【COC条項違反を理由とする解除の有効性を判断した裁判例の集約】
1 COC条項違反を理由とする解除の有効性を判断した裁判例の集約
2 昭和31年東京高判・解除有効
3 昭和51年東京地判・解除有効
4 平成5年東京地判・解除有効
5 昭和43年東京地判・解除無効
6 平成18年東京地判・解除無効
7 平成23年5月東京地判・解除無効
8 平成23年6月東京地判・解除無効
1 COC条項違反を理由とする解除の有効性を判断した裁判例の集約
主に建物賃貸借契約において,会社の支配権や役員の変動を禁止する特約(COC条項)が設けられることがよくあります。この特約に反して,支配権や役員に変動があった場合には,ストレートに解除が認められるわけではありません。
詳しくはこちら|会社の支配権や役員の変動を禁止する特約(COC条項)と解除の効力
実際に,COC条項違反を理由とする解除を認めるかどうかを判断した裁判例が多くあります。本記事では,このような裁判例を紹介します。
2 昭和31年東京高判・解除有効
賃借人(会社)の代表者の変更について,賃貸人の承認が必要という特約があったケースです。
賃借人は代表者を変更したけれど賃貸人の承認を得ませんでした。実態としても,事業内容が大きく変わり実質的に別個の会社になったといえる状態でした。さらに,建物の用途も大きく変わっていました。
このような事情があったので,裁判所は解除を有効としました。
<昭和31年東京高判・解除有効>
あ 特約
代表者(取締役,支店長その他名義のいかんにかかわらず法律上または事実上控訴会社を代表し本事務室を使用する者)を変更したときは,遅滞なく賃貸人に届け出てその承認を受ける
い 特約の有効性
借主の営業の自由ないし代表者変更の自由を侵害するものということもできない
→特約を有効とした
う 解除の有効性
「あ」の特約違反と他の理由(用法遵守義務違反)を理由とした解除について
実質的には前後別個の会社に改組された
→解除を有効とした
※東京高判昭和31年8月7日
3 昭和51年東京地判・解除有効
資本構成の変更があった時に届け出るという特約があったケースです。
賃貸人の承認までは不要で,届け出るだけで済むという特約でした。このように賃借人に課せられた義務は軽いので,特約は有効となりました。
賃借人に生じた資本構成の規模が大きく,実質的な賃借人の交替といえるレベルだったので,解除は有効となりました。
<昭和51年東京地判・解除有効>
あ 特約
資本構成に重大な変更を生じたときは,賃貸人に対し遅滞なく文書で届出なければならない
い 特約の有効性
義務履行は容易である
→特約は有効である
う 解除の有効性
特約違反を理由とする解除について
実質的な賃借人の交替にあたり信頼関係の破壊が認められる
→解除を有効とした
※東京地判昭和51年8月23日
4 平成5年東京地判・解除有効
資本または役員の重大な変更について賃貸人の承認が必要であるという特約があったケースです。
裁判所は,まず,実質的に賃借人が変わったといえる場合に初めて賃貸人は承認を拒否できる,という前提を置きました。その上で,承認拒否が相当といえる場合に解除が有効となる,という基準を示しました。
当該案件では,信頼関係が破壊される程度の事情があったので,解除は有効となりました。
<平成5年東京地判・解除有効>
あ 特約
資本又は役員構成に重大な変更を生じたときは,賃貸人に対し遅滞なく必要書類を提出し,その書面による承認を得なければならない
賃借権,営業権等の権利の全部又は一部を譲渡(賃借人の業種・資本・役員構成等の重大な変更により契約締結当時と実質的な企業の同一性を欠くに至つたとき,又は営業全部の賃貸,その経営の委任,他人と営業上の損益全部を共通にする契約,その他これらに準ずる行為をなした場合は,これを譲渡とみなす。)することができない
い 解除の有効性
株式の譲渡や代表者の変更により実質的に賃借人の同一性をそこなうと評価しうる場合・・・,原告は賃借人における株式の譲渡や代表者の変更を承認をしないことができ,その不承認が相当性を欠いているか否かの点については,信頼関係を破壊しない特段の事情の存否を判断する際に併せ考慮される
→信頼関係の破壊を認め,解除を有効とした
※東京地判平成5年1月26日
5 昭和43年東京地判・解除無効
代表者の変更を無断で行った場合に解除できるという特約があったケースです。
賃借人は代表者の変更を行いましたが,その後,退任した者が再び代表者に戻っており,また,構成員に変更はなかったため,裁判所は,解除を無効としました。
<昭和43年東京地判・解除無効>
あ 特約
被告(法人)の代表者をA,B以外の者に原告に無断で変更した場合は無条件で本件契約を解除され明渡の執行をうけても異議がない
