【「土地だけ」の現物分割の可否の判断(類型別)】

1 「土地だけ」の現物分割の可否の判断(類型別)

現物分割は、消極的要件があります。不可能著しい価格減少をもたらす場合には現物分割はできません。
詳しくはこちら|現物分割の要件(消極的要件の基本的解釈・著しい価格減少の減少率基準)
現物分割の消極的要件にあたる事情にはいろいろなものがあります。本記事では、土地だけを対象とする共有物分割において、現物分割の消極的要件に該当する事情を、分類しつつ説明します。

2 土地の狭小・細分化による現物分割の否定

現物分割が否定される類型の1つは、現物分割をすると土地がとても狭くなるという事情です。裁判例としては、分割後に共有者が取得する土地が10坪未満であるケースで現物分割が否定されています。古い裁判例では、1人が取得するが約99坪になるケースで現物分割が否定されています。この頃は、農地を細分化しないために長男が全面的に取得する家督相続がまだ一般的であったので、約99坪であっても農地としては狭いという感覚だったのかもしれません。

土地の狭小・細分化による現物分割の否定

あ 分割後1.5〜3坪

現物分割をした場合、各共有者の取得する土地が1坪半〜3坪とかになる
→現物分割はできない
※東京地裁八王子支部昭和41年10月26日

い 分割後6坪

現物分割をした場合、各共有者の取得する土地が6坪あまりになる(他の事情もある)
→現物分割はできない
※東京地裁昭和44年9月16日
詳しくはこちら|複合的な事情により現物分割の可否を判断した裁判例の集約

う 分割後7.3坪

現物分割をした場合、各共有者の取得する土地が約7.3坪になる
経済的効用の乏しい土地を生み出し、土地の有する宅地としての価値をいたずらに損ねる
→現物分割はできない
※大阪地裁昭和50年10月28日

え 畑について分割後98.8坪

分割の請求については右不動産は1反6畝余歩(14歩)(494坪)に過ぎざる1筆の畑地にして之を分割せば著しくその価格を損するのおそれありと認むる・・・現物の分割をなさずして之を競売し・・・
(共有者は5名なので1人あたり98.8坪(約326平方メートル)となる)
※東京控判大正9年4月14日(新聞1757号p17)

3 建築基準法上の接道の支障による現物分割の否定

土地を現物分割した場合に、面積としては宅地として十分であっても、建築基準法の接道義務をクリアしないと現実的に宅地として使えません。このようなケースでは現物分割は不能ということになります。

(1)平成3年東京地判・接道義務充足不可の土地発生

仮に現物分割を採用した場合に、接道義務を満たさない、つまり建物を建築できない土地が誕生してしまう、ということから、現物分割を否定した裁判例です。

平成3年東京地判・接道義務充足不可の土地発生

あ 接道→西側2.86メートルのみ

本件土地は、都市計画区域内(第二種住居専用地域)に所在し、建築基準法にいう「道路」に二メートル以上接していなければならないところ(建築基準法四一条の二、四三条一項)、別紙測量図面のとおりのいわゆる旗竿地であり、西側の公道に幅約二・八六メートルで接道している(争いがない。)。本件土地は、その東側が、現況通路(幅約二メートル)に接しているが、これは元水路を埋め立てたものであって、建築基準法上の道路とは設められていない(争いがない。)。

い 接道部分→路地状(旗竿地)

西側の公道に接している幅は、前記のとおり約二・八六メートルであり、この接道部分は、別紙測量図面のとおり、本件土地のうちの幅約二・八六メートル、奥行約一四・四五メートル細長い形の路地状の部分であること(争いがない。)に照らせば、

う 現物分割の想定→いずれかの土地が接道義務充足不可

本件土地を現物分割しようとするときは、分割の結果生ずる各土地がいずれも建築基準法上の接道義務を充たすように分割を行うことは不可能であり、分割の結果生ずる土地のいずれかが、建築基準法上の接道義務を充たさない土地となるのは明らかである。

え 結論→価格を著しく損なう

そして、接道義務を充たさず建物の敷地として適法に利用できない袋地部分については、その使用価値、交換価値が著しく小さくなると認められる。
ただでさえ、さほど広い面積といえない本件土地(地積二一二・八九平方メートル)を分割してこれより小さな面積の土地に分筆することは、土地の有効利用可能性の観点から、全体としての使用価値、交換価値を減少させることになるというべきところ、このように建築基準法上、建物の建築が不可能な土地を作り出すことになるのでは、本件土地を現物分割することは、本件土地の全体としての価格を著しく損なうことになるというべきである。
※東京地判平成3年7月16日

(2)平成15年広島高判・実際的ではない(概要)

仮に現物分割を採用した場合、公道への実用的な通路を確保できないことから、現物分割を否定した裁判例です。

平成15年広島高判・実際的ではない(概要)

