【サブリースにおける賃料改定特約(賃料自動増額特約)の有効性】
1 サブリースにおける賃料改定特約(賃料自動増額特約)の有効性
サブリースの特徴(目的)として、原賃貸人(オーナー)の得る賃料が確保、固定されている、ということがあります。
詳しくはこちら|サブリースの基本(仕組み・法的性格・対抗要件・利ざや相場)
一方、サブリースでも、賃料減額請求は可能です。結局、確保されていたはずの賃料額が下がってしまう可能性もあるのです。
詳しくはこちら|サブリースにおける賃料増減額請求の可否(賃貸借該当性)と判断の特徴
そこで、サブリース契約の中に、賃料に関する特約を設定しておき、想定外の賃料の変更が起きないようにする、というニーズがあります。
本記事では、サブリースにおける賃料改定特約の有効性について説明します。
2 サブリースにおける賃料増額特約の効力を判断した裁判例
一般的に、賃貸借契約における賃料改定特約は原則として有効です。このことはサブリースであっても同じです。
賃料が自動的に増額するという特約が、サブリースのケースでも有効であると判断した裁判例を紹介しておきます。
サブリースにおける賃料増額特約の効力を判断した裁判例
あ 合意内容
契約後6年の時点で、賃料(月額)4305万7455円から6629万1764円に増額する
い 問題の所在
賃料を増額する合意は自動増額特約に当たり、借地借家法32条1項に反し無効となるか
う 裁判所の判断
ア 判断基準
賃料にかかる合意が、借地借家法32条1項に反して無効となるか否かは、同項所定の諸事由、賃料が増額される時点の経済事情及び従来の賃貸借関係(特に当該賃貸借の成立に関する経緯)その他諸般の事情を斟酌し、当該合意の内容が当事者間の公平を著しく害するか否かという基準で決する
イ あてはめ
賃貸建物を賃借人が施工者となって建築しているところ、賃貸人は、賃借人に対し、建築請負代金全額を支払済みである
賃貸借契約は、平成2年及び同4年における当事者間の合意を賃借人に有利に修正して同7年に締結したものであるが、契約締結時の平成7年はいわゆるバブル経済崩壊後、賃料相場の下落を予見できる状況であった
賃料合意は半年近い当事者間の協議を経て、契約締結当初から賃借人に転貸による逆鞘が発生することを見越した上で、賃貸人の事業収益を考慮して締結した経緯がある
→賃料合意は当事者間の公平を害するとはいえず、借地借家法32条1項に反しない=無効とはならない
※東京地判平成15年3月31日
3 賃料改定特約と賃料増減額請求の関係(概要)
前述のようにサブリースのおいても、賃料に関する特約が有効なので、たとえば特約で「賃料増減額はできない」と決めておけば増減額請求を回避できるのでしょうか。
また、特約の内容を少し変えて「3年毎に賃料を1%上げる」(賃料自動改定特約)としておけば、賃料を逆に下げることはできない、つまり賃料減額請求を回避できるのでしょうか。
結論としては、両方とも賃料増減額請求を否定できません。つまり、賃料改定特約があっても、その特約の内容どおりに賃料が変更されるとは限らないといえます。
賃料改定特約と賃料増減額請求の関係(概要)
あ 賃料減額請求の強行法規性
賃料増減額請求権の規定(借地借家法32条1項)は強行法規である
賃料増減額請求権の行使を排除する特約は無効となる
い 特約のバリエーション
条項・特約の名称・タイトルと効果に関わりはない
「賃料保証特約」「賃料自動増額特約」なども賃料増減額請求権の行使を排除できない
詳しくはこちら|賃料に関する特約と賃料増減額請求権の関係(排除の有無と影響)
4 定期借家における賃料増減額請求の排除(概要)
以上のように、通常は、どのような特約を設定しても、賃料増減額請求を排除することはできません。
しかし、定期借家契約である場合だけは別です。賃料増減額請求はできないという特約があれば、そのとおりになります。つまり、賃料増減額請求を否定する特約は有効なのです。
定期借家が創設される前は、サブリースにおける賃料減額請求が、オーナー(原賃貸人)にとっての不確定リスクとして残る状態でした。
現在は、サブリースにおいては、不確定リスクを排除するために定期借家が積極的に用いられるようになっています。
定期借家における賃料増減額請求の排除(概要)
本記事では、サブリースにおける賃料改定特約の有効性について説明しました。
実際には、個別的な事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際にサブリース方式における賃料の金額(増減額)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。