【区分所有建物における共有持分放棄(分離処分禁止との関係)】
1 区分所有建物における共有持分放棄(分離処分禁止との関係)
区分所有建物(分譲マンション)については、専有部分と敷地利用権の分離処分が禁止されています。
詳しくはこちら|区分所有建物の専有部分と敷地利用権の分離処分禁止
ところで、共有持分は放棄することができ、この場合、放棄者の共有持分は他の共有者に帰属します。
詳しくはこちら|共有持分放棄の基本(法的性質・通知方法など)
ここで、共有持分の放棄ができるかどうか、という問題が生じます。本記事では区分所有建物における共有持分放棄の解釈について説明します。
2 分離処分禁止の条文
区分所有法では、分離処分の禁止とともに、敷地利用権には民法255条(共有持分放棄)の規定は適用しないという規定があります。最初に条文そのものを押さえておきます。
分離処分禁止の条文
第二十二条 敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。
2(以下略)
※区分所有法22条1項
(民法第二百五十五条の適用除外)
第二十四条 第二十二条第一項本文の場合には、民法第二百五十五条(同法第二百六十四条において準用する場合を含む。)の規定は、敷地利用権には適用しない。
※区分所有法24条
3 敷地利用権の共有持分のみの放棄(不可)
敷地利用権の共有持分のみを放棄することは分離処分にストレートにあたるので、認められません。
敷地利用権の共有持分のみの放棄(不可)
→分離処分に該当する
放棄する時は、専有部分と敷地利用権を一体としてする必要がある
※青山正明編『注釈不動産法第5巻 区分所有法』青林書院1997年p112
4 専有部分の所有権と敷地利用権の共有持分の放棄
専有部分と敷地利用権の権利を同時に放棄するのであれば、分離した処分とはいえません。分離処分の禁止にはあたらないはずです。
しかしそもそも、不動産の所有権の放棄が認めれるかどうかが明確に決まっていません。
詳しくはこちら|無主の不動産→国庫帰属|不動産の所有権放棄は現実的にはできない傾向
所有権の放棄が否定されれば、できないという結論に至ります。
所有権の放棄ができることを前提とすると、敷地利用権をどうするか、という問題が生じます。この場合、区分所有法24条が適用されて、専有部分とともに敷地利用権も国庫に帰属することになります。
なお、所有権の相対的放棄(指定した相手方に帰属させる)ができるとすれば(当然ですが)放棄の相手方に専有部分と敷地利用権が帰属することになります。
専有部分の所有権と敷地利用権の共有持分の放棄
あ 所有権放棄否定説からの結論
専有部分の所有権(と敷地利用権)を放棄することについて
専有部分の放棄が認められないとすれば、区分所有法22条を適用する余地はないことになる
い 所有権放棄肯定説からの結論
専有部分の放棄(敷地利用権と一体としてする絶対的放棄)が認められるとすれば、区分所有法22条が適用される結果(すなわち民法255条、264条の適用が排除される結果)、専有部分とその敷地利用権は、無主の不動産として国庫に帰属することになろう
※民法239条
※青山正明編『注釈不動産法第5巻 区分所有法』青林書院1997年p112、113
う 所有権の相対的放棄を認める見解からの結論
不動産所有権の相対的放棄を適用する見解
→放棄の相手方に専有部分と敷地利用権が帰属する
※民法287条(適用または類推適用)
※青山正明編『注釈不動産法第5巻 区分所有法』青林書院1997年p113
5 専有部分の共有持分の放棄
以上の説明はいずれも、専有部分が単独所有であることが前提でした。この点、専有部分が共有である場合についてはどうでしょうか。
一般的な共有持分と同じように、専有部分の共有持分を放棄することは可能であると思われます。敷地利用権については、専有部分の共有者の間に限って消滅と帰属が生じると考えるのが整合的です。これを前提とすると、専有部分の他の共有者に放棄者の敷地利用権の共有持分が帰属することになるはずです。
専有部分の共有持分の放棄
あ 結論
専有部分の共有持分を放棄すること
→これ自体は可能であると思われる
ただし、この解釈についての裁判例や学説はみあたらない
い 具体例
専有部分の共有者がA・Bであった
Aが専有部分の共有持分を放棄した
→専有部分の共有持分はBに帰属する
※民法255条
敷地利用権の共有持分は、専有部分の共有持分と一体となってBに帰属すると思われる
う 建物所有権と敷地の権利の一体性を認める判例(参考・概要)
建物所有権と敷地の賃借権は一体となつて一の財産的価値を形成している
建物に抵当権が設定されたときは敷地の賃借権にも効力が及ぶ
※最高裁昭和40年5月4日
詳しくはこちら|区分所有建物の専有部分と敷地利用権の分離処分禁止
本記事では、区分所有建物における共有持分放棄について説明しました。
実際には、個別的事情によって結論が違ってくることもあります。
実際に区分所有建物(分譲マンション)の共有に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。