【全面的価格賠償の「賠償金」の用語と性質】

1 全面的価格賠償の「賠償金」の用語と性質

全面的価格賠償では、現物取得者が他の共有者に対価を支払います。この対価を「賠償金」といいます。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の基本(平成8年判例で創設・令和3年改正で条文化)
この点、「賠償金」の性質を考えると、この用語(ネーミング)と整合しないともいえます。このような検討は、直接的に具体的な案件の解決に影響があるわけではないですが、共有物分割全体や全面的価格賠償の理解を深めるのに役立ちます。
本記事では全面的価格賠償の「賠償金」の用語と性質について説明します。

2 全面的価格賠償の「賠償金」と一般的「賠償」の違い

平成8年判例は、全面的価格賠償において対価として支払う金銭のことを「賠償(する)」と表記しました。この点、民法の他の条文では、適法ではない状況で支払う金銭に「賠償(金)」という用語を使っています。適法である場合には「償金」として「賠」を避けているように読めます。
さらに、遺産分割で命じられる金銭支払は代償金といい、やはり「賠」を避けています。
結局、全面的価格賠償で「賠」を使った理由ははっきりしません。実は平成8年判例よりも前から「賠償金」の用語が広く使われてしまっていたので、そのままこの語を使っただけというのが実情でしょう。

全面的価格賠償の「賠償金」と一般的「賠償」の違い

(最判平成8年10月31日・1380号の判決文中の「賠償金」について)
民法上は、「賠償」はこれとは異なった意味で用いられており(民法415条、709条など)、むしろ、「弁償」(改正前民法1040条、1041)、「償(金)」(民法212条、248条など)の方が近い意味を有する。
遺産分割事件では、一般に、このような態様の債務負担の方法による遺産分割を「代償分割」という。
本判決が「賠償」という語を用いたのは、既にこの言い方が定着していると見たからであろう。
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p878

3 全面的価格賠償の賠償金の性質についての検討

全面的価格賠償の賠償金の性質について、さらなる検討がなされているので紹介します。
もともと、全面的価格賠償は売買の成立を擬制するという意味で、収用と似ています。私的収用とよばれることもあるくらいです。そこで、「賠償金」は、収用における「補償金」の性質を持つのではないか、ということなどが指摘されています。

全面的価格賠償の賠償金の性質についての検討

(微)調整的な金員の支払ではなくて、全面的価格賠償方式による支払うべき金員の性質は何かとなると、その説明は問題である。
この文言を文字どおりに理解すれば、損害賠償的ないし補償的性格を有するかのようだが、どうだろうか。
価格賠償との文言から、損害賠償的性質をも頭に浮ばないとはいえないが、恐らくは、そう解すべきではないだろう。
多分、適法行為に基づく損失補償的性格を有するから、このような文言を用いたのだろうが、そのような意味では、実質上、売買代金的性質が強いのでないか。
あるいは、強制的な土地収用法等で補償金等の用語を用いているのと対応するのかも知れないが、どうだろうか。
それとも合意の成立を擬制することから、代金相当額の「補償」という性質を考えるのだろうか。
この点は、今後更に検討する必要がありそうで、まだ断定的なことはいえないであろうか。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p18

本記事では、全面的価格賠償の「賠償金」の用語と性質について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
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