【競合する共有物分割と遺産分割の連携(保管義務・実情)】
1 競合する共有物分割と遺産分割の連携(保管義務・実情)
遺産共有と物権共有(通常の共有)が混在する状態で共有物全体の共有の解消をするには、原則として、共有物分割と遺産分割の両方を行う必要があります。この場合には2つの分割手続の連携が必要になります。本記事ではこのことを説明します。
2 遺産共有と物権共有の混在における分割手続(概要)
遺産共有と物権共有が混在している場合に、2つの分割手続が必要になるのはなぜでしょうか。それは、共有物分割訴訟では遺産共有を解消できないからです。このルールですが、令和3年の民法改正で例外が作られました。現在では、例外的に共有物分割訴訟だけで完全に共有を解消できるケースもあります。
詳しくはこちら|遺産共有と物権共有の混在における共有物分割(令和3年改正民法258条の2)
逆に、例外に当てはまらない場合には、改正前(原則)どおりに、(完全に共有を解消するには)2つの分割手続が必要、ということになります。
この場合の共有物分割訴訟の裁判所の対応には工夫が必要になります。遺産共有を解消できないので、遺産共有部分は共有を維持します。具体的には、相続人全体として取得する財産を定めるにとどめ、この財産を、その後の遺産分割の対象とするようにします。
詳しくはこちら|遺産共有と物権共有の混在における分割手続(まとめ・令和3年改正前)
3 共同相続人が得た財産の扱い(まとめ)
前述のように、第1段階である共有物分割で相続人グループ(共同相続人)が得た財産は、第2段階である遺産分割を行う対象となります。つまり、共有物分割で相続人グループが得た財産は、その時点では、最終的な帰属が決まっていない状態の財産(遺産共有)ということになります。相続人グループが得た財産が金銭(賠償金)である場合には、この金銭を相続人が保管する義務を負うことになります。
一方、相続人グループが得た財産が金銭ではなく不動産(現物)である場合には、当該不動産が遺産共有となり、その後の遺産分割の対象となります。こちらの場合には、判例が示した保管義務の対象外です。一般的な遺産共有持分のルール、つまり持分の処分は可能、ということになると思います。
詳しくはこちら|遺産の中の特定財産の処分(遺産共有の共有持分の譲渡・放棄)の可否
共同相続人が得た財産の扱い(まとめ)
あ 基本
共有者A・B・C1・C2・C3(C1・C2・C3が共同相続人=相続人グループ)である場合
相続人グループが得た財産は、他の遺産とあわせて遺産分割の対象となる(=遺産共有となる)
(C1・C2・C3による遺産分割が完了して、最終的な帰属が確定する)
い 保管義務
ア 取得財産が金銭であるケース→遺産共有+保管義務
・相続人グループが全面的価格賠償の対価取得者となり、賠償金を取得した場合
・部分的価格賠償で差額分の賠償金を取得した場合
・換価分割による形式的競売で売得金の交付を受けた場合
→各相続人は、遺産分割完了まで、受領した賠償金(金銭)を保管する義務を負う
イ 取得財産が現物であるケース→遺産共有
・現物分割により、相続人が特定部分の所有権(共有権)を取得した場合
・全面的価格賠償により相続人グループが現物取得者となった場合
→取得した財産は相続人グループの遺産共有となる
(この場合は、一般的な遺産共有持分として、持分処分の自由が優先される(=保管義務は課せられない)と思われる)
4 賠償金の保管義務とその範囲の理論(平成25年最判と学説)
(1)平成25年最判・保管義務理論
相続人グループが金銭(賠償金)を得た場合に保管義務を負う、という理論は、平成25年最判が示しています。
まず、共有物分割訴訟の判決で、相続人グループは賠償金の請求権を取得します。判決確定後、通常であれば任意に賠償金の支払が履行され、相続人グループは金銭を取得します。この金銭は遺産共有持分が転化したものであると考えます。つまりその後、この金銭は、他の遺産と併せて遺産分割の対象とする、ということになります。
このようなメカニズムになっているので、共有物分割訴訟の判決としては、保管すべき賠償金の範囲(金額の割り付け)を判断して、判決で示すことが必要になります。
平成25年最判・保管義務理論
あ 賠償金の性質→遺産共有(遺産分割の対象)(前提)
そうすると、遺産共有持分と他の共有持分とが併存する共有物について、遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ、その者に遺産共有持分の価格を賠償させる方法による分割の判決がされた場合には、遺産共有持分権者に支払われる賠償金は、遺産分割によりその帰属が確定されるべきものであるから、
