【複数の賃貸対象物が相互に与える影響(解除や明渡請求の可否)】
1 複数の賃貸対象物が相互に与える影響(解除や明渡請求の可否)
土地や建物の賃貸借契約において、対象物が複数あるというケースもあります。たとえば複数の(筆の)土地についての賃貸借です。
このようなケースでは、一方の対象物について生じた事情が他方の対象物にも影響することがあります。これだけだと分かりにくいので、本記事では、実例を挙げて説明します。
2 複数の賃貸土地の一部の用法違反による全部の解除を認めた判例
複数の土地を対象として賃貸借契約を締結したケースです。一方の土地だけについて、用法違反がありました。これを理由として両方の土地についての解除が認められました。
複数の賃貸土地の一部の用法違反による全部の解除を認めた判例
あ 事案の類型
契約の個数 | 土地の賃貸借1個 |
対象物 | 土地2筆 |
い 事案
道路を隔てて存在する甲乙土地をXが所有していた
Xは甲乙土地をYに賃貸した
賃貸の目的は、石油類販売業のために甲乙土地を総合的に利用するというものであった
Yは、甲土地に石油貯蔵庫を建築した、これは用法違反であった
う 裁判所の判断
X(賃貸人)は甲土地の用方違反を事由として甲乙土地全体について賃貸借契約を解除することができる
※最判昭和39年6月19日
3 賃貸建物の駐車場部分の解除に正当事由を必要とした裁判例
契約としては、建物の賃貸借なのですが、建物の周辺の土地も駐車場として貸していたというケースです。
賃貸人は、建物以外の土地(駐車場)部分だけの解約(解除)を主張しました。裁判所は、土地部分の賃貸借の解除にも借家法の正当事由が必要であるとした上で、この事案では正当事由はないと判断し、解除を否定しました。
賃貸建物の駐車場部分の解除に正当事由を必要とした裁判例
あ 事案の類型
契約の個数 | 建物の賃貸借1個 |
対象物 | 建物と隣接する土地(駐車場) |
い 事案
XはYに建物を事務所兼従業員宿舎として賃貸した
同時に、XはYに建物の敷地部分を除く土地を車両置場として賃貸した
Xは車両置場部分についてのみ解約を申し入れた
う 裁判所の判断
建物及び車両置場部分は一体として運送業のために使用されていた
車両置場部分付の建物の賃貸借契約(1個の借家契約)である
借家契約としてその全体について借家法の規定の適用を受ける
借家法1条の2の正当事由による解約の制限は、直接的には、建物についての使用の正当性の存否に基づく解約の制限にとどまる
土地である車両置場部分についての解約に関しては、直接的にはその制限が及ぶものではない
1個の借家契約である以上、建物自体について正当事由があるときは車両置場部分についても解約申入が許される
車両置場部分の全部又は一部につき、借家法1条の2の正当事由に準じた(土地についての)正当事由が認められるときには、解約申入ができる旨の黙示の合意がある
正当事由を構成するに至らないことは明らかである
原告の請求を棄却する
※東京地判平成2年1月25日
4 マンション居室とビルドイン駐車場の一体性を否定した裁判例
マンションの居室とマンションの1階部分にあるビルドイン型の駐車場を対象とした賃貸借がなされていたケースで、賃貸人が駐車場の賃貸借だけ解約を告知しました。
これについて裁判所は、まず、駐車場は「建物」の一部ではあるけれど、独立性・排他性を欠くことから、借地借家法上の「建物」ではないと判断しました。
次に、居室の賃貸借と駐車場の賃貸借の一体性について、最初の契約書が別であり、賃料・期間も別個に定められていたことなどから否定しました。
結論として、駐車場の賃貸借には借地借家法の適用はないことになり、賃貸人からの解約されない、つまり、解約により契約は終了した(明渡義務がある)ことになりました。
マンション居室とビルドイン駐車場の一体性を否定した裁判例
あ 事案の類型
契約の個数 | 建物の賃貸借1個+駐車場(建物の一部)の賃貸借1個 |
対象物 | 建物とビルドイン型駐車場 |
い 事案
XはYにマンションの1室(居室)を賃貸した
その後、XはYにマンションの1階部分にあるビルドイン型の駐車場を賃貸した
契約の合意更新の際、居室と駐車場について1通の契約書で調印した
う 裁判所の判断(引用)
ア 借地借家法の適用の有無(否定)
