【共有名義人への登記請求を必要共同訴訟とした昭和38年判例】

1 共有名義人への登記請求を必要共同訴訟とした昭和38年判例

共有名義人が被告である登記手続請求訴訟の共同訴訟形態についてはいろいろな見解があります。
詳しくはこちら|共有名義人が被告である登記手続請求訴訟の共同訴訟形態の全体像
この解釈を示した判例の中に、最判昭和38年3月12日(昭和38年判例)があります。この判例は読み取り方やその後の判例との関係など、解釈の中でよく登場します。そこで本記事では、昭和38年判例だけについて説明します。

2 昭和38年判例の事案

最初に、昭和38年判例の事案の内容を整理しておきます。
要するに、実体を欠く所有権の登記が存在する状態になり、具体的には2人の共有持分の登記であった、ということです。もちろん、共有持分の登記は抹消すべきということになります。

昭和38年判例の事案

A所有の不動産につきXのために(X名義の)所有権移転請求権保全の仮登記がされた
Bの申立により強制競売開始決定がされた
Y1、Y2が共同で競落した
Y1、Y2名義の所有権移転登記がされた
Xは、所有権移転請求権仮登記の本登記を得た
Xは、Y1、Y2名義の所有権移転登記はX名義の所有権移転請求権仮登記後にされたものであるからXに対抗できないと主張して、Yらに対し右所有権移転登記の抹消登記手続を求めた

3 昭和38年判例の引用

昭和38年判例では、共同訴訟形態が問題となりました。具体的には、必要的共同訴訟であるとすれば合一確定の要請が働くなど、通常共同訴訟は別のルールが適用されるのです。
詳しくはこちら|共同訴訟形態の基本(通常・固有必要的・類似必要的の分類など)
昭和38年判例は、必要的共同訴訟である(通常共同訴訟ではないという意味)と明確に示しました。

昭和38年判例の引用

本件は、本件建物につき所有権移転請求権保全の仮登記にもとづき所有権移転の本登記を経由した上告人から、右建物につき被上告人らが共同して競落したことを原因として所有権移転登記を経由した被上告人らに対し、右共有名義の所有権移転登記の抹消登記手続を請求する訴訟であることは記録上あきらかであるところ、右訴訟は必要的共同訴訟であると解すべきである。
※最判昭和38年3月12日

4 固有必要的共同訴訟という読み取り方(過去の見解)

ところで、必要的共同訴訟は、さらに2つに分類されます。固有必要的共同訴訟と類似必要的共同訴訟です。
詳しくはこちら|共同訴訟形態の基本(通常・固有必要的・類似必要的の分類など)
昭和38年判例の判決文には固有とも類似とも記載されていません(前記)。これについて、古い見解(文献)では、固有必要的共同訴訟であるという読み方がされていました。

固有必要的共同訴訟という読み取り方(過去の見解)

あ 新・コンメンタール(引用)

(昭和38年判例について)
共有者に対して、共有名義の所有権移転登記の抹消登記請求をする場合は、固有必要的共同訴訟であるとする判例がある。
ただし、判決理由は単に必要的共同訴訟であると述べているだけで、そうなる理由は必ずしも明らかでない。
※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p179

い 裁判実務大系(引用)

最判昭和38年3月12日は所有権移転登記の共有名義人を被告として物上請求権に基づき登記の抹消を求める訴訟は固有必要的共同訴訟と解すべきと判示する。
※窪木稔稿『登記請求訴訟と必要的共同訴訟』/岡崎彰夫ほか編『裁判実務大系 第12巻 不動産登記訴訟法』青林書院1992年p392

う 昭和43年判例解説

共有関係にたつと思われる者らが被告とされる訴訟についてこれをみると、まず、これを固有必要的共同訴訟と解する見解がある。
判例としては、(略)所有権移転登記の共有名義人を被告として当該登記の抹消登記手続を求める訴につき最高裁昭和38年3月12日三小判等がみられ(略)
※ 千種秀夫稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和43年度』p325p328、329