い 賠償金の保管義務
賠償金の支払を受けた遺産共有持分権者は、これをその時点で確定的に取得するものではなく、遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負うというべきである。
う 保管すべき賠償金の範囲の決定→裁判所に裁量あり
そして、民法258条に基づく共有物分割訴訟は、その本質において非訟事件であって、法は、裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実情に適合した妥当な分割が実現されることを期したものと考えられることに照らすと、裁判所は、遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ、その者に遺産共有持分の価格を賠償させてその賠償金を遺産分割の対象とする価格賠償の方法による分割の判決をする場合には、その判決において、各遺産共有持分権者において遺産分割がされるまで保管すべき賠償金の範囲を定めた上で、遺産共有持分を取得する者に対し、各遺産共有持分権者にその保管すべき範囲に応じた額の賠償金を支払うことを命ずることができるものと解するのが相当である。
※最判平成25年11月29日
(2)判例解説・形成する権利内容の決定の裁量(一般論・前提)
平成25年最判が示した金銭(賠償金)の保管義務の理論は少し難しいです。ここから、判例解説による説明を紹介します。
まず一般論として、共有物分割訴訟では、各共有者は、もともと持っていた持分と等価の何らかの財産を取得して(与えられて)完了します。取得する財産の内容(性質)をどうするかは、裁判所に裁量があります。
裁判所による財産の内容(性質)の決定の1つが、金銭が遺産共有の性質を持つという決定なのです。
判例解説・形成する権利内容の決定の裁量(一般論・前提)
あ 権利の内容の決定→裁判所に裁量あり(一般論・前提)
共有物分割の判決は、分割につき共有者間に協議が調わない場合に、裁判所が各共有者に従前の共有持分に代えてこれと等価の財産(現物又は金銭)を取得させることを定めて、分割された法律状態を形成するものであり、各共有者が分割により取得する権利の内容は、裁判所が形成の裁判において適切に裁量権を行使して定めるべきものである。
い 取得財産の遺産性の有無→裁判所に裁量あり
そうすると、裁判所は、遺産共有持分と通常の共有持分が併存する共有物の分割判決をする場合には、形成の裁判の一環として、遺産共有持分に代えて遺産共有持分権者に取得させる財産が各相続人に分割帰属せずに遺産分割の対象となるようにその権利の性質決定をすることができると解してよいように思われる。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p561、562
(3)判例解説・賠償金の給付方式(分割給付と不可分給付)
判例解説は、前述の一般論に続けて、全面的価格賠償の賠償金の扱いについて説明をしています。
ここでは、金銭(賠償金)が各相続人に分割帰属はしていない(遺産共有である)という判断をしたことを前提とします。
次に、給付をどうするか、という問題となります。選択肢としては、分割給付と不可分給付の2つがあります。理論的にはどちらも否定されていません。
不可分給付を選択した場合、相続人の1人が全額を受領できることになります。この場合、受領した金銭を費消してしまうことがリスクとなります。
一方、分割給付であれば相続人の1人が金銭を費消してしまったとしても実害は少ないです。こちらの方が望ましいですし、平成25年最判でもこの方法が採用された原審を維持しています。
判例解説・賠償金の給付方式(分割給付と不可分給付)
あ 平成25年最判の判断→分割帰属否定+分割給付
本判決は、上記のような考え方を前提として、遺産共有持分の価格賠償の方法による分割の判決がされた場合には、遺産共有持分権者に支払われる賠償金は、遺産分割によりその帰属が確定されるべきものであり、その支払を受けた者にその時点で確定的に分割帰属するものではない旨を判示したものと解される。
い 分割帰属否定+不分割給付の検討→許容される
ア 不分割給付の可否→可能
この場合、遺産共有持分権者に支払われる賠償金は遺産分割の対象となることからすると、遺産共有持分権者が現物取得者に対して取得する賠償金支払請求権はその性質上不可分であるとして、遺産共有持分権者は、各自、現物取得者に対し賠償金全額の支払を求めることができるものとすべきであるという考え方も成り立ち得る(本判決の明言するところではないが、事案によっては、このような形で賠償金の給付を命ずる判決も、裁判所の裁量の範囲を逸脱するものとはいえない場合があろう。)。
