【軽犯罪法1条32号・立入禁止場所等侵入の罪】

1 軽犯罪法1条32号・立入禁止場所等侵入の罪
2 条文規定(軽犯罪法1条32号)
3 『入ることを禁じた場所』の意味
4 『場所』の具体例
5 「正当な理由がなく」の意味
6 建造物侵入罪との関係

1 軽犯罪法1条32号・立入禁止場所等侵入の罪

軽犯罪法に,立入禁止場所等侵入の罪があります。本記事ではこの犯罪について説明します。

2 条文規定(軽犯罪法1条32号)

最初に,立入禁止場所等侵入の罪の条文を押さえておきます。法定刑は(刑法の犯罪と比べて)軽いですが,実際に科せられると前科となるものです。

<条文規定(軽犯罪法1条32号)>

あ 構成要件(条文)

第一条 左の各号の一に該当する者は,これを拘留又は科料に処する。
(略)
三十二 入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入つた者
※軽犯罪法1条32号

い 拘留・科料の意味(参考)
拘留 刑事施設への拘置1日以上30日未満 刑法16条
科料 1000円以上1万円未満 刑法17条

3 『入ることを禁じた場所』の意味

どのような場所に入ると立入禁止場所等侵入の罪にあたるのでしょうか。条文上は2つに分けられています。
入ることを禁じた場所(前段)と,田畑(後段)です。
入ることを禁じた場所とは,「立入禁止」を表示されている場所が典型ですが,表示がなくても禁止されていることが分かる場所も含みます。

<『入ることを禁じた場所』の意味>

あ 基本的解釈

「入ることを禁じた場所」とは,他人の立入を禁止する正当な権原を有する者(所有者・管理者)が,立入禁止の意思を表示していると客観的に認められる場所である
法令の規定により立入りが禁止される場所も含む

い 立入禁止の意思表示の具体例

立札,貼り紙,縄張り,近付けば機械的に音声で警告するシステムなど

う 黙示の立入禁止の表示

当該場所の性質や客観的状況から,他人の立入りを禁止していることが明白であると認められる場合も,「入ることを禁じた場所」に当たる
※井阪博著『実務のための軽犯罪法解説』東京法令出版2018年p206

4 『場所』の具体例

立入禁止の『場所』の典型は,土地や建物(建造物)です。しかし,条文上特定されていないので,電話ボックスや自動車も含まれます。

<『場所』の具体例>

あ 典型例

「場所」の典型例は,(一定の範囲の)土地建造物(の一部)である

い バリエーション

公衆電話ボックス,自動車,鉄塔,街灯の支柱,運動公園の球避けフェンスも「場所」に含む
※東京高判昭和42年5月9日(公衆電話ボックスについて)
※井阪博著『実務のための軽犯罪法解説』東京法令出版2018年p207

5 「正当な理由がなく」の意味

条文上,立入禁止場所等侵入の罪が成立するのは「正当な理由」がない場合と定められています。ここで,正当な理由がある,つまりこの罪が成立しないこととなる具体例は,災害の時の避難や人命救助などのための侵入です。

<「正当な理由がなく」の意味>

あ 基本的解釈

「正当な理由がなく」とは,違法性(違法性阻却事由がないこと)を意味する
刑法130条の「正当な理由がない」と同義である
「正当な理由がある」場合は,違法性が阻却され,軽犯罪法1条32号の罪は成立しない

い 具体例

天災,火事,人命救助の場合,犯人追跡のためにする場合は,正当な理由が認められる
法令に基づいて捜索,押収,検証などの目的で立ち入る行為は,正当な理由が認められる
猛犬に追われた者が緊急避難として他人の家へ飛び込んで難を避ける行為は正統な理由が認められる。
※井阪博著『実務のための軽犯罪法解説』東京法令出版2018年p208

6 建造物侵入罪との関係

立入禁止場所等侵入の罪は,刑法の建造物(住居)侵入罪ととても似ています。
建造物侵入罪は,侵入する場所が建造物やその周囲のうち,塀などで囲まれた部分です。この点,立入禁止場所等侵入の罪は侵入する場所が限定されていません。
ところで住居その他の建造物は通常,立入が禁止されている場所です。そこで,建造物侵入罪が成立する場合は通常,形式的に立入禁止場所等侵入の罪も成立しています。この場合(両方成立する場合)は建造物侵入罪だけが成立したことになります。

<建造物侵入罪との関係>

あ 「建造物」の意味(概要)

刑法上の「建造物」とは,屋根を有し支柱などで支えられた土地の定着物で,人の出入りすることのできる構造のもので,その囲繞地をも含む概念である
詳しくはこちら|住居・建造物侵入罪|侵入の対象|屋根・屋上・ベランダ・バルコニー

い 囲繞の程度の弱い場所への侵入

囲繞の程度の弱い場所に侵入しても,刑法130条の「建造物」にあたらない
→建造物侵入罪は成立しない
一方,軽犯罪法1条32号は「建造物」(への侵入)でなくても成立する

う 建造物ではない場所へ「入る」具体例

工場の敷地,廃墟
※広島地判昭和51年12月1日(原爆ドームについて)
※井阪博著『実務のための軽犯罪法解説』東京法令出版2018年p207

え 適用の関係

軽犯罪法1条32号は刑法130条(住居・邸宅・建造物艦船侵入罪)とは補充関係にある
住居侵入罪(刑法130条)が成立する場合には,軽犯罪法1条32号の適用はない
※井阪博著『実務のための軽犯罪法解説』東京法令出版2018年p209

本記事では軽犯罪法の立入禁止場所等侵入の罪について説明しました。
実際には,個別的事情によって法的解釈や最適な対応方法が違ってきます。
実際にある場所への侵入に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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