【複数の登記の抹消登記手続請求の共同訴訟形態】
1 複数の登記の抹消登記手続請求の共同訴訟形態
2 複数の登記の抹消登記手続請求の共同訴訟形態(まとめ)
3 買受人と転得者への抹消登記請求の判例
4 買主と抵当権者への抹消登記請求の判例
5 買主と転得者への抹消登記請求の判例
6 共有名義人に対する登記手続請求の共同訴訟形態(参考)
1 複数の登記の抹消登記手続請求の共同訴訟形態
実体を欠く登記は無効であり,実体上の権利者は妨害排除請求として,抹消登記を請求できます。実体を欠く登記が複数個あった場合,もちろん,権利者はすべての登記について抹消を請求できます。
ここで,複数の者に対する抹消登記手続請求の訴訟の共同訴訟形態が問題となります。本記事ではこれについて説明します。
2 複数の登記の抹消登記手続請求の共同訴訟形態(まとめ)
結論としては単純です。必要共同訴訟とはなりません。不実の登記のうち一部だけの抹消登記手続請求の提訴をすることも可能です。
<複数の登記の抹消登記手続請求の共同訴訟形態(まとめ)>
(不実の)関係する登記が複数存在する場合でも,その各登記の抹消を請求する訴訟は必要的共同訴訟ではない
※大内俊身稿『数人を被告とする登記関係訴訟と固有必要的共同訴訟』/吉野衛編『香川最高裁判事退官記念論文集 民法と登記 中巻』テイハン1993年p403
実際には,いくつかのパターンの実例について,必要共同訴訟ではないと判断した判例があるので,以下順に紹介します。
3 買受人と転得者への抹消登記請求の判例
買受人と買受人から譲り受けた者の2つの所有権移転登記が無効であったケースです。裁判所は,2つの不実登記それぞれの抹消登記手続請求は必要共同訴訟ではないと判断しました。
<買受人と転得者への抹消登記請求の判例>
あ 登記
X所有
↓抵当権実行(競売)による所有権移転
買受人Y1
↓売買による所有権移転
買主Y2
い 主張(実体)
抵当権は無効である
→X所有(のまま)である
う 実体上の請求権
XからY1に対する(所有権移転登記の)抹消登記手続請求権
XからY2に対する(所有権移転登記の)抹消登記手続請求権
え 共同訴訟形態
必要的共同訴訟ではない
※最高裁昭和29年9月17日
4 買主と抵当権者への抹消登記請求の判例
買主への所有権移転登記と,その買主が設定した抵当権設定登記の両方が実体を欠くというケースです。裁判所は,2つの不実登記それぞれの抹消登記手続請求は必要共同訴訟ではないと判断しました。
<買主と抵当権者への抹消登記請求の判例>
あ 登記
X所有
↓売買による所有権移転
買主Y1
↓抵当権設定
抵当権者Y2
い 主張(実体)
X・Y1間の売買は無効(不存在)である
→X所有であり,Y2は抵当権を有しない
う 実体上の請求権
XからY1に対する(所有権移転登記の)抹消登記請求
XからY2に対する(抵当権設定登記の)抹消登記請求
え 共同訴訟形態
必要的共同訴訟ではない。
※最高裁昭和31年9月28日
5 買主と転得者への抹消登記請求の判例
買主への所有権移転登記と,当該買主から譲り受けた者への所有権移転登記が実体を欠くというケースです。裁判所は,2つの不実登記それぞれの抹消登記手続請求は必要共同訴訟ではないと判断しました。結果として,中間者(買主)への所有権移転登記だけの抹消を請求する訴訟を提起することも可能であるということになりました。
<買主と転得者への抹消登記請求の判例>
あ 登記
X所有
↓売買による所有権移転
買主Y
↓売買による所有権移転
買主A
い 主張(実体)
X・Y間の売買は無効である
→X所有のままである
う 実体上の請求権
XからYに対する(所有権移転登記の)抹消登記請求
XからAに対する(所有権移転登記の)抹消登記請求
え 共同訴訟形態
必要的共同訴訟ではない
→Y(中間者)のみを被告とし,Aを共同被告としない抹消登記手続訴訟も許される
※最高裁昭和36年6月6日
6 共有名義人に対する登記手続請求の共同訴訟形態(参考)
以上の説明は,抹消を請求する(不実の)登記の個数が複数であるケースでしたが,これとは違って,不実の登記は1個だけど,名義人が複数いる,つまり不実の共有名義の登記があるケースでも,共同訴訟形態が問題となります。この場合は統一的見解がなく,解釈は複雑です。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有名義人が被告である登記手続請求訴訟の共同訴訟形態の全体像
本記事では,複数の者に対する抹消登記手続請求の訴訟の共同訴訟形態を説明しました。
実際には,個別的事情によって,法的判断や,最適な対応方法が違ってきます。
実際に不正な登記の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。