【占有改定の特殊性(対抗要件としての引渡・即時取得との関係)】

1 占有改定の特殊性
2 対抗要件としての『引渡』と占有改定の基本
3 動産の担保設定における『引渡』と占有改定
4 即時取得と占有改定
5 『占有』の多義性(概要)

1 占有改定の特殊性

占有改定は,(占有訴権の要件としての)占有権の取得の1つの態様です。
詳しくはこちら|占有改定による引渡(占有移転)の基本
一方,占有訴権の要件とは関係ない『占有』の移転として占有改定も含まれるかどうかは別問題です。
詳しくはこちら|『占有』概念の基本(判断基準や対象物のバラエティ)
本記事では,占有改定占有の移転(引渡)として認められるかどうかが問題となる状況を説明します。具体的には,動産の物権変動の対抗要件としての引渡即時取得の要件としての占有の判断です。

2 対抗要件としての『引渡』と占有改定の基本

動産の物権変動の対抗要件は『引渡』です。
占有改定は,占有の移転の1つの態様なので,『引渡』に含まれるかどうかという問題があります。明治時代には否定する見解もありましたが,現在では肯定する(引渡に含む)という見解が主流です。

<対抗要件としての『引渡』と占有改定の基本>

あ 現在の判例

動産物権変動の対抗要件としての『引渡』(民法178条)について
占有改定も含まれる
※大判明治43年2月25日
※大判大正4年9月29日
※大判昭和11年2月14日
※最高裁昭和30年6月2日
※最高裁昭和34年8月28日(差押債権者との対抗関係)
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p39

い 過去の判例

占有改定を含まないという見解であった時期もあった
※東京区判明治35年11月25日

3 動産の担保設定における『引渡』と占有改定

占有改定が行われる典型例の1つが動産への担保設定です。要するに,売渡担保や譲渡担保です。
詳しくはこちら|譲渡担保権の設定方法と実行方式(処分清算方式と帰属清算方式)
動産への担保設定について,占有改定動産の譲渡の対抗要件としての『引渡』として認めた裁判例があります。

<動産の担保設定における『引渡』と占有改定>

あ 担保設定の態様(前提)

売渡担保or譲渡担保契約によって外形上物件の授受なく目的物を譲渡するとともに使用貸借によって引き続き使用する

い 対抗要件の判断

占有改定の意思表示がなされたものとする
それをもって動産物権変動の公示方法をそなえたことになる
※東京地裁昭和32年3月18日

う 占有の内容

譲渡担保契約成立後に,債務者が引き続き目的物を占有している
担保権設定者による目的物の占有は他主占有となる
担保権者の占有は自主・間接占有となる
※名古屋高裁昭和53年6月12日

4 即時取得と占有改定

動産の即時取得の要件の1つが,占有移転(『占有を始めた』)です。
詳しくはこちら|即時取得(善意取得)の基本(要件・回復請求・代価請求)
占有改定については,判例の多数が即時取得の要件としての占有(移転)としては認めていません。

<即時取得と占有改定>

あ 判例の主流

占有改定による即時取得について
多数の判例は否定している
※大判大正5年5月16日
※大判昭和7年2月18日
※大判昭和8年8月9日
※大判昭和16年6月27日
※最高裁昭和32年12月27日
※最高裁昭和35年2月11日

い 少数派の判例

占有改定による即時取得を肯定する少数の判例もある
※大判昭和5年5月20日

う 学説

学説は肯定・否定の見解に分かれている
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p40

5 『占有』の多義性(概要)

以上のように,占有改定は,規定(制度)によって占有として認められることも,認められないこともあります。
もともと『占有』の意味は1つに決まっているわけではないので,規定(制度)によって『占有』の判断基準が異なるのです。
詳しくはこちら|『占有』概念の基本(判断基準や対象物のバラエティ)

本記事では,占有改定が,動産物権変動の対抗要件としての『引渡』即時取得の要件の『占有』として認められるかどうかを説明しました。
実際には,細かい事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に占有に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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