イ 不分割給付のデメリット→費消リスク
しかし、このような形で賠償金の給付を命ずると、一部の遺産共有持分権者が賠償金全額の支払を受けた後、遺産分割未了の間に、これを費消してしまうことにより、他の者の相続分を侵害する事態を招く危険が高まることになる。
う 分割帰属否定+分割給付の検討→許容される
遺産共有関係と通常の共有関係との併存状態を解消するために遺産分割を先行させることができずに共有物分割の判決に至る事案においては、共同相続人間に対立関係が存在するのが通常であろうことを考慮すると、遺産共有持分の価格賠償の方法による共有物分割判決をする場合には、裁判所の裁量的判断により、賠償金の支払を受けた者が自己の相続分を超えてこれを費消してしまうことのないよう、現物取得者から各遺産共有持分権者に対する賠償金の分割給付を命ずることも許容されてよいと考えられる。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p562、563
5 賠償金の保管・給付の範囲(割り付け)→均等や法定相続割合
賠償金を相続人グループに分割給付とした場合に、次に、どのように割り付けるか、ということが問題となります。これも原則論としては、裁判所に裁量がありますが、法定相続分で割り付けるのが妥当だと思います。
賠償金の保管・給付の範囲(割り付け)→均等や法定相続割合
あ 賠償金の保管義務と範囲(給付命令)→裁判の形成内容
ア 一般論(検討)
このような形での給付命令は、裁判所が、形成の裁判の内容として、賠償金を遺産分割の対象財産とすることを定めるのと併せて、各遺産共有持分権者が遺産分割がされるまで賠償金を保管する権限を有し義務を負う範囲を定めた上で、現物取得者に対しその範囲に応じた賠償金の給付を命ずるものであるといえよう。
イ 平成25年最判
本判決は、上記のような考え方に立って、裁判所は、遺産共有持分の価格賠償の方法による共有物分割判決をする場合には、その判決において、各遺産共有持分権者において遺産分割がされるまで保管すべき賠償金の範囲を定めた上で、現物取得者に対し、各遺産共有持分権者にその保管すべき範囲に応じた額の賠償金の支払を命ずることができる旨を判示したものであると解される。
い 具体的な判決書→保管義務明示+法定相続割合が妥当
これまでのところ、本判決と同旨の考え方を明示した上で遺産分割の対象となる賠償金の給付命令を含む共有物分割の判決をした事例は見当たらず、具体的な判決書の在り方については、今後の実務の中で工夫が重ねられていくことが期待されるが、遺産共有持分の価格賠償の方法による分割をする場合における賠償金の給付命令は、その支払を受けた者に確定的に帰属させるのではなく、遺産分割がされるまでの間の保管をさせる趣旨で金員の支払を命ずるという特殊なものであることに照らすと、その趣旨が当事者に誤解なく伝わるように判決中にその旨を明記すべきであろうし、各遺産共有持分権者に保管させる賠償金の範囲は、特別の事情がない限り、各自の法定相続分と等しい割合としておくのが最も問題が少ないであろう。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p563、564
6 平成25年最判の事案における保管義務の内容→均等割
(1)平成25年最判・賠償金の保管・給付の範囲→原審維持=均等割
平成25年最判では、賠償金の給付(と保管)についてどのような割り付けをしたのでしょうか。まず、原審(控訴審)の判決主文には、金額として、相続人グループ全体の合計額が記載されていて、連帯とか各自という言葉はありませんでした。
そこで、平成25年最判は、原審判決について、均等割(4人で4分の1ずつを受け取る)である、と読める、と判示しました。原審判決には、法定相続分で割り付ける方法を採用しなかった理由は書いてありません。さらに、保管義務も一切出てきていません。
平成25年最判は、このような判決文を批判的に指摘した上で、保管すべきという考慮がみられる理由で、違法ではない、と、救済的に判断しました。
平成25年最判・賠償金の保管・給付の範囲→原審維持=均等割
あ 原審判決主文の読み取り→等分の分割給付
・・・原判決中賠償金の支払を命ずる主文は、「被上告会社は、被上告人X2、被上告人X3及び上告人らに対し、466万4660円を支払え。」というものであって、被上告会社に対し、Aの共同相続人ら4名に466万4660円の4分の1ずつの額の支払を命ずるものと解するほかはない。
