【借地の明渡料の相場|訴訟と交渉の違い|借地権価格・正当事由充足割合】
1 借地人が退去する場合の明渡料は借地権価格が基礎となる
(1)借地の明渡により経済的には借地権が移転したと考えられる
借地の明渡、ということを経済的に、つまり利害として整理すると次のようになります。
あくまでも実質的・経済的なプラスマイナス(利害)を特定します。
借地の明渡についての経済的分析
あ 地主
(貸地として以外に)『自由に利用(収益)できる、という利益』を得る
い 借地人
『土地を利用できる』という立場・利益=借地権価格、を失う
このように借地権に相当する利益が動く、と考えられます。
借地権の価格、のことを借地権価格と呼びます。
詳しくはこちら|借地権評価額|基本・不動産鑑定評価基準|4種類の算定方法・組み合わせ
(2)実際にはストレートに、借地権価格=明渡料、というわけではない
ところで、訴訟において、判決で明渡を強制する、という場面では、裁判所が明渡料を算定することになります。
いわば公的・中立的な明渡料、ということになります。
さらに言えば、任意の交渉として借地の明渡が実現することもあります。
この場合は、訴訟における明渡料相場とはまた微妙に異なる考慮が含まれることがあります。
いずれにしても、借地権価格がベースとなりつつ、明渡実現のプロセスによっても明渡料相場は変わってくるということです。
2 借地権価格は、更地価格に借地権割合をかけて算出する
借地権割合という概念があります。
更地価格に占める借地権価格の割合、という意味です。
整理すると、次のようになります。
借地権価格の算定方法
3 借地権割合は、路線価図が参考とされるが使われないこともある
相続税算定の際に、借地権価格を使います。
その計算で使う借地権割合は、『路線価図』に記載されています。
地域によって異なりますが、50%~70%ということが多いです。
実際に、訴訟において、採用される借地権割合は、路線価図に記載されている数値をそのまま用いる、という傾向にあります。
逆に言えば、借地権取引の相場がある場合、これを重視することもあります。
具体的には路線価図では70%のエリアでも、取引相場である50%を採用する、というような例です。
4 更地価格は路線価図をそのまま使わず実勢価格を用いる
借地権価格を算定する元となる更地価格については、実勢価格が用いられます。
路線価図にも更地評価額の単価が記載されています。
しかしこれは相続税・贈与税を算定する基礎として用いるものです。
これは土地取引の相場とは大きくずれていることも多いです。
明渡料算定の基礎としてそのまま採用することは通常ありません。
借地権割合では路線価図掲載の数値をストレートに流用することが多いので注意が必要です。
この違いの原因は、路線価図の数値以外に明確な相場があるかどうかというところにあります。
5 更新拒絶における明渡料の算定では正当事由の充足割合を差し引く
借地の明渡を訴訟で認める場面、というのは、更新拒絶ということになります(借地借家法5条;更新の異議)。
更新拒絶について、単に通知を行えば、契約が終了する(更新されない)、という単純なものではありません。
土地利用の必要性などの『正当事由』があると認められることが条件となっています(借地借家法6条)。
さらに正当事由の一環として『財産上の給付』が挙げられています(借地借家法6条)。
これが、一般的に明渡料とか立退料と呼ばれているものです。
簡単にまとめると次のようになります。
明渡料の性格=補充性
ところで、明渡料算定のベースとなるのは、借地権価格(借地権の評価額)です。
そこで、明渡料の算定をごく単純な数式にすると次のようになります。
明渡料算定の原始的数式
さらに、実際に判決における明渡料算定においては、次のような事情も考慮(反映)されます。
明渡料算定の仕上げ段階における調整
あ 譲渡承諾料相当額の控除
一般的に、借地権を換価(売却)する場合、地主の承諾料が必要である
この譲渡承諾料の相場は、概ね借地権価格の10%とされている
売却する際に負担することになる費用なので、この分はマイナスの価値として反映させる
い 建物(単体)としての価値の加算
一般的に、更新拒絶による明渡請求に対して、借地人は、建物買取請求権を行使できる
この場合の代金額としては、建物単体の価値がベースとなる
この金額も借地人が得るべき金額となる
土地の使用利益もありが、借地権価格として反映済みの場合は考慮しない
(参考)建物買取請求権については別の記事で説明している
詳しくはこちら|借地期間満了時の建物買取請求権の基本(借地借家法13条)
う 営業補償(営業損害)
借地人が借地上(の建物)で営業を行っていた場合、明渡により借地人は営業活動が制限される
この経済的なマイナスを補償する趣旨で、営業損害分を明渡料に加算する方法がある
転居可能であれば、転居実費や転居期間の減収など、転居不能であれば営業自体の価値の補償などとなる
(参考)廃業における補償内容は別の記事で説明している
詳しくはこちら|明渡による営業補償における廃業の判断と明渡料算定
6 交渉における明渡料相場は、訴訟の場合よりも簡略化される
訴訟の場合、より中立・公平な算定方法が探求されることになります。
一方で、任意の交渉によって借地明渡が実現する場合は、他の要素が明渡料に影響してきます。
なお、以下の要素は、訴訟の場合は一切考慮されないというわけではありません。
訴訟でも反映されることはありますが、主流ではありません。
以下、任意の交渉による明渡料への影響要素の典型を挙げます。
(1)正当事由が圧倒的に不足する場合
→明渡料が高額方向にシフト
訴訟による明渡請求が認められない可能性が高い場合です。
典型例は、地主サイドの高度利用(高収益実現)目的、という場合です。
明渡料が更地評価額を超過するケースもあります。
(2)正当事由は大きいが、期間満了が遠い
→明渡料が高額方向にシフト
(3)借地人サイドで換価の希望が強い
→明渡料が低額方向にシフト
典型例は、『高級住宅街で、地代の負担が重く、借地人が当該場所での居住を断念する』ケースです。
(4)地主サイドで明渡実現の希望が強い
→明渡料が高額方向にシフト
例えば、譲渡承諾料相当額の控除を適用しない、ということはあり得ます。
(5)更新料の支払があった
→支払った更新料のうち償却した残額分を明渡料に加算する考え方もあります
更新料の法的性格として画一的理解はないのですが、契約期間に対応する賃料前払と考えると、未償却分の返還という考え方も出てきます。
(6)当該エリアで、借地明渡が一定の頻度で生じている
→具体的に生じた明渡料相場が適用される
特に、特定の地主が、複数の借地明渡の際に適用した、特定の借地権割合が存する場合、それ以降の借地明渡においても適用される傾向が強いです。
借地が多いエリアで、このような任意交渉の相場が形成されることがよくあります。
その場合の相場としてよく見られるのは50%です。
ちょうど折半なので、分かり易い、ということが一因としてあると思われます。
本記事では、借地の明渡料(立退料)の相場について説明しました。
実際には、個別的事情によって、明渡料の金額や最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地の明渡(料)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。