【高度障害保険金の差押|『死亡保険金』には及ばない|『保険金請求』が別途必要】
1 高度障害保険金とは
2 『高度障害保険金』は差押,仮差押の対象財産に該当する
3 高度障害保険金は差押だけではなく,別に『保険金請求』が必要である
4 『高度障害保険金』は被保険者死亡により『死亡保険金』にチェンジする
5 高度障害保険金の差押,仮差押→直接or代位により『保険金請求』ができる
6 『高度障害保険金』の差押→被保険者死亡で回収不能→弁護士の責任|判例
1 高度障害保険金とは
高度障害保険金に対する差し押さえをすることがあります。
高度障害保険とは,文字どおり,一定の高度な障害が生じた時に請求できる保険です。
<一般的な高度障害保険金の対象障害>
・両眼の視力を全く永久に失ったもの
・言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの
・中枢神経系・精神または胸腹部臓器に著しい障害を残し,終身常に介護を要するもの
・両上肢とも手関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
・両下肢とも足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
・1上肢を手関節以上で失い,かつ,1下肢を足関節以上で失ったか,またはその用を全く永久に失ったもの
・1上肢の用を全く永久に失い,かつ,1下肢を足関節以上で失ったもの
また,特徴として,一般的に,『契約者=被保険者=受取人』とされていることも挙げられます。
そのため,保険金が,差押や仮差押の対象とすることが比較的容易です。
保険金の発生が把握しやすく,また,『受取人が第三者であったため差押が空振りになった』ということを避けられるからです。
なお,『指定代理請求人』という制度が一般的にあります。
これは,契約者(受取人)の意思能力が欠けた場合に『請求作業のみ第三者が代行する』というものです。
あくまでも『受取人=保険金請求者』は契約者のままです。
2 『高度障害保険金』は差押,仮差押の対象財産に該当する
高度障害保険金は,『金銭の支払を目的とする債権』に該当します(民事執行法143条)。
債権差押の対象となります。
仮差押についても,同様に,『金銭債権』,が対象となっています(民事保全法50条)。
ただし,差押命令や仮差押命令が発令されただけで,自動的に回収できる=保険金が支給される,というわけではありません。
注意が必要です。
3 高度障害保険金は差押だけではなく,別に『保険金請求』が必要である
<ポイント>
高度障害保険金については,差押や仮差押をしただけでは回収できないことがある
『保険金請求』をしない限り,『保険金請求権』が具体化しない→回収できない
高度障害保険金は,あくまでも『対象事故(保険事故)発生+保険金請求』という2つの要件が必要です。
『被保険者が高度障害を負った(=保険事故発生)』,というだけでは保険金請求権は発生しません。
つまり保険金請求未了だと,保険金請求権が存在しないという状態です。
この状態のまま被保険者が死亡した場合,一般的に,この保険は失効することになっています。
4 『高度障害保険金』は被保険者死亡により『死亡保険金』にチェンジする
<高度障害保険金→死亡保険金へのチェンジ>
あ 高度障害を負った状態から死亡に至った場合
ア 『高度障害保険金』→『請求できなく』なるイ 『死亡保険金』→『請求できる』状態になる
い 注意点
『高度障害保険金』への差押の効力は『死亡保険金』には及ばない
『高度障害保険金』だけの差押をしていた場合は『回収不能』となってしまいます。
被保険者の死亡前であれば『行動障害保険金』を『債権者が代わって請求する』という方法もあったのです。
一方,最初から『死亡保険金』も合わせて差押をしておくとベターです。
5 高度障害保険金の差押,仮差押→直接or代位により『保険金請求』ができる
<高度障害保険金の『保険金請求』の方法>
あ 差押の場合
直接的な取立権の一環として
い 仮差押の場合
債権者代位権として
高度障害保険金について差押をした場合,民事執行法に基づく直接取立として,保険会社に対して保険金請求することができます(民事執行法155条)。
仮差押については,直接取立という権限はありません。
仮差押の場合は,債権者代位権として,保険会社に対して保険金請求をする,という方法があり得ます(民法423条)。
6 『高度障害保険金』の差押→被保険者死亡で回収不能→弁護士の責任|判例
『高度障害保険金』の差押について『弁護士のミス』として判例となっているものを紹介します。
<高度障害保険金の請求をしそびれた→受任弁護士の賠償責任発生>
あ 事案
『高度障害保険金』の仮差押を行った
『死亡保険金』は対象に含めなかった
高度障害保険金の『請求』をしなかった
被保険者(債務者)が死亡した
↓
結果的に,いずれの保険金も回収不能な状態となった
い 裁判所の判断
受任弁護士に2500万円の損害賠償責任を認める
※大阪地裁平成13年1月26日
条文
[民事執行法]
(債権執行の開始)
第百四十三条 金銭の支払又は船舶若しくは動産の引渡しを目的とする債権(動産執行の目的となる有価証券が発行されている債権を除く。以下この節において「債権」という。)に対する強制執行(第百六十七条の二第二項に規定する少額訴訟債権執行を除く。以下この節において「債権執行」という。)は、執行裁判所の差押命令により開始する。
(差押債権者の金銭債権の取立て)
第百五十五条 金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときは、その債権を取り立てることができる。ただし、差押債権者の債権及び執行費用の額を超えて支払を受けることができない。
2 差押債権者が第三債務者から支払を受けたときは、その債権及び執行費用は、支払を受けた額の限度で、弁済されたものとみなす。
3 差押債権者は、前項の支払を受けたときは、直ちに、その旨を執行裁判所に届け出なければならない。
[民事保全法]
(債権及びその他の財産権に対する仮差押えの執行)
第五十条 民事執行法第百四十三条 に規定する債権に対する仮差押えの執行は、保全執行裁判所が第三債務者に対し債務者への弁済を禁止する命令を発する方法により行う。
2 前項の仮差押えの執行については、仮差押命令を発した裁判所が、保全執行裁判所として管轄する。
3 第三債務者が仮差押えの執行がされた金銭の支払を目的とする債権の額に相当する金銭を供託した場合には、債務者が第二十二条第一項の規定により定められた金銭の額に相当する金銭を供託したものとみなす。ただし、その金銭の額を超える部分については、この限りでない。
4 第一項及び第二項の規定は、その他の財産権に対する仮差押えの執行について準用する。
5 民事執行法第百四十五条第二項 から第五項 まで、第百四十六条から第百五十三条まで、第百五十六条、第百六十四条第五項及び第六項並びに第百六十七条の規定は、第一項の債権及びその他の財産権に対する仮差押えの執行について準用する。
[民法]
(債権者代位権)
第四百二十三条 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
2(略)