い 原審判決へのコメント・保管義務の明示がない
原審は、理由中でAの共同相続人らに支払われる賠償金が遺産分割の対象となる旨を説示するものの、各相続人がこれをその時点で確定的に取得するものではなく、遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負うことを判決中に明記していない。
う 原審判決へのコメント・法定相続分ではないことの理由なし
また、Aの共同相続人らの法定相続分によるのではなく、これとは異なる上記のような割合での賠償金の支払を命ずることを相当とする根拠についても何ら説示していない。
え 結論→保管の考慮は読み取れるので適法
しかしながら、原審は、共同相続人間の関係、紛争の実情等に鑑み、Aの遺産分割がされるまでの間、対立する当事者の双方に単純に平等の割合で賠償金の保管をさせておくのが相当であるとの考慮に基づき、その趣旨で被上告会社にその割合に従った賠償金の支払を命じたものと解し得ないこともないのであり、結局、原審の判断にその裁量の範囲を逸脱した違法があるとまではいえない。
※最判平成25年11月29日
(2)判例解説・判決文からの保管義務の読み取り
判例解説も原審判決の読み取りにトライしています。判決主文だけをみれば、最判が指摘しているように連帯や各自という用語がないので分割給付と読める、という前置きをした上で、理由の中には、賠償金を遺産分割の対象とすると書いてあるので、これを含めて考えると不可分給付と読める可能性もあった、と指摘しています。
判例解説・判決文からの保管義務の読み取り
あ 山崎良子氏による読み取り
ア 原則→等分の分割給付
遺産共有持分の賠償金に関する原判決の主文は、
「X1会社は、X2、X3及びYらに対し、466万4660円を支払え。」
というだけのものであって、主文の読み方についての一般的な理解(司法研修所編・10訂民事判決起案の手引12頁参照)に従えば、Aの共同相続人ら4名に対して賠償金の各4分の1の分割給付をすることを命じたものと解さざるを得ない。
イ 理由の記載も併せ読む→不可分給付とも読める
原審は、その理由中において、「賠償金がAの共同相続人らの共有とされた上で、その後に他のAの遺産と共に遺産分割に供されることになる」と判示しており、この理由中の記載と上記の判決主文とを併せ読むと、Aの共同相続人ら4名がX1会社に対して取得する賠償金支払請求権を不可分債権として、X1会社にAの共同相続人ら各自に対する賠償金全額の支払を命ずる意図であったようにうかがわれなくもないが、
い 平成25年最判による読み取り
本判決は、判決主文の記載自体から理解されるところに従い、原判決がX1会社にAの共同相続人4名に対する賠償金の各4分の1の分割給付を命じたものと解した上で、結論として、その判断を是認した。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p564
(3)債権者が複数の金銭給付の判決主文(参考)
以上の、原神判決の読み取りのトライの中で、判決主文の読み方が当然の前提のように出てきています。それを押さえておきます。金銭債権の債権者が複数であるケースでの給付方式は、連帯・不可分(金額を割らない)というものと、可分(金額を割り振る)という2つがあります。
判決主文(や請求の趣旨)の表記の方法として、連帯・不可分とするならば「各自に対し」と書くか、カッコで「連帯債権」と書く方法をとります。可分とするならばどちらも記載しません(合計額だけを記載します)。平成25年最判の原審の判決主文は合計額だけの記載でした。
債権者が複数の金銭給付の判決主文(参考)
あ 連帯債権・不可分債権の主文(請求の趣旨)の例
ア 「各自」表示スタイル
連帯債権、不可分債権の場合
主文・請求の趣旨記載例(書研・新民訴書記官事務III127頁)
被告は、原告ら各自に対し、○万円を支払え。
イ カッコ書きスタイル
主文・請求の趣旨記載例(東京地判平成14年9月26日判時1806号147頁)
被告は、原告らに対し、〇万円(原告らの連帯債権)を支払え。
い 給付額を均等額に割る方式
なお、「被告は、原告らに対し、○○円を支払え。」では、平等額の分割払を命じたことになる(最三小判昭和30年5月24日裁判集民18号641頁参照)。
※岡口基一著『要件事実マニュアル 民法1 第5版』ぎょうせい2016年p82
7 相続債権の可分性との整合性
ところで、一般論として、遺産の中の債権は原則として可分(当然分割)です。例外的に、預金債権は当然分割ではない(遺産共有となり遺産分割の対象となる)扱いとなります(実際には例外の方が多いですが)。
