【建物の所有や占有による敷地の占有の判断(占有訴権・物権的返還請求権)】
1 建物の所有や占有による敷地の占有の判断
2 建物の所有と敷地の占有との関係(基本)
3 借地上の建物の所有と敷地の占有との関係
4 建物の占有と敷地の占有との関係
1 建物の所有や占有による敷地の占有の判断
建物を所有や占有することによって,敷地を占有するといえることがあります。ただし,状況によって占有といえるかどうかが違ってきます。
本記事では,建物の所有や占有による敷地の占有についての判断基準を説明します。
なお,本記事で説明する占有は,占有訴権や物権的返還請求権の要件としての占有です。例えば取得時効の要件の占有の判断基準とは少し違いがありますのでご注意ください。
詳しくはこちら|『占有』概念の基本(判断基準や対象物のバラエティ)
2 建物の所有と敷地の占有との関係(基本)
一般的な原則論として,建物を所有することが敷地の占有にあたることは多いです。しかし,必ずというわけではありません。
建物の所有者が建物を占有することで初めて敷地の占有が認められるのです。
<建物の所有と敷地の占有との関係(基本)>
あ 典型的な状況
一般的に,建物を所有する者は,直接または間接に建物を占有することによって同時にその敷地を占有するのが通常である
い 敷地の占有の判断基準
建物の所有者だからといって必ず敷地の占有者となるわけではない
→建物所有者が建物の占有を有する場合に限り,敷地の占有を有する
※大判昭和9年5月5日
※東京地裁昭和14年12月20日参照
※大判昭和15年10月24日参照
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p15
3 借地上の建物の所有と敷地の占有との関係
建物の所有者が建物を占有することで敷地の占有が認められます(前記)。ここでの『建物の占有』の中身は現実の占有に限定されません。間接占有で足ります。
この考え方のベースには,建物所有者が敷地の占有権原を持っているという事情があります。
<借地上の建物の所有と敷地の占有との関係>
あ 建物の間接占有による敷地の占有
借地上に所有する建物を他者に賃貸する者は,敷地の占有を有する
※東京地裁昭和元年12月27日
※東京地裁昭和4年9月28日
い 実質的な理由
実質的には,建物所有者の敷地占有権原(土地賃借権)を考慮したものである
(建物の間接占有で足りるという趣旨)
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p15
4 建物の占有と敷地の占有との関係
以上の説明は建物の所有者が建物を占有もしているというケースについてのものでした。
次に,一般的に建物の占有をする者に敷地の占有を認めるかどうかを説明します。要するに,建物の所有者ではないけれど建物を占有する者ということです。
ここでは,占有の種類によって判断(基準)が違ってきます。
まず,占有訴権の要件としての(敷地の)占有については,(一般的な)建物の占有だけでは認められません。
一方,物権的返還請求権の被告適格の要件としての(敷地の)占有については,(一般的な)建物の占有だけでも認められます。
同じ『占有』という用語(概念)でも,状況によって判断基準が異なる場面の1つです。
<建物の占有と敷地の占有との関係>
あ 占有訴権の要件としての占有
建物(家屋)の占有者による敷地の占有に占有訴権の保護を与えた事例は見当たらない
(敷地の占有は認めない)
※岡山地裁昭和45年1月29日参照
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p15
い 物権的返還請求権の被告適格としての占有
建物(家屋)の占有者に,敷地に関する物権的返還請求権の被告適格を認める
(敷地の占有を認める)
※東京控判大正2年5月28日
※東京地裁大正7年6月6日
※長崎控判大正15年12月6日
※最高裁昭和34年4月15日
※東京地裁昭和35年2月18日
※山形地裁昭和40年8月31日
※東京地裁明治37年2月25日参照(反対)
本記事では,建物の所有や占有によって敷地の占有が認められるかどうか,ということを説明しました。
実際には,個別的事情や主張・立証によって結論が違ってきます。
実際に建物の敷地の占有に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。