【共有名義人への登記請求の共同訴訟形態を登記申請行為の性質で判定する見解】
1 共有名義人への登記請求の共同訴訟形態を登記申請行為の性質で判定する見解
2 宮田信夫氏の見解(昭和38年判例解説・抜粋)
3 窪木稔氏の見解(裁判実務大系・抜粋)
4 幸良秋夫氏の見解(抜粋)
1 共有名義人への登記請求の共同訴訟形態を登記申請行為の性質で判定する見解
共有名義人が被告である登記手続請求訴訟の共同訴訟形態についてはいろいろな見解があります。
詳しくはこちら|共有名義人が被告である登記手続請求訴訟の共同訴訟形態の全体像
いろいろな見解の中には,登記申請行為の性質で判定する見解がいくつかあります。本記事ではこのような見解の内容を説明します。
2 宮田信夫氏の見解(昭和38年判例解説・抜粋)
共有名義人が被告である登記手続請求訴訟の共同訴訟形態の解釈で参照される代表的な判例として,昭和38年判例が挙げられます。この判例は読み取り方自体が複雑なので,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有名義人への登記請求を必要共同訴訟とした昭和38年判例
ところで,昭和38年判例の判例解説として,宮田信夫氏が解釈を示しています。その内容は,請求権の性質を物権的と債権的の2つで区別する見解を否定し,登記申請行為の性質によって判定する,というものです。
<宮田信夫氏の見解(昭和38年判例解説・抜粋)>
あ 問題点
「所有権移転登記の共有名義人を被告として当該登記の抹消登記手続を求める訴訟は必要的共同訴訟にあたるか否か」の問題については,学説の分れるところである。
※宮田信夫稿/最高裁判所調査官室編『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和38年度』法曹会1964年p96
い 債権物権2分論否定・登記申請行為の性質による判定採用
第三者から共有名義人に対し共有登記の移転登記もしくは抹消登記を求める請求は,登記申請行為を求めるものであって,必要的共同訴訟にあたるか否かは,債権的請求と物権的請求とによって区別すべきではなく,共有登記についての登記申請行為の性質自体によって決められるべきではなかろうか。
※宮田信夫稿/最高裁判所調査官室編『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和38年度』法曹会1964年p96
3 窪木稔氏の見解(裁判実務大系・抜粋)
窪木稔氏の見解も,前記と同様に,物権的請求と債権的請求で区別することを否定し,登記申請行為の性質によって判定するというものです。
その上で,過去の判例で固有必要的共同訴訟としたケースについて,今後は最高裁が別の判断をする(固有必要的共同訴訟を否定する)ことを想定しています。
<窪木稔氏の見解(裁判実務大系・抜粋)>
あ 判例の傾向
このように,最近の判例は,受動訴訟において固有必要的共同訴訟の成立を否定することでほぼ固まりつつあるが,ただ物上請求権に基づく抹消登記請求訴訟について固有必要的共同訴訟と解する裁判例(後記※1)がある。
※窪木稔稿『登記請求訴訟と必要的共同訴訟』/岡崎彰夫ほか編『裁判実務大系 第12巻 不動産登記訴訟法』青林書院1992年p392
い 固有必要的共同訴訟の否定
原告が被告を選択し意識的に紛争を分断するようなことは現実には稀有な事態であろう。
実際上受動訴訟において必要的共同訴訟が問題になるのは,主に原告が共有者全員を確定することが困難な事情がある場合(例えば相続関係が不明又は争いがある時など)に誰を被告とすべきかという問題,訴訟進行中に一部のものによる請求の認諾,一部の被告に対する訴えの取下げなどにより個別的解決が可能かという問題及び共有者全員を被告としないで訴訟が行われた後にそれが判明した時に既になされた訴訟手続,判決の効力の問題などであろう。
訴訟手続,判決の安定性の確保,個別的処理の便宜の観点から否定説の方が政策的に妥当であり,共有者が移転登記義務,抹消登記義務を負担する場合その義務は不可分債務の性格を有し,民法432条,430条により債権者は共有者の各自に対し同時もしくは順次に全部又は一部の履行を請求することができるから理論的にも固有必要的共同訴訟にはならないと解する。