そうすると、共有物分割訴訟の判決で形成された賠償金の請求権は(預貯金ではない)債権なので、当然分割となるはず、という発想もあります。しかし、前述のように平成25年最判は賠償金(の請求権)は当然分割ではなく、遺産共有であると判断しています。これは、遺産共有持分が転化したので、遺産共有の性質は維持されたまま、という考えであると思われます。
相続債権の可分性との整合性
あ 相続における金銭債権の扱い(一般論・前提)
相続財産の金銭債権は可分と解釈されている
価格賠償金の請求権は各相続人に分割承継される
詳しくはこちら|一般的金銭債権の相続(分割承継・相続分の適用・遺産分割の有無)
い 賠償金債権は当然分割という発想
(「ア」によると)賠償金の請求権は分割継承となる
平成25年最判はこの理論と整合しないことになる
※本山敦稿『新・家族法研究ノート第7回』/『月報司法書士2014年4月号』日本司法書士会連合会p64〜参照
う 遺産共有持分の転化という発想
Aの遺産分割は未了であり、本判決によれば遺産分割未了の段階で、遺産の一部に属する財産について全面的価格賠償の方法による共有物分割が行われることになる。
そうすると、遺産(Aの持分)が転化して賠償金になったのだから、賠償金が遺産として遺産分割の対象になると解することができる。
※本山敦稿『共有物分割訴訟において遺産共有持分を全面的価格賠償させる場合の賠償金の支払い方法』/『金融・商事判例1439号』経済法令研究会2014年4月p12
え 平成28年判例変更の関係(参考)
預貯金債権の相続に関して判例が変更された
→これと比較すると保管義務は整合的である
詳しくはこちら|平成28年判例が預貯金を遺産分割の対象にした判例変更の理由
8 具体的な金銭の保管方法
(1)判例解説・具体的な金銭の保管方法の検討
前述のように、賠償金として受領した金銭には保管義務があります。では、どのように保管することが望ましいか、ということも問題となります。
信頼できる第三者に預ける方法や法務局に供託する方法が実現すれば、安心感があります。しかし、根拠がありません(制度の対象に入りません)ので実現しません。
結局、各相続人が保管する、という平成25年最判の示した方法しか残りません。各相続人としては、純粋な自身の財産とは明確に分別して保管しておくことが望ましいです。たとえば、専用の預金口座に入れておくという方法があります。状況によっては、信託が成立した状態となると思います。
詳しくはこちら|契約による信託の成立の要件・判断基準(信託の性質決定)
判例解説・具体的な金銭の保管方法の検討
あ 分別管理の方法
ア 具体的方法→「遺産管理」名義預金口座
その保管義務の遵守方法としては、「遺産管理」に係る金員であることを口座名義上明示した預金口座を開設して分別保管することなどが考えられる(Aの相続開始時に存した金銭を相続人Yが「遺産管理人Y」名義の通知預金として保管していた事案について、他の相続人XからYに対する遺産分割前における法定相続分相当額の引渡請求権を否定した最二小判平成4年4月10日集民164号285頁及びその評釈である道垣内弘人・別冊ジュリスト193号136頁が参考になる。)。
イ 実情→事後的な過不足調整
もっとも、実際の遺産分割手続では、各相続人が支払を受けた賠償金を各自の取得済み財産として扱い、各自が最終的に分配を受けるべき額と取得済みの額との過不足の限度で調整金の支払をすべきものとされると思われるから、賠償金の支払を受けた者がその金員をそのままの状態で分別保管していなくても、直ちに保管義務違反による責任を問われることになるとは限らないであろう。
その意味では、本判決にいう「保管義務」とは多分に観念的なものであるように思われる。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p570
い 第三者への預託→根拠規定なし
(注13)賠償金を遺産分割の対象として確実に保管しておく方法としては、これを分散保管とせずに、信頼のおける保管者に委ねることができれば、その方が望ましいであろうが、遺産分割手続における管理者の選任(家事事件手続法200条1項参照)のような手続は、共有物分割手続においては設けられていない。
共同相続人の間で合意により保管者を定めることができればよいが、それができない場合に、受訴裁判所が利害対立のある共同相続人のうちの一人に全額を保管させるべきものと定めることは、通常は適切でないであろう。
う 供託→根拠規定なし
