【共有者の権限を超えた用益物権設定・賃貸借・使用貸借契約の効果】

1 共有者の権限を超えた用益物権設定・賃貸借・使用貸借契約の効果

共有不動産全体に対して地上権や地役権といった用益物権を設定する行為、また、共有不動産全体を対象とした賃貸借契約、使用貸借契約は、状況によって変更や管理行為に分類されます(後述)。では、共有者が権限を超えてこれらの契約をしてしまった場合にどうなるでしょうか。本記事では、このことを説明します。

2 用益物権設定・賃貸借契約・使用貸借契約の変更・管理分類(概要・前提)

共有不動産に地上権や地役権といった用益物権を設定する行為は処分行為なので、原理的には共有者全員の同意が必要ですが、令和3年の民法改正で一定期間の範囲内であれば管理分類、つまり過半数持分を有する共有者が行うことが可能となりました。
詳しくはこちら|共有不動産への用益物権設定の変更・管理分類(賃貸借以外・改正民法252条4項)
共有不動産を対象とする賃貸借契約は逆に、原理的には管理分類ですが、一定期間を超える場合には変更分類、つまり共有者全員の同意が必要です。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結の管理行為・変更行為の分類
共有不動産を対象とする使用貸借契約は状況によって、変更管理行為に分類されます。
詳しくはこちら|共有物の使用貸借の契約締結・解除(解約)の管理・処分の分類

3 権限を超えて契約してしまった状況→不動産全体への効果は生じない

たとえば、変更・処分分類の行為は共有者全員の同意が必要です。ここで、共有者Aが、共有者Bの同意なく契約を締結してしまったらどうなるでしょうか。
また、管理分類の行為は過半数の共有持分を持つ共有者の賛成が必要です。ここで、40%の持分しかもっていない共有者Aが契約を締結してしまったらどうなるでしょうか。
まず、当然ですが、不動産全体への効果は生じません。つまり、不動産全体に用益物権の設定された、あるいは不動産全体について賃借人が(賃貸借契約に基づく)使用収益権限をもつということはありません。
ここで問題となるのは、Aの共有持分について用益物権が設定された、あるいはAの共有持分を対象とする賃貸借契約が認められるのではないか、という発想です。
以下、この問題についての解釈を説明します。

4 権限を超えた地上権設定の効果→持分への設定も否定

前述のように、令和3年改正で用益物権の設定について、一定範囲で例外的に管理分類とする例外が創設されました。しかし、それ以前は一律に処分分類でした。そこで、共有者全員で設定契約をしない限り、権限を超えたことになっていました。以下で説明する判例、裁判例はいずれも令和3年改正よりも前のものなので、この分類が前提となっています。
昭和29年最判は共有者Aが不動産全体への地上権設定契約をしたケースなので、まず、権限を超えたことになります。そして最高裁は、なんら地上権は発生しないという判断をしました。Aの持分についてだけ地上権が発生する、という発想も否定していると読めます。

権限を超えた地上権設定の効果→持分への設定も否定

あ 昭和29年最判

(注・法定地上権に関する判断の前提として)
・・・共有者中一部の者だけがその共有地につき地上権設定行為をしたとしても、これに同意しなかつた他の共有者の持分は、これによりその処分に服すべきいわれはないのであり、結局右の如く他の共有者の同意を欠く場合には、当該共有地についてはなんら地上権を発生するに由なきものといわざるを得ないのである。
※最判昭和29年12月23日

い 判例の読み方→持分への地上権設定も否定

・・・前記最判昭29.12.23は「共有者中一部の者だけがその共有地につき地上権設定行為をしたとしても、これに同意しなかった他の共有者の持分は、これによりその処分に服すべきいわれはないのであり、結局右の如く他の共有者の同意を欠く場合には、当該共有地についてはなんら地上権を発生するに由なきものといわざるを得ないのである。」として、地上権設定行為をした共有者を含めて右設定行為を無効と解しており、持分権に対する地上権の設定も当然に否定しているものと思われる。
※竹内純一稿/『判例タイムズ677号臨時増刊 主要民事判例解説』1988年12月p38〜

5 権限を超えた地役権設定の効果→持分への設定も否定

(1)昭和48年東京地判

用益物権の1つである地役権の設定についても、下級審裁判例が、持分だけへの設定を否定しています。まず、昭和48年東京地判は特に理由をつけずに否定しています。

昭和48年東京地判

あ 土地全体への地役権設定→否定(前提)

(注・通行地役権について)
土地の共有者は他の共有者全員の同意を得ない限り、共有物について、通行地役権その他の共有者全員の負担となるような用益権を設定することはできず

い 共有持分への地役権設定→否定

若しこれに反してかかる用益権を設定する契約を締結したときは該契約は全面的に(該契約を締結した共有者についても無効であると解するのが相当であり、
※東京地判昭和48年8月16日

(2)昭和61年名古屋地判

次に、昭和61年名古屋地判は、地役権の不可分性の条文を理由として挙げて、持分への地役権設定を否定しています。

昭和61年名古屋地判

あ 土地全体への地役権設定→否定(前提)