上記で認定した事実によれば、本件駐車場は、屋根こそあるものの、周壁を有しておらず、隣の駐車場と壁によって客観的に区別されているとはいえないし、また、本件建物の居住者であれば誰でも本件駐車場を通って本件建物を自由に出入りし得る状態にある以上、被告の独立的、排他的な支配が可能であるともいえない。
そうすると、本件駐車場は、本件建物の一部を構成するものではあるが、借地借家法の適用を受ける「建物」に該当するとはいえない。
イ 2個の契約の一体性の有無(否定)
(2) 他方、前提事実、証拠(後記各書証)及び弁論の全趣旨によれば、被告は本件駐車場契約の締結前に本件居室契約(甲6)のみを締結し、同契約上、当初の賃借目的物に駐車場は含まれていなかったこと、被告がその後に締結した本件駐車場契約(甲2)は、その賃料額や賃借期間は本件居室契約とは別個に定められ、その後の契約更新も本件居室契約とは別個に行われていたこと、本件建物の敷地内には屋根のない駐車場が複数存し(甲7、甲9)、原告は、本件駐車場契約の解約申入れの際、被告に対し、本件駐車場の代替駐車場として上記屋根のない駐車場の利用(その月額賃料は自動車1万5000円、原付自転車2000円(いずれも消費税別))が可能である旨併せて提案していたこと(甲3)、被告は、本件駐車場の賃料増額に常識的な範囲で応ずる意向を表明しているものの、その保有車両(乙4、乙5)に強い愛着を示しており、原告の提案に係る屋根のない駐車場を利用することを拒否していること(乙6)、以上の事実が認められる。
上記で認定した事実によれば、本件駐車場契約と本件居室契約は全く関連性がないわけではないものの、居室と駐車揚の利用は可分なものであり、本件駐車場が利用できなければ本件居室における居住という本件居室契約の目的をおよそ達成することができないともいえないから、上記各契約が不可分一体の関係にあるとまではいえない。
本件建物の被告以外の居住者において、賃貸借契約の更新の際に居室部分と駐車場部分とを1通の契約書により合意更新したこと(乙9)があるとしても、2通の契約書を作成する手間を省力化するための便宜的な措置にすぎないとも解されるから、上記判断を左右する事情であるとはいえない。
ウ 結論(借地借家法の適用→否定)
したがって、本件駐車場契約に借地借家法が準用又は類推適用されるものではないというべきである。
※東京地判平成31年2月13日
5 店舗隣接地の賃貸借の明渡請求を権利濫用とした裁判例
カラオケ店としての建物の賃貸借と来客用の駐車場(土地)の賃貸借の2つの契約が存在したケースです。この2つの賃貸借は、賃貸人(所有者)が異なっていました。
土地の賃貸借は、建物所有目的ではないので、民法の規定どおりに解約告知によって終了することになります。しかし、この結論だと、カラオケ店として建物を使うことに支障が生じます。
そこで裁判所は、明渡請求を権利の濫用として否定しました。
店舗隣接地の賃貸借の明渡請求を権利濫用とした裁判例
あ 事案の類型
契約の個数 | 建物の賃貸借1個+土地の賃貸借1個(所有者=賃貸人は別) |
対象物 | 建物(カラオケ店)、土地(駐車場) |
い 事案
甲建物の所有者AはYにカラオケ店舗営業用として賃貸した
甲建物に隣接する乙土地の所有者XはYに駐車場として賃貸した
Yは乙土地をカラオケ店舗の駐車場として使用していた
Xは乙土地の賃貸借契約を期間満了をもって更新しない旨を通知し、明渡を求めた
う 裁判所の判断
カラオケ店営業のためには、乙土地を客用の駐車場として利用することが不可欠である
甲建物の賃貸借契約が継続しても、乙土地の明渡請求が認められると、Yの店舗営業という契約目的が達せられない
乙土地の更新拒絶を認めなくても、その利用価値は低く、甲建物と一体として利用されることが社会経済上も望ましい
X の明渡請求を権利濫用とした
※福岡高判平成27年8月27日
6 まとめ
以上のように、賃貸借の対象物が複数個(複数エリア)である場合、解除や明渡請求については相互に影響することがあります。原則どおりの結論にはならないこともあるのです。
本記事では、複数の賃貸対象物が相互に与える影響を説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に土地や建物の賃貸借の解除や明渡に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。