本件土地の位置、形状、持分割合、共有物の利用状況は前記認定のとおりであり、特に双方が東側公道への通路を確保しながらこれを現物で2分することは、その形状や面積からして実際的ではなく(戦後の復興に伴う区画整理では、狭小な宅地を生じさせないため、本件土地の面積が最小区画とされたことは前記のとおりであり、それ以下の分筆が制限されていたほどである。)、現物で分割することは困難というほかない。
※広島高判平成15年6月4日
詳しくはこちら|共有持分の担保権を全面的価格賠償の賠償金に反映しなかった裁判例(平成15年広島高判)

(3)平成18年東京地判・通常の利用が困難

もともと接道部分の幅が狭いため、現物分割を採用した場合に極端に細長い形状の土地となり、通常の利用が困難になる、という理由で現物分割を否定した裁判例です。

平成18年東京地判・通常の利用が困難

本件土地は一体として駐車場として利用されているが、都市部の市街地に位置する面積332.72平方メートルの土地で接道面が狭く、これを接道面を確保したまま更に3筆の土地に現物分割するときはそれぞれの土地が極端に細長の形状となり、その形状が原因で通常の利用が困難な土地となることが認められる。
そうすると、現物分割は適当でなく、競売による分割を行うほかはないものである。
※東京地判平成18年7月27日

(4)平成27年東京地判・間口が狭い+私道通行が必要(概要)

もともと間口が狭く、公道に出るまでに私道を通行する必要があるという土地について、現物分割をすることは合理的ではなく、価値も著しく下がるという理由で現物分割を否定した裁判例です。

平成27年東京地判・間口が狭い+私道通行が必要(概要)

あ 土地の状況→間口が狭い+私道通行が必要

本件792番5の土地は、公簿面積で220.76m2であるから、これを基準とすれば、現物分割により被告Y1及び被告Y4が取得するのはそれぞれ約12.26m2、被告Y2及び被告Y2引受承継人が取得するのはそれぞれ約6.13m2となる。また、証拠(鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によれば、本件792番5の土地は、間口が約2.6m2と狭く、外に出るには本件792番9の土地を含む私道を通る必要があることが認められる。

い 現物分割の想定→合理的でない+価値が著しく下がる

これらによれば、現物分割の方法は、土地の有効利用という観点から合理的でないし、共有者が得られる価値も著しく下がるものであることは明らかである。したがって、現物分割の方法は相当ではない
※東京地判平成27年6月25日
詳しくはこちら|現物分割の不合理性を全面的価格賠償の相当性の1事情とした裁判例の集約

4 第三者の建物敷地について不可能と認めた裁判例

第三者が所有する建物が1つ建っている土地(敷地)について現物分割をしようとすると、通常は「更地部分」と「建物敷地部分」というように分けることになります。更地部分(庭部分)が十分に広ければ別ですが、そうでなければこのような分け方は不可能といえます。

第三者の建物敷地について不可能と認めた裁判例

あ 狭小+建物敷地→不可能認定

・・・本件各土地上には、それぞれ建物が存している上、Aの遺産である本件各土地の持分は72分の3にすぎず、その持分に相当する面積は10.01平方メートルであることからすれば、本件各土地につき、現物分割は不可能であるというべきである。
※東京高判平成22年8月31日

い 建物敷地→不可能認定

・・・本件各土地上いっぱいに訴外建物が建てられていることも併せ考えると、本件各土地について、現物をもって適正に分割することは著しく困難といわざるを得ず、本件各土地を現物分割することは不可能である。
※東京地判平成27年5月29日

5 第三者の建物敷地について価格減少を認めた裁判例

第三者が所有する建物が1つ建っている土地(敷地)について、現物分割をすると著しく価格が減少するおそれがあると判断した裁判例があります。前述の裁判例(不可能と判断)とは違いますが、結論として現物分割を否定したことは同じです。

第三者の建物敷地について価格減少を認めた裁判例

あ 裁判例

(対象土地=土地3筆合計218坪余)
そこで次に分割の方法について考えてみるに、本件土地上に現に第三者数名がそれぞれ建物を所有し、被告がこれらの者から地代を徴収していることは当事者間に争ないところ、かかる状況のもとにおいて現物分割をなすことは原告等主張のとおり著しく本件土地の価格を損ずるおそれがあると認めるに妨げないから、本件土地を競売に付し、その競売売得金を持分に応じ被告4分の2、原告両名各4分の1の割合を以て分配すべきことを命ずるのを相当とする。
※東京地判昭和39年7月15日

い 評釈

むしろ分割不能に当たるか否かを問題にすべきものと思われる(結論に反対しているわけではないと読める)
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p481

6 共有者の1人の建物敷地について現物分割を否定した裁判例

共有の土地の共有物分割において、その土地上に共有者のうち1人が単独所有する建物が建っているということもよくあります。この場合、よほど建ぺい率に余裕がある場合でない限り、分割線をひこうとすると、建物が2つの土地にまたがることになってしまいます。このケースでも現物分割は選択できないことになります。