また、現行法の下で、このような場合に利用できる供託手続があるとも考えられない。
競売による分割の場合、競売手続における配当金の供託事由は限定列挙されており(民事執行法91条参照)、遺産共有持分であることを理由に売得金を供託しておき、遺産分割において取得者と定められた者がその還付請求をすることができるものとする根拠となり得る規定は見当たらない。
債権者不確知を理由とする弁済供託(民法494条後段)は、客観的には債権者が確定しているが、弁済者においてそれが誰であるかを確実に知ることができないことを要件とするものであり、共有物分割判決において、賠償金の支払請求権をA、Bの不可分債権としてその給付を命じた場合には、A、B両名が債権者に当たるのであって、上記の要件を満たさないし、共有物分割判決において、「遺産分割において取得者と定められた者」に対する賠償金の給付を命じた場合には、遺産分割がされるまでは債権者が誰であるか確定しないことになるから、やはり上記の要件を満たさないことになる。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p571
(2)保管義務を定める規定(参考)
ところで、法律上、いろいろな場面で保管や管理の義務が登場します。検討の参考として使われることがあります。ここにまとめておきます。
保管義務を定める規定(参考)
あ 相続人の管理義務
(相続人による管理)
第九百十八条 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
※民法918条
い 財産管理人の保管義務(概要)
遺産分割審判に伴う保全処分として
財産管理人が選任されることがある
審判前の保全処分の1つである
遺産の管理をする制度である
※家事事件手続法105条1項
詳しくはこちら|審判前の保全処分の基本(家事調停・審判の前に行う仮差押や仮処分)
9 2種類の競売申立がなされたケースの財産の保管(参考)
ところで、状況によっては、相続人ではない管理人が”相続人グループの代表してて金銭を保管、管理する局面もあります。
それは、2つの競売が競合するという特殊な局面です。遺産分割の審判前の保全処分として選任された(遺産の)財産管理人が、先行する共有物分割により相続人グループが取得した財産を保管する、という方法です。
このように遺産を管理する財産管理人がすでにいる場合は、相続人自身による保管、管理を避けることができます。
2種類の競売申立がなされたケースの財産の保管(参考)
遺産共有部分については後行手続における財産の管理人に交付するのが適切であるように思われる
※鈴木忠一ほか『注解民事執行法(8)』p392(両競売事件を別事件として扱うべきである)
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p1722
10 共有物分割と遺産分割の競合の実情
以上のように、2つの分割手続の「つなぎ」として、保管義務があることが判例で示されています。これで2つの分割手続がうまく連携するようになっています。
この点、現実には、2つの分割手続のうち、先に行う(ことになりがちな)共有物分割で有用な財産の帰属が決まってしまい、次の遺産分割にしわよせがくる(相続人は不利益を受ける)、という指摘がなされています。
なお、この指摘は平成8年最判が全面的価格賠償を認めるよりも前のものです。そのため、現物分割で、たとえば土地のどのエリアを取得するか、ということを前提にしたコメントであると思われます。
共有物分割と遺産分割の競合の実情
そして、共有物分割手続(訴訟)の優先により結果的には、後からなされる被相続人の遺産分割手続の意味をなくさせ、又は非常に価値なくさせる結果になる場合が多いことが予測されるといえる。
というのは、共有物分割訴訟の現物分割により相続財産の一番意味のある(ある意味ではおいしいところないし甘い)ところは、外部の共有者の手元に確保される可能性が強いことを容認せざるを得ないことになる。
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟をめぐる若干の問題点』/『判例タイムズ879号』1995年8月p65、66
本記事では、共有物分割と遺産分割の両方を行う状況における、この2つの分割手続の連携や実情を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に相続財産(不動産)の共有や遺産分割の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。