【損害賠償請求における損害概念(差額説)】

1 損害賠償請求における損害概念(差額説)

民法では、債務不履行と不法行為によって損害賠償請求権が発生します。文字どおり生じた損害を賠償するというものですが、損害をどのように捉えるか、という問題があります。
この問題(損害概念)は、実務のいろいろな場面で、基礎知識として必要になることがあります。本記事では、損害概念について説明します。

2 損害概念についての実務的見解(差額説)

損害概念については、いろいろな見解がありますが、実務では差額説が採用されているといえます。

損害概念についての実務的見解(差額説)

通説・判例は、損害とは何かを説くにあたり、債務不履行・不法行為を問わず、差額説と称される立場を基礎に据えている
差額説は、わが国において、財産的損害に関しては現在もなお通説の地位を失っていない
※北川善太郎・潮見佳男稿/奥田昌道編『新版 注釈民法(10)Ⅱ 債権(1)』有斐閣2011年p262、267

3 差額説の内容

差額説とは、加害行為(や債務不履行)がなかった状態を想定し、これと、実際の状態(加害行為や債務不履行があった状態)との利益状態の差(金銭的な差額)を損害とする、という考え方です。

差額説の内容

あ 通説

差額説は、「もし加害原因がなかったとしたならばあるべき利益状態と、加害がなされた現在の利益状態との差」を損害と捉える考え方として示される
※北川善太郎・潮見佳男稿/奥田昌道編『新版 注釈民法(10)Ⅱ 債権(1)』有斐閣2011年p262

い 判例

民法上のいわゆる損害とは、一口に云えば侵害行為がなかったならば惹起しなかったであろう状態(原状)を(a)とし、侵害行為によって惹起されているところの現実の状態(現状)を(b)とし a-b=x そのxを金銭で評価したものが損害である
※最判昭和39年1月28日(前提理論として)

4 差額説適用の具体例

前述のように、差額説の内容は抽象的で理解しにくいです。そこで具体例を挙げます。
たとえば、交通事故で自動車がへこんだケースでは、修理費用を支出しないと元どおりにならない状況にあります。ここで、事故が発生しなかった世界を想定すると、修理費用の支出は不要という状況です。このふたつの状態の差(差額)は、修理費用(相当額)ということになります。
そこで、損害額は修理費用相当額ということになります。
次に、交通事故で歩行者が怪我をして治るまで1年間仕事(自営業)ができなかったケースでは、1年間収入がない状況となります。ここで、事故が発生しなかった世界を想定すると、1年間(以前どおりに)収入があった状況です。このふたつの状態の差(差額)は1年分の収入(利益)ということになります。
そこで、損害額は1年分の収入ということになります(治療の費用や慰謝料は別です)。このように本来得られた利益を得られなくなったものを、逸失利益、あるいは得べかりし利益といいます。

本記事では、損害概念について説明しました。
損害概念は実務におけるいろいろな場面で基礎知識として必要となるものです。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に生じた損害の賠償に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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