共有者の1人の建物敷地について現物分割を否定した裁判例

共有土地を対象とする共有物分割において
当該共有土地上に共有者Aが所有する建物が建っていた
Aが建物を賃貸していた(建物賃借人が居住していた)
→現物分割をすることは困難である
※非公開裁判例(当事務所扱い事例)

7 共有者全員の共有建物の敷地について現物分割を否定した裁判例(概要)

土地、建物ともにABの共有であり、土地だけについて共有物分割が請求されたという変わったケースがあります。まだ全面的価格賠償が否定されていた時代なので、現物分割不能イコール換価分割という状況でした。建物は現物分割ができない形状だったので、土地だけについて現物分割を求めた、という事例です。
土地についても、現物分割をすると建物が2筆にまたがることになるという理由で現物分割は否定されました。
詳しくはこちら|病院経営への組合認定・解散後の共有物分割を認めた裁判例(横浜地判昭和59年6月20日)

8 共有地上の建物の位置・利用状況の変更の検討

以上のように、共有物分割の対象となっている土地の上に第三者の建物がある場合、現物分割ができない傾向があります。この点、たとえば建物を物理的に移動することで、現物分割ができる状況になることも考えられます。そこで、建物の移動のコスト(費用)がどのくらいかかるか、ということも含めて検討すべきである、という指摘もなされています。

共有地上の建物の位置・利用状況の変更の検討

あ 建物の位置・利用状況の変更の可能性への配慮の指摘

特に問題なのは、当然のことながら、建物所在の土地の場合についてである。
建物等についての客観的変更が基本的に困難なことから、このような事情を踏まえての現物分割の当否を検討する。
多くは、結果的には、そのような方法でよいのであろうが、理念的には、本来、建物の利用状況の変更の可能性等を十分慎重に考慮する必要があるのではないだろうか。
建物の所在位置の変更の困難性(移動費用・形状の変化等とも密接に関連する)のため、通常判決文等にはこのようなことについては殆ど検討を表示説明していないが、理論的にいえば、建物の一定年数経過による著しい減価、また、建物の移動ないし利用状態の変更の可能性ないし容易性・費用とのバランスその他諸般の事情を考慮して、若干の現状変更の可能性・移動性等をも含めて、検討する必要があろうか。
特に建物の使用年数の長期化と使用の乱暴等により、取引価額の極度の低額化、またそうでないときの移動ないし変更技術の進展と経費軽減化の進歩によって、そのようなことを配慮すべき場合も、少しは増えてくるのではないだろうか。
そのような可能性・軽減性が総合的に不可能ないし著しく困難なときには、結果的には、建物の現状のみを前提として、現物分割の可否を決するより仕方がないのであろうが、前述のような具体的建物の経過年数:これによる経済的価値の(著しい)減少・使用状況の変化・建物の一部の状態についての各種の配慮の可能性の増大等についての諸事情をも考慮することにより、判決文に表示するかどうかけは別としても、少なくとも、現物分割の可能性は少しでも増大する可能性はある筈であり、本来そのような可否についても配慮・検討する必要があり得るということは留意されるべきである。

い 建物の位置・利用状況の変更の可能性の主張の必要性

また、当事者、特に現物分割を主張する原告側としても、積極的に、建物の状況・経過年数・客観的価値の減少、占有についての各種利益等を比較考量をし、また、建物などの所在位置の変更、利用状況の変更の可否その他これと関連する諸事項等について、合理的な費用額等を含めて、積極的に具体的内容等について、時には積極的に主張する事実上の必要がある場合もあろう。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p20、21

9 土地境界・測量の支障による現物分割の否定

現物分割を行う際には、土地の境界を特定した上で測量を行うことになります。そこで、境界の特定ができない、あるいは測量ができないことを理由に、現物分割が否定されることもあります。
また、土地の境界が未確定であることを理由に、共有物分割訴訟自体を却下した裁判例もあります。

土地境界・測量の支障による現物分割の否定

あ 土地の位置の特定不可→不可能(現物分割否定)(概要)

(筆界特定不可→不可能)
・・・土地の位置を特定することができない以上、これを現物分割の方法によって分割することはできないというべきである。
※東京地判平成21年11月26日
詳しくはこちら|境界未確定により全面的価格賠償を否定した裁判例(平成21年東京地判)

い 測量困難→困難(現物分割否定)(概要)

(全面的価格賠償を選択する事情の1つとして)
土地の正確な測量を行うことは困難であるため、現物分割をすることは事実上困難である
※東京地判平成24年7月11日
詳しくはこちら|現物分割の不合理性を全面的価格賠償の相当性の1事情とした裁判例の集約

う 土地境界未確定→分割請求却下(参考)

(現物分割に関係なく)
土地を対象とする共有物分割訴訟において
境界(筆界)が未確定であることにより、訴えの利益がないものとして却下されることがある
※東京地裁昭和62年5月29日
詳しくはこちら|共有物分割訴訟において権利濫用・信義則違反・訴えの利益を判断した裁判例(集約)

本記事では、土地だけを対象とする共有物分割において、現物分割が否定される事情を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
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