い 賃借人に生じた変動
Bは代表取締役を退任した
被告会社は商号をD株式会社と変更した
代表者にCが就任した
う 特約の有効性
特約がなされたのは,法人の代表者を変更することによって,実質的に賃借権の無断譲渡がなされることのあるのを防止することを目的とするものであることが認められるのであり,このような特約が直ちに信義則に違反するものであると解することはできない
→特約は有効である
え 解除の有効性
被告会社はA,B,Cを主たる構成員とするもので,このことは,本件契約の成立した後も変更がなく,現在はA,Bも,代表取締役に就任している事実が認められる。
したがって,被告会社は本件契約の際と,構成員を同一にしており右特約の趣旨に反しておらず原告が右特約違反として本件契約を解除することは許されない。
※東京地判昭和43年1月24日
6 平成18年東京地判・解除無効
株式譲渡や商号・役員の変更が賃借権の無断譲渡や無断転貸の潜脱として行われることを防ぐような特約があったケースです。
実際に行われた株式譲渡は,実質的な賃借権の譲渡とはいえないレベルだったので,解除は無効となりました。
<平成18年東京地判・解除無効>
あ 特約
賃借物件の一部又は全部につき,賃借権の譲渡,転貸をした場合(他の債務により破産宣告,強制執行を受けた場合,株券譲渡,商号,役員変更等による脱法的無断賃借権の譲渡,転貸の場合を含む)に,賃貸人は,無催告で解除ができる
い 解除の有効性
特約違反を理由とする解除について
賃借人の株券譲渡等は特約が規定する脱法的無断賃借権の譲渡にあたらない
→解除を無効とした
※東京地判平成18年5月15日
7 平成23年5月東京地判・解除無効
役員や株主の変更による経営主体の実質的変更を禁止する特約があったケースです。
代表者が変更されましたが,実態として,元代表者が使用収益に関する決定権をもっていました。
そこで,(仮に特約違反だとしても)重大な債務不履行ではないとして,解除は無効となりました。
<平成23年5月東京地判・解除無効>
あ 特約
賃貸人の書面による承諾なく,本件建物の全部又は一部につき,賃借権の譲渡,転貸若しくは使用貸借をなし,あるいは,本件建物を第三者に使用させ,若しくは,賃借人以外の名義を表示してはならない
代表者等役員の変更,株式譲渡等による経営主体の実質的変更は賃借権の譲渡とみなす
い 解除の有効性
賃借人の代表者の変更があった
しかし,建物の使用収益をどのように行うかの最終的な決定権は従前の代表者にあった
代表者の変更に伴う不利益はあったとしても大きいものではない
解除するに足りる重大な債務不履行に当たるとはいえない
→解除を無効とした
※東京地判平成23年5月24日
8 平成23年6月東京地判・解除無効
代表者の変更を会社の譲渡とみなし,賃貸人が賃借人に一定の金銭を請求できるという特約があったケースです。
特約は,代表者の変更を禁止するものではないこともあり,裁判所は特約が借地借家法に反することはないと判断しました。
賃借人は代表者を変更しましたが,これについて賃貸人と協議を行い,正式ではないですが,一定の金銭を支払うことについて賃貸人が了解し,賃借人はこのとおりの支払をしました。
正式な合意ではないので形式的には,特約に違反したともいえる状態でしたが,以上のような経緯から,信頼関係の破壊はないとして,解除は無効となりました。
<平成23年6月東京地判・解除無効>
あ 特約
賃貸人は,賃借人の代表取締役が変更した場合には,会社を譲渡したものとみなすことができ,賃借人に対して保証金の20%相当額及び新規賃貸借条件を請求することができる
い 特約の有効性
一定の合理性がある
特約は借地借家法30条に反しない(有効である)
う 解除の有効性
賃借人は,代表者を変更し,経営権の譲渡を行った
賃借人は,賃貸人との間で,約6か月にもわたり,賃貸借契約の条件について協議した
この協議の中で,代表者変更約定金については,填補なしで預入れ済みの保証金から償却するとの事項については一旦は了解に達した
賃借人は,協議中に賃貸人との間で一旦は了解に達していた賃料を11%増額するとの事項について,最終的な合意が成立していないにも関わらず,先取りする形で支払い続けていた
(特約違反を理由とする解除について)信頼関係の破壊は認められない
→解除を無効とした
※東京地判平成23年6月10日
本記事では,COC条項の有効性やこれによる解除の有効性を判断した裁判例を紹介しました。
実際には,個別的事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に賃貸借契約における特約違反や解除に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。