※窪木稔稿『登記請求訴訟と必要的共同訴訟』/岡崎彰夫ほか編『裁判実務大系 第12巻 不動産登記訴訟法』青林書院1992年p393
う 物権債権2分論への批判
判例の態度を見ると,一見物上請求権に基づく抹消登記請求を固有必要的共同訴訟と解し,契約上の義務の履行としての移転登記手続請求を固有必要的共同訴訟でないと解しているがごときであるが,第三者から共有名義人に対して共有登記の移転登記又は抹消登記を求める訴訟は,登記申請行為を求めるものであって,固有必要的共同訴訟にあたるか否かは,債権的請求と物権的請求とによって区別すべきではなく,共有登記についての”登記申請行為の性質自体によって決められ
るべき”である。
右区別の合理性は疑わしいように思われる。
※窪木稔稿『登記請求訴訟と必要的共同訴訟』/岡崎彰夫ほか編『裁判実務大系 第12巻 不動産登記訴訟法』青林書院1992年p393,394
え 将来の最高裁の判断
受動訴訟のうちの物上請求権に基づく抹消登記請求については現在も最高裁が同じ態度をとるか疑わしいことは前記のとおりである。
※窪木稔稿『登記請求訴訟と必要的共同訴訟』/岡崎彰夫ほか編『裁判実務大系 第12巻 不動産登記訴訟法』青林書院1992年p395
お 補足説明(当サイト)
※1 この「裁判例」とは,最判昭和38年3月12日のことである。ただし,固有必要共同訴訟とは判示していない。
詳しくはこちら|共有名義人への登記請求を必要共同訴訟とした昭和38年判例
4 幸良秋夫氏の見解(抜粋)
幸良秋夫氏の見解も,前記と同様です。登記申請行為の性質によって判定するというものです。これを前提とすると,共有者が被告となる訴訟では,類似必要的共同訴訟になる,という結論(見解)です。
<幸良秋夫氏の見解(抜粋)>
あ 物権債権2分論(前提)
一見すると,物上請求権(所有権)に基づく抹消登記又は移転登記の手続請求を必要的共同訴訟とし,契約上の義務の履行としての移転登記手続請求は必要的共同訴訟ではないと解しているかのようですが,
い 登記申請行為の性質による判定
最近では,第三者から共有登記名義人らに対し,所有権移転の登記又は当該共有登記の抹消を求める請求は,登記申請行為を求めるものであるから,当該登記申請行為の性質によって決定すべきであるとする考え方が有力のようです。
※幸良秋夫著『改訂 設問解説 判決による登記』日本加除出版2012年p127
う 登記義務の承継→固有必要的共同訴訟否定方向
例えば,被相続人の登記義務を承継した相続人が複数ある場合,その全員が申請人とならなければなりませんので,共同相続人の一部の者に対して所有権移転登記手続を命ずる確定判決を得ても,他の共同相続人に対して同様の確定判決を得るか,又はその者が任意の共同申請に応ずるかのいずれかでなければ,当該登記申請は受理されませんが,それ自体登記手続上の問題として考えることができます。(後記※2)
※幸良秋夫著『改訂 設問解説 判決による登記』日本加除出版2012年p127
え 類似必要的共同訴訟採用
議論のあるところですが,共有登記名義人らが移転又は抹消の登記申請義務を負担する場合には,その義務は不可分債務の性格を有し,共有者の1人又は数人を相手方として,同時若しくは順次に訴えを提起することができると解し(任意に登記申請に応じる者があるときは,その者との間では共同申請の形をとれば足りる。),
数人を相手方として訴えを提起した場合には,類似必要的共同訴訟として合一の確定が要請されると考えるのが妥当であるように思われます。
※幸良秋夫著『改訂 設問解説 判決による登記』日本加除出版2012年p127
お 補足説明(当サイト)
※2 固有必要共同訴訟ではないことを前提としていると読める。
本記事では,共有名義人が被告である登記手続請求訴訟の共同訴訟形態についての見解のうち,登記申請行為の性質で判定する見解を説明しました。
実際には,個別的な事情により,法的判断や最適な対応方法は違っています。
実際に共有名義の登記に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。