・・・三分の一の持分しか有していない訴外Sが、右各土地全体につき単独で地役権を設定する権限を有しないことは明らかであるし、

い 共有持分への地役権設定→否定

又訴外Sが自己の右持分のみについて地役権設定が可能であつたかの点についても、地役権は要役地の物質的な便益のために、承役地を一体として現実的に使用することを内容とするものであるから、訴外Sが自己の共有持分のみについて地役権を設定することはできないものというべきである(この趣旨は民法二八二条一項に地役権の消滅につき規定されているが、地役権の設定についても妥当する)。
従つて、訴外Sと被告との間の地役権設定契約によつてはまだ本件土地(一)(二)の地役権の設定は効力を生じないこととなる。
※名古屋地判昭和61年7月18日

う 民法282条(地役権の不可分性)の条文

土地の共有者の一人は、その持分につき、その土地のために又はその土地について存する地役権を消滅させることができない
※民法282条1項

6 共有者による賃貸借・使用貸借契約の効果→持分を対象とする契約も否定

次に、不動産全体を対象とする賃貸借契約、使用貸借契約を締結することについて説明します。これらの契約は前述のように、期間やその他の状況によって、変更または管理行為に分類されます。
共有者Aが権限を超えてこれらの契約をしてしまった場合、不動産全体を対象とする契約としては無効です。正確には、まず、関与していない共有者に契約の効果は及びません。
では、共有者Aの共有持分だけを対象とする賃貸借や使用貸借が成立するかというと、これも否定されます。

単独の共有者による貸借契約(賃貸借・使用貸借)の効果

あ 前提事情

共有者Aが権限を超えて第三者Bとの間で賃貸借契約または使用貸借契約を締結した

い 不動産全体を対象とする契約→不適法

不動産全体を対象とする契約としては適法ではない
A以外の共有者に契約の効果は及ばない
ただし、Bは共有者Aから使用承諾を受けた第三者という扱いになる(後述)

う 共有持分を対象とする契約→否定

共有持分を対象とする賃借権設定(賃貸借)や使用貸借はできない(と、現在では解釈されている)(後述)

え 債権契約としての効果

仮に賃貸借・使用貸借契約に関与していない共有者Bには効果が帰属しない場合でも
契約当事者A・Bの間では債権契約として有効である
→債務不履行責任が生じる

7 共有持分権を対象とする用益権設定・賃貸借・使用貸借→否定

(1)用益物権の対象は「土地」だけ

以上の説明では、共有者Aが権限を超えた契約をしてしまった、ということを前提としていました。
この点、もともと共有者AがAの共有持分だけについて、用益物権の設定契約や、賃貸借、使用貸借契約を締結した場合はどうなるでしょうか。
まず、用益物権は「土地」を対象とするものです。土地の共有持分権土地そのもの(=100%所有権)とはいえないので、形式的にあてはまりません。つまり、共有持分権に用益物権を設定するということ自体ができないのです。
詳しくはこちら|共有持分権を対象とする処分(譲渡・用益権設定・使用貸借・担保設定)
以上で紹介した判例、裁判例は持分への用益物権を否定する理由としてこのことを挙げていないですが、当然の前提としているように思えます。

(2)賃貸借・使用貸借の対象は「物」だけ

次に、賃貸借や使用貸借契約は債権契約です。他人物を対象とした契約も可能です。ただ、「物」が対象となっている必要があります。「共有持分権」を対象とすること自体が否定されています。
ただし、実務では、賃貸借に準じた関係として、「物」以外を対象とする契約は広く認められています(しかも、「準じた関係」と明示しないことも多いです)。
詳しくはこちら|共有持分権を対象とする処分(譲渡・用益権設定・使用貸借・担保設定)

8 共有者から使用承諾を受けた第三者への明渡・金銭の請求(概要)

共有者Aが権限を超えて賃貸借や使用貸借の契約を第三者と締結してしまった場合には、前述のように、不動産全体にも、Aの持分だけにも契約の効果は生じません。ただし、これらの契約そのものではなく、共有者の1人が共有物の使用を承諾した状態となります。原則的に、他の共有者は原則として明渡請求をすることはできないけれど、金銭の請求は認められる、ということになります。これらについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有者から使用承諾を受けて占有する第三者に対する明渡請求
詳しくはこちら|共有者から使用承諾を受けた第三者が占有するケースにおける金銭請求

9 共有者単独での売却、担保物権設定の効果(概要)

以上の説明は、共有者が権限を超えて用益物権を設定した、または賃貸借、使用貸借契約を締結したケースについてのものでした。
この点、共有者が権限を超えて共有物(全体)を売却した場合や、担保物権を設定した場合には、以上とは異なり、当該共有者の有する共有持分についてだけ効果が生じることがあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有者単独での譲渡(売却)の効果(効果の帰属・契約の効力)
詳しくはこちら|共有不動産への抵当権(担保物権)設定の分類と共有者単独での抵当権設定の効果

本記事では、共有者の権限を超えた用益物権設定、賃貸借契約、使用貸借契約の効果について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【複数の賃借人(共同賃借人)の金銭債権・債務の可分性(賃料債務・損害金債務)】
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