【土地の占有(取得時効)の判断(判断基準と具体例)】

1 土地の占有(取得時効)の判断
2 取得時効の要件としての占有の判断要素
3 土地の占有判断における3つの重要な要素
4 土地の占有判断で建物の存在を重視した判例
5 山林の占有について緩めの基準を示した裁判例
6 山林の占有について厳しめの基準を示した裁判例

1 土地の占有(取得時効)の判断

土地について占有(事実上の支配)が認められるかどうかが問題となるケースは多いです。ここで,同じ「占有」でも,占有訴権の要件の「占有」と取得時効の要件の「占有」では判断基準が異なります。
本記事では,取得時効の要件としての土地の「占有」について,判断基準や具体例を説明します。
なお,取得時効の要件の占有自主(占有)である必要があります。自主占有については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|取得時効における自主占有(所有の意思)の主張・立証と判断基準

2 取得時効の要件としての占有の判断要素

取得時効の要件の1つに占有があります。この占有についての,(土地に限らない)一般的な判断要素は,主に明認性・排他性・恒常性の3つです。
占有訴権・物権的請求権の要件の1つとしての占有よりは認められにくいということになります。

<取得時効の要件としての占有の判断要素>

あ 判断基準

取得時効の要件としての占有について
明認性・排他性・恒常性は重要な要素である
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p16
詳しくはこちら|『占有』概念の基本(判断基準や対象物のバラエティ)

い 占有訴権・物権的請求権の占有(参考)

占有訴権・物権的請求権(の被告適格)の要件の1つの占有の判断について
→(取得時効の占有よりも)緩い判断基準を用いる
詳しくはこちら|土地の占有(占有訴権・物権的請求権)の判断(判断基準と具体例)

3 土地の占有判断における3つの重要な要素

前記の3つの判断要素のそれぞれについては,いろいろな裁判例で指摘されています。3要素と,それらを指摘する裁判例を整理しておきます。

<土地の占有判断における3つの重要な要素>

あ 明認性

標識の設置など
※朝鮮高裁昭和17年12月28日
※大判大正14年12月12日
※大判昭和16年12月12日(後記※1

い 排他性

※熊本地裁昭和39年12月23日

う 恒常性

※大阪高裁昭和24年2月16日(後記※2
※福島地裁昭和27年8月30日(後記※3

以上の判断の枠組みは抽象的なものです。これだけで個々の事案について明確に判断できるわけではありません。
そこで以下,具体的事案について判断した裁判例を紹介します。

4 土地の占有判断で建物の存在を重視した判例

家屋(建物)を所有することで,その敷地である土地を占有したというケースです。家屋の屋根の下の部分についても占有が認められました。
これは,土地を支配していることが屋根の存在により明確になっているということが理由です。つまり明認性の要素が重視されたといえます。

<土地の占有判断で建物の存在を重視した判例(※1)

(取得取得の要件の占有の判断において)
家屋の所有者は屋根の下の部分の土地を占有する
※大判昭和16年12月12日

5 山林の占有について緩めの基準を示した裁判例

山林の占有の判断基準を示した裁判例です。土地上に立っている木の枝や幹の切除(伐採)の頻度や程度から事実上の支配といえるかどうかを考察しています。住宅の敷地よりは常時直接的に支配する要素を緩和しています。

<山林の占有について緩めの基準を示した裁判例(※2)

あ 判断基準

山林の占有は家屋とか畑地とかのように間断なくなされているものではない
1年に1回下苅をするとか立木の一部の伐採をする,伐採した木を売却するとか他人にこれをやらせるという程度のもので占有といえる

い 原審の批判

原審は,山林の立木全部またはそれに近い程度を伐採するとか植林するという様な場合のみに占有を認めると判断した
しかしこのようなことは実際上少ない
下苅をするのもその必要程度及び箇所にてするものである
立木処分も山林の状況を視察し必要な程度または可能な程度にて行うのが通例である
原審のように判断すると,数百町歩というよう山林はすべて無占有の状態にあるという不当な結論を招来することになる
※大阪高裁昭和24年2月16日

6 山林の占有について厳しめの基準を示した裁判例

前記と同様に山林の占有の判断基準を示した裁判例です。事実上の支配として必要な程度を(前記の裁判例よりは)高めに設定しました。排他性や恒常性の要素を高めに要求したといえます。

<山林の占有について厳しめの基準を示した裁判例(※3)

あ 一般的な判断基準

およそ時効取得の基礎となる占有があるとするためには,その物に対する客観的な事実支配としての所持がなければならない
所持があるというためには,物に対する排他的な支配が客観的に認められるべき事実がなければならない

い 山林・立木の占有の判断基準

山林立木について年数回の手入見まわりなど単なる管理をしていただけでは,他の支配を排除する支配という客観的関係が樹立されているものとはいい難い
なぜなら1人がそのような手入見まわりをしている間に,他の者もまた同様年数回の手入見まわりをすることも可能である
それでは互いに他を排除する支配を確立しているとはいえない
このような単なる手入見まわり以上に,いわゆる明認方法といわれる処置あるいは,立木周辺に柵を設けるとか,常に付近で監視するとかして排他的な支配の事実を作らねば,所持・占有があるとはいえない
※福島地裁昭和27年8月30日

本記事では,取得時効の要件としての土地の『占有』の判断基準や具体例を説明しました。
実際には,個別的事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に土地の占有に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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