上の支配があるという前提で,否定する方向の事情の有無を判定するというものです。つまり,土地の利用が軽度という場合と,排他性・必要性や明認性・恒常性を欠く場合には占有を否定するということになります。
<土地の占有の判断基準(枠組み)>
あ 占有の判断
『い』のいずれかに該当する場合
→土地の占有(所持)が認められない
→占有訴権が否定される
い 占有が否定される状況
ア 土地の利用が軽度のものであるイ 土地の利用が排他性および必要性を持たず,他方明認性および恒常性を欠く ※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p15,16
この判断の枠組みは抽象的なものです。これだけで個々の事案について明確に判断できるわけではありません。
そこで以下,具体的事案について判断した裁判例を紹介します。
4 薪・藁の置場→利用が軽度(占有否定)
薪や藁の置場として土地を使用していた状況について,利用方法として軽度であると評価して,占有を否定したケースです。
<薪・藁の置場→利用が軽度(占有否定)>
空地を,薪を起き,藁を乾かすために利用していた
→占有(所持)が否定された
※水戸地裁昭和25年6月22日
5 承諾を得て断続的に使用→利用が軽度(占有否定)
土地を使用していたことは間違いないけれど,使用するたびに所有者に承諾を得ていたというケースです。裁判所は,土地の利用として軽度であると評価して,占有を否定しました。
<承諾を得て断続的に使用→利用が軽度(占有否定)>
あ 事案
Aは,マーケット内の建物の一部を賃借して営業していた
Aは,その敷地内の空地をその都度マーケット所有者に断って使用していた
い 裁判所の判断
土地の利用を特定人に認めたのではない
土地所有者の必要時まで一般に開放したに過ぎない
→占有(所持)が否定された
※東京地裁昭和30年10月27日
6 一般公衆へ開放した私道→利用が軽度(占有否定)
私道を使用することが土地の占有にあたるかどうかが問題となったケースです。この私道は一般公衆が利用できる状態にありました。そこで裁判所は,土地の利用として軽度であると評価し,占有を否定しました。
<一般公衆へ開放した私道→利用が軽度(占有否定)>
マーケット内の私道が,一般公衆の用に供されていた
私道を使用する者のうち1人が占有を主張した
→占有(所持)が否定された
※東京高裁昭和37年7月5日
7 土地の通行→排他性・必要性の有無により異なる
土地を通行することが占有にあたるかどうかが問題となった複数のケースです。個別的な事情によって,土地の支配の排他性・必要性の有無が判断されました。排他性・必要性が認められたケースでは占有が認められました。排他性・必要性が否定されたケースでは占有も否定されました。
<土地の通行→排他性・必要性の有無により異なる>
あ 占有否定の裁判例
Aは隣地を通行していた
排他性・必要性が否定された
→占有が否定された
※東京高裁昭和30年11月25日
※東京地裁昭和41年7月29日
い 占有肯定の裁判例
Aは他人所有地を通行していた
通行のための土地利用が排他性および必要性を持っていた
→通行地について占有を認めた
※東京地裁昭和25年12月14日
8 道路上の出店営業→排他性・必要性なし(占有否定)
道路において出店を営業することで占有といえるかどうかが問題となったケースです。設備を移動することは比較的容易だったので,土地の支配の排他性・必要性が欠けると評価されました。結論として占有は否定されました。
<道路上の出店営業→排他性・必要性なし(占有否定)>
A(私人)が出店営業のため事実上道路の一部を使用していた
→排他性・必要性が欠ける
→占有が否定された
※大阪地裁昭和43年11月4日
9 自動車の駐車による賃貸駐車場の占有(概要)
自動車を賃貸駐車場に駐車していることが占有にあたるかどうかという問題もあります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|自動車の駐車による賃貸駐車場の占有の判断(判断の枠組みと具体例)
10 建物の所有や占有による敷地の占有(参考)
以上は,占有訴権や物権的返還請求権の要件としての土地の占有の判断についての説明でした。ここまでは占有訴権と物権的返還請求権で共通する内容でした。
しかし,状況によっては,この2つ(占有訴権における占有と物権的返還請求権の被告適格の占有)で判断基準が異なることもあります。具体的には建物の所有や占有によって敷地(土地)の占有が認められるかどうかという判断です。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物の所有や占有による敷地の占有の判断(占有訴権・物権的返還請求権)
本記事では,占有訴権や物権的請求権の要件としての土地の「占有」の判断基準や具体例を説明しました。
実際には,個別的事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に土地の占有に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。