5 (単なる)必要的共同訴訟という読み取り方

昭和38年判例には、固有という文字はありません。そこで、現在では固有必要的共同訴訟ではない(類似必要的共同訴訟にとどまる)という読み取り方が主流となっています。

(単なる)必要的共同訴訟という読み取り方

あ 大内俊身氏コメント(引用)

昭和38年最判は、右訴訟を必要的共同訴訟であるとする理由を特に述べていない(なお、判文中には右訴訟は必要的共同訴訟であるとのみ判示されているにすぎず、『固有必要的共同訴訟』の語は用いられていない。)。
※大内俊身稿『数人を被告とする登記関係訴訟と固有必要的共同訴訟』/吉野衛編『香川最高裁判事退官記念論文集 民法と登記 中巻』テイハン1993年p406

い 新堂幸司氏による分類

最高裁昭和34年3月26日、最高裁昭和38年3月12日を類似必要的共同訴訟として分類している
※新堂幸司著『新民事訴訟法 第6版』弘文堂2019年p790

う 田中澄夫氏コメント

右判決(昭和38年判例)が、固有必要的共同訴訟であることで認めたのか、類似必要的共同訴訟であるとするのかは、判旨からは不明である
※田中澄夫稿『共同相続人に対する土地所有権移転登記手続請求と必要的共同訴訟の成否』/藤原弘道ほか編『民事判例実務研究 第5巻』判例タイムズ社1989年p394

え 小池晴彦氏コメント

・・・そうであるとすれば、判決による登記の場合、その判決は1通でなくても良く、順次数通の勝訴判決を得ても足りるし、また、争いのない者についてはその承諾書でも差し支えないのであるから、抹消登記手続を求める所有権移転登記が共有名義であった場合、常にその共有者全員を相手としなければ訴訟が不適法となるとまでは考えられず、したがって、本判決にいう必要的共同訴訟とは、宮田信夫『最高裁判所判例解説民事篇昭和36年度』26事件が掲げる判決要旨は「固有必要的共同訴訟と解すべきである」としているけれども、共同訴訟となった以上区々の判決は許されないという類似必要的共同訴訟を意味すると解される
※小池晴彦稿『共有名義人を被告として所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴訟と必要的共同訴訟』/塩崎勤編『登記請求権事例解説集 初版第二刷』新日本法規出版2002年32番

6 『必要的共同訴訟』の2義性(参考・概要)

ところで、『必要的共同訴訟』という用語が使われる時、2つの意味がありえます。
『必要的共同訴訟である』という表現がされた場合、固有または類似必要的共同訴訟である、という意味であることもあれば、一方、固有必要的共同訴訟である。この2種類の意味によって、実体上の当事者の一部だけを被告(または原告)とすることができるかどうかが違ってきます。
このように『必要的共同訴訟』は2つの意味で使われることがあるのです。
詳しくはこちら|共同訴訟形態の基本(通常・固有必要的・類似必要的の分類など)
このことが、昭和38年判例の読み方が分かれることにもつながっているのです。

7 その後の判例や学説との関係(概要)

以上のように、昭和38年判例は類似必要的共同訴訟であるということを示したと一般的に解釈されていますが、これを前提としても、その後の判例とは整合しないことになっています。
また、通説となっている学説とも整合しない点も指摘されており、現在では同じ判断がなされるわけではない、という見解が一般的になったともいえます。このような見解については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有名義人への登記請求の共同訴訟形態を通常共同訴訟・類似必要的共同訴訟とする見解

本記事では、共有名義人が被告である登記手続請求訴訟の共同訴訟形態について、必要的共同訴訟と判示した昭和38年判例について説明しました。
実際には、個別的な事情により、法的判断や最適な対応方法は違っています。
実際に共有名義の登記に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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