【対抗関係の論理的説明の種類(不完全物権変動説など)】
1 対抗関係の論理的説明の種類(不完全物権変動説など)
2 対抗関係における論理的問題の所在
3 起点となる者の権利の有無による説の分岐(大分類)
4 非・無権利構成の中の説の分岐
5 無権利構成の中の説の分岐
1 対抗関係の論理的説明の種類(不完全物権変動説など)
民法177条は,登記を得ないと,物権変動(取得したこと)を主張できないと定めています。このルールが適用される状態のことを対抗関係といいます。
詳しくはこちら|対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本
ところでこのルール(対抗関係)の論理的説明は意外と複雑です。具体的な事案の法的扱いに直接影響するわけではありませんが,いろいろな法解釈に間接的に影響することがあります。
本記事では,対抗関係の論理的説明についての見解(説)のバリエーションを説明します。
2 対抗関係における論理的問題の所在
対抗関係のルールは先に登記を得たほうが物権(所有権)を得るという単純なものです。典型例は2重譲渡のケースです。
しかし,理論的には第1売買の時点で売主(A)は所有権を失っているので,第2売買の買主(C)が権利を得ることはないのではないか,という発想が生まれます。
<対抗関係における論理的問題の所在>
あ 2重譲渡(売買)の例
第1売買 A→B
第2売買 A→C
Cが所有権(移転)登記を得た
Cが確定的に所有権を取得した
い 疑問点
第1売買でAは所有権を失っている
権利のないAからCが所有権を得るのはおかしいのではないか
3 起点となる者の権利の有無による説の分岐(大分類)
前述のような理論的な問題について,いろいろな説明がされています。細かく分けるととても多いので,本記事では,大きく分類します。
最初に,多くの説を2種類に分類します。起点となる者(2重売買の売主A)は,第1売買の後に無権利となるのか,(完全な)無権利にはならないのか,という分岐です。
<起点となる者の権利の有無による説の分岐(大分類)>
あ 非・無権利構成
起点となる者Aは無権利ではない
Aの権利の不完全性について,さらに説が分岐している(後記※1)
い 無権利構成
Aは無権利である
第2譲受人Cの権利取得の構成について,さらに説が分岐している(後記※2)
※舟橋諄一ほか編『新版 注釈民法(6)物権(1)補訂版』有斐閣2009年p503,504
4 非・無権利構成の中の説の分岐
起点となる者が(完全には)無権利にはならない,という説はたくさんあります。さらに分類できます。その中でも近年の主流は不完全物権変動論であるといえるでしょう。
<非・無権利構成の中の説の分岐(※1)>
あ 不完全物権変動説(二段階物権変動論も類似する)
意思表示のみによって当事者間でも第三者に対する関係でも,物権変動の効力を生ずるが,登記を備えないかぎり完全には排他性のある効果を生ぜず,Aも完全には無権利者と ならないから,Aがさらに二重譲渡することが可能である
※最判昭33年10月14日(不完全物権変動説)
い 債権的効果説・相対的無効説・関係的所有権説
不完全物権変動説(ア)と類似する見解
※大判明治34年2月22日(相対的無効説)
※大判明治39年4月25日(相対的無効説)
※大連判大正15年2月1日(関係的所有権説)
う 優先的効力説
※舟橋諄一ほか編『新版 注釈民法(6)物権(1)補訂版』有斐閣2009年p505,506
5 無権利構成の中の説の分岐
起点となる者(売主)が無権利であると言い切ってしまう説も,第2売買の買主Cが所有権を得る結論は同じなので,どうやって無権利者から権利を得ることができるのか,という課題について説明をしています。その説明(説)は大きく分けると2種類になります。さらにその2種類の内容もいくつかに分けられます。
<無権利構成の中の説の分岐(※2)>
あ 不真正無権利構成
第2譲受人Cの権利取得は,無権利者からの取得ではない
起点の権利の不完全性について説が分岐している
ア 第三者主張説
※大判明治45年6月28日(第三者主張説)
※大判大正5年12月25日(第三者主張説)
イ 第三者出現(可能性)説ウ 第二譲渡有効化論
い 真正無権利構成
第2譲受人の権利取得は,無権利者からの取得である
無権利者からの権利取得をどのように正当化するかをめぐって説が分岐している
ア 法定証拠構成イ 制裁的失権構成ウ 信頼保護構成(公信力説)
※舟橋諄一ほか編『新版 注釈民法(6)物権(1)補訂版』有斐閣2009年p506〜512
本記事では,対抗関係の論理的説明についての見解(説)のバリエーションを説明しました。
実際にこの理論を使うのは,権利を取得したと主張する者が複数いる場合に,高度な理論的主張をするという状況です。
実際に不動産の権利が,登記と絡んで問題なっている状況に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。