【地図混乱地域(筆界未定地)の解消方法(全体像)】
1 地図混乱地域(筆界未定地)の解消方法(全体像)
法務局の地図(公図)上で、土地の位置が明確に記載されていないことがあります。地図混乱地域(筆界未定地)といいます。このままでは売却、担保設定や開発ができないといった大きな問題があります。
詳しくはこちら|地図混乱地域(筆界未定地)の意味・問題点・発生経緯
本記事では、地図混乱地域を解消するいろいろな方法を説明します。
2 地図混乱地域の解消方法
地図混乱地域を解消する方法はいくつかあります。
不正確な分筆や合筆で公図と現状に食い違いが生じたのであればこれらをもとに戻す手続で食い違いが解消されます。ただ、このように食い違いが生じた手続を特定できないということが多いです。
そこで、現実的な方法としては、当該地域内のすべての土地の所有者が同意して地図訂正の申出をすることになります。集団和解方式といいます。たとえば、公図上、1区画となっているところを10個の土地とする(境界線を追記する)という訂正をするのです。
また、訴訟を利用して地図混乱地域を解消するということも有力な選択肢となります。
地図混乱地域の解消方法
あ 分合筆の登記等の原則的な手続による是正
公図と現況図との合わせ図を作成し、これに基づいて分筆錯誤又は合筆によって元の状態に回復した上で、再分筆及びこれに関する所有権移転等の登記手続を行う
現在の登記事項を基に、現況に合致するように分合筆、所有権移転等の登記手続を行う
い 土地改良又は土地区画整理事業による是正
現況区画を換地処分後の土地とみなして、土地改良又は土地区画整理事業の手続により是正する
う 集団和解方式(概要)
土地所有者等の利害関係者全員の合意に基づいて地図等の訂正を行う
詳しくはこちら|集団和解方式による地図混乱地域の解消(法的性質・全員の同意・一部だけの特定)
え 国土調査法に基づく地籍調査による是正
公図の存在しない場合の一筆地調査に関しては、市町村の備付け地図、空中写真その他の資料に基づいて一筆地調査図を作成して現地調査を行うこととされている
※昭和30・12・16民三第753号民事局第三課長回答
集団和解的な要素に基づき作成された現況図面等が存在する場合であれば、それを資料として素図を作成し、地籍調査を実施することによって混乱地域の是正を図る
お 地方税法の規定に基づく申出による是正等による解消方法
課税上直接影響をもたらす登記上の地目又は地積等に関する事項が事実と相違する場合には、市町村長は、その事項の修正を登記所に申し出ることができる
※地方税法381条7項
この規定によって市町村長が申し出る場合でも、その前提として、土地所有者及び利害関係人の同意が必要である
実質的には集団和解方式と同じである
市町村が所有者と登記所の間に介することは、地域の実状把握や関係者の意思をまとめやすいというメリットがある
※中村隆ほか監『Q&A表示に関する登記の実務 第2版 新版』日本加除出版2007年p422、423
か 筆界確定訴訟による解決
筆界(境界)確定訴訟の判決により、地図訂正ができる
3 筆界確定訴訟による解決の特徴(メリット)
前述の集団和解方式をしようとしても、数十人の同意が必要となり、現実的ではない、というケースもあります。このような場合は、筆界確定訴訟を利用します。
訴訟で裁判所が筆界を決めてくれるならば、逆に当事者(土地所有者)の同意は不要となります。また、地図混乱地域の一部分だけ、筆界を特定する(残りの部分は地図混乱地域のままとする)ということも可能となります。
<筆界確定訴訟による解決の特徴(メリット)>
あ 隣地所有者の同意・協力が不要
すべての隣接地所有者の合意や押印を得ることが不要である
協力を拒否する隣地所有者が存在しても地図訂正ができる
い 一部だけの地図訂正が可能
通常、法務局は裁判所の判断(判決)を尊重する
→地図混乱地域のうち一部だけの地図訂正が可能である
4 筆界確定訴訟の流れと所要期間
筆界特定訴訟を使って地図混乱地域を解消する場合の、手続全体の流れを整理します。
実際には、複数の土地所有者の間で、筆界の位置について意見の相違はないということも多いです。その場合は、訴訟とはいっても比較的短期間で終わります。提訴から半年以内に判決獲得まで進むこともよくあります。逆に、複数の土地所有者間で意見の食い違いがあると審理は長くなる傾向があります。
<筆界確定訴訟の流れと所要期間>
あ 筆界確定訴訟の流れ
土地家屋調査士(測量士)による調査
↓
弁護士への依頼
↓
法務局との打ち合わせ(事前相談)
↓
隣地所有者(被告)への手紙(説明)
↓
訴訟提起
↓
裁判所による審理
↓
判決
↓
法務局への地図訂正申出
い 所要期間
訴訟提起から判決獲得までの期間は3〜10か月程度が目安である
5 筆界確定訴訟で使う証拠の収集(概要)
筆界確定訴訟では、裁判所が筆界の位置を判断するための証拠(資料)を当事者が提出します。その中で、地図混乱地域になってしまった経緯も示す必要が出てくることもあります。たとえば公図作成時の成果簿や航空写真がよく使われます。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|地図混乱地域(筆界未定地)の意味・問題点・発生経緯
6 筆界確定訴訟の「争い」の要件の問題
筆界確定訴訟を利用する際の理論的な問題として「争い」の要件があります。
本来、筆界確定訴訟は、隣接地の所有者同士で主張する筆界の位置が異なるという状況を前提としています。このような意見の食い違いがある(「争いがある」といいます)ことが、筆界確定訴訟を提起する条件となっているのです。
この点、地図混乱地域の地図訂正をするための筆界確定訴訟では、土地所有者同士で「争いはない」ということもよくあります。では、裁判所は杓子定規に「争いがない」ことを理由に訴えを却下するかといえば、そうではありません。公図上筆界がはっきりしていない以上、潜在的には「争いがある」といえると考えるのが通常です。
筆界確定訴訟の「争い」の要件の問題
あ 「争い」の要件(前提)
筆界確定訴訟の要件の1つに「筆界の位置に争いがあること」がある
い 地図混乱地域の筆界の特徴
地図混乱地域の筆界については、現実には隣接地所有者同士で、主張する筆界の位置が異なるとは限らない
=「筆界の位置に争いがある」とはいえないこともある
ただし、「争い」が顕在化、具体化していないだけで、潜在的には「争い」があるとも考えられる
→裁判所が「争いがある」の要件を満たすと判断することになる
本記事では、地図混乱地域(筆界未定地)を解消するいろいろな方法を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、最適な対応方法(解消方法)が違ってきます。
実際に地図混乱地域に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。