【遺産分割における共有分割(共有のままとする分割)】
1 遺産分割における共有分割(共有のままとする分割)
遺産分割において遺産を分割する方法(分割類型)の1つとして、共有のままとする方法(共有分割)があります。
詳しくはこちら|遺産分割の分割方法の基本(分割類型と優先順序)
本記事では、共有分割について説明します。
2 共有分割(共有とする分割)の基本
遺産分割は、通常、個々の財産をいずれかの相続人に承継させるものです。この点、1つの遺産を複数の相続人に承継させる方法もあります。
遺産分割の共有分割によって、もともと遺産共有であったものが物権共有になった、ともいえます。その後に、共有を解消する手続は、遺産分割ではなく、共有物分割ということになります。
共有分割(共有とする分割)の基本
あ 内容
物権法上の共有とする分割である
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p397
い 共有の性質の変化
共有分割により、遺産共有から物権共有に変わる
→共有を解消する手続の種類は遺産分割ではなく共有物分割となる
※東京地判昭和45年2月16日
※大阪高決昭和38年5月20日(遺産分割調停・審判は不適法却下となる)
う 遺産共有と物権共有の違い(参考)
遺産共有の性質(物権共有との違い)については別の記事で説明している
詳しくはこちら|遺産共有の法的性質(遺産共有と物権共有の比較)
え 裁判所による共有分割の採用
裁判所が(審判として)採用することができる
※札幌高決昭和43年2月15日
3 共有分割を選択する事情
遺産分割はもともと、個々の財産を相続人の1人の単独所有にするものです。共有のままにするということは、その後に共有者の間で対立が生じるリスクを残すことになります。その場合は、前述のように共有物分割によって共有を解消することになります。
いずれにしても、共有を残すということは理想的なことではありません。そこで、共有分割を選択できるのは、他の分割方法(分割類型)を選択できないという事情や、相続人が共有のままとすることを希望しているという事情がある場合に限られます。相続人の間に激しい対立がある場合や反対する相続人がいる場合には共有分割を選択することはできません。
共有分割を選択する事情
あ 共有分割のデメリット
共有とする分割は、遺産共有が物権共有に変わるだけで、必ずしも問題の根本的解決になるわけではない
い 共有分割を選択する事情
ア 補充性
現物分割、代償分割、換価分割がいずれも困難である場合に共有分割を選択する
※大阪高決平成14年6月5日
イ 相続人の希望と相当性
相続人の意向として共有とする分割を希望し(即時の換価までは希望せず)、これを不当とすべき事情がない場合に共有分割を選択する
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)』有斐閣2019年p397、398
※雨宮則夫ほか編著『遺産相続訴訟の実務』新日本法規出版2001年p289
う 共有分割を選択できない事情
ア 激しい対立
当事者間の感情的対立が激しい場合には共有分割を選択できない
※大阪高決昭和40年4月22日
※東京高決平成2年6月29日
※東京高決平成3年10月23日
イ 相続人の反対
相続人(当事者)が共有分割に反対している場合には共有分割を選択できない
※広島高決昭和40年10月20日
4 共有分割を選択した裁判例
実際に裁判所が共有分割を選択した裁判例を紹介します。売却する予定の不動産や、誰が承継するかを将来協議する予定があるという事案で共有分割が選択されました。
ところで、相続人が、複数のグループに分かれて対立する状況はよくあります。つまり、同じグループ内の相続人の関係は良好である、という状況です。このような場合には、不動産甲はグループA(の相続人)が承継(共有)する、不動産乙はグループBが承継する、という方法をとることもあります。共有の解消を一部だけにとどめる、という意味で一部分割ということもあります。
共有分割を選択した裁判例
あ 売却予定の不動産
売却することに相続人間で合意ができているマンションにつき共有とした
※大阪家審昭和59年4月11日
い 将来の円満な協議が予定される不動産
直ちに現実に分割する必要がなく将来の円満な協議が期待できるため、現段階では細分化を避け共有とした
※仙台家審昭和46年3月17日
う 一部分割(現物分割+共有分割)
まとまっている当該グループ内では将来の分割に支障が生じたり新たな紛争を惹起する可能性はないとして、遺産の一部を1つのグループの相続人らの共有とし、残部を他のグループ内の相続人の共有とした
※札幌家審平成10年1月8日
※神戸家尼崎支審昭和38年8月22日(同趣旨)
5 共有分割+共有物分割禁止という審判(概要)
遺産分割の審判として、裁判所が共有分割を採用した場合、さらに、5年以内の共有物分割の禁止を定める手法もあります。これは、共有物分割禁止という制限のついた共有持分を相続人に取得させるという言い方もできます。これにより、一定期間、現状(占有・居住)を維持できることになります。
この手法は、遺産分割の禁止とは異なりますが似ているので、遺産分割禁止の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺産分割の禁止(4つの方法と遺産分割禁止審判の要件)
6 共有持分が遺産である場合の共有分割
たとえば、不動産甲をABCが共有しているケースで、共有者Aが亡くなった場合、Aの有していた共有持分(権)が遺産ということになります。この共有持分を相続人の1人(A1)が承継したとしても、不動産甲はA1とBCの共有であり、共有が解消されることになりません。共有を解消するには、(遺産分割とは別に)共有物分割をする必要があります。遺産分割で承継者を1人に決めても、相続人全員の共有のままにしても、不動産甲の共有が解消されないのは同じことです。そこで、このようなケースでは、遺産分割では共有のままとすることが選択されることもあります。
共有持分が遺産である場合の共有分割
あ 遺産分割としての共有分割
遺産そのものが不動産の持分である場合、他に一部の相続人あるいは第三者の持分が存在していて、話し合いによる一体的解決ができないときには、遺産分割としては共有分割を選択していったん当該不動産全体を物権法上の共有状態とし、最終解決は遺産でない共有持分とともに共有物分割訴訟に委ねる
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p398
い 共有物分割との競合(参考)
共有者が亡くなると、遺産共有と物権共有が混在した状態となる
遺産である共有持分についての遺産分割と不動産全体についての共有物分割が競合する
詳しくはこちら|遺産共有と物権共有の混在(持分相続タイプ)における分割手続
実際には共有物分割が先行となる傾向がある
詳しくはこちら|競合する共有物分割と遺産分割の連携(保管義務・実情)
7 共有物分割との違い(参考)
遺産分割が共有のままで終わっても、その後、共有を解消しようと思えば、共有物分割をすれば実現します。この共有物分割で、仮に共有のままとした場合、次の分割手続がありません。そこで、共有物分割では共有分割(共有のままとする)は選択できません。ただし、共有物分割でも、一部だけを共有のままとする(一部分割)は可能です。
詳しくはこちら|2つの分割手続(遺産分割と共有物分割)の違い
本記事では、遺産分割の分割類型の中の共有分割を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
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