【サブリースの終了(更新拒絶)における正当事由の判断と明渡(占有移転)の方式】
1 サブリースの終了(更新拒絶)における正当事由の判断と明渡(占有移転)の方式
サブリース方式の賃貸借(原賃貸借・マスターリース契約)を、賃貸人(オーナー)から終了させることについて、正当事由があるといえるかどうかの点で対立が生じ、裁判所が判断したケース(裁判例)があります。
同様のトラブルはよく生じます。この裁判例は多くの局面で役立つ判断を含みます。本記事ではこの裁判例の内容を紹介、説明します。
2 サブリースへの借地借家法の適用の有無(前提)
(1)平成15年最判→肯定(賃料減額請求)
最初に、サブリースにも借地借家法が適用されるかどうかについて裁判所は判断を示します。この問題については、以前から激しい対立がありましたが、平成15年判例が、賃料減額請求について、借地借家法の規定が適用されると判断し、それにより決着がついたといえます。
詳しくはこちら|サブリースにおける賃料増減額請求の可否(賃貸借該当性)と判断の特徴
(2)平成27年東京地判・サブリースへの借地借家法の適用肯定(更新拒絶)
本ケースは、賃料減額請求ではなく更新(拒絶)の規定の適用の有無が問題となっていましたが、やはり平成15年最判のとおりに、借地借家法が適用されるという判断になりました。契約書の条項に、通知をすれば期間満了の時に終了すると読めるような感じもするものがありました。しかし、仮にそのような意味であったとしても、借地借家法が適用される以上は無効となります。
結論として、賃貸人が契約を終了させようとしても、借地借家法28条のとおりに、正当事由がないと終了しないということになります。
平成27年東京地判・サブリースへの借地借家法の適用肯定(更新拒絶)
あ 契約条項の内容
(契約の更新)
本件契約を終了する場合、当該満期日の6か月前までに相手側に書面にて通知をする。また、通知後から終了日までの6か月間の空室に対する契約家賃の支払は免除されるものとする。同時に、被告による募集活動は中止するものとする。
い 裁判所の判断
ア 借地借家法の適用(肯定)
・・・本件契約は、原告から本件建物を賃借した被告が第三者に転貸することを目的としている点、満室保証契約が一体化している点に特徴があるが、本件契約で合意されていた中核的な内容は、原告が被告に対して本件建物を使用収益させ、被告が原告に対してその対価として賃料を支払うというものであるから、建物の賃貸借契約であることは明らかである(原告自身、このことを前提とする主張をしている)。
したがって、本件契約は借地借家法の適用対象にほかならず、同法28条の規定も当然に適用されるというべきである。
イ 更新の条項の評価
原告は、本件契約第22条4項(注・「あ」の条項)は借地借家法28条を適用しない旨の特約を当事者間で定めたものであると主張するが、同法30条に反するものであって、主張自体失当である。
また、原告は、本件契約に借地借家法28条を適用することは信義則や禁反言に反する旨主張するが、原告の主張する事実を前提にしても、本件契約に同条を適用することが信義則や禁反言に反するなどと認めることはできない。
ウ 結論
したがって、本件契約には借地借家法28条の適用があり、本件契約の更新拒絶には正当事由の具備が必要となる。
※東京地判平成27年8月5日
3 解約権留保特約と正当事由(参考)
本ケースでは、期間満了に伴う更新拒絶がなされましたが、これとは別に、契約書の中に中途解約ができる条項(解約権留保特約)があり、これを利用して賃貸人が解約をするケースもよくあります。この場合でも、更新拒絶と同じように、正当事由がないと終了しないということになっています。
詳しくはこちら|建物賃貸借の賃貸人からの中途解約(解約権留保特約)の有効性
本記事で説明することは、更新拒絶でも中途解約でも同じように当てはまります。
4 正当事由の有無の判断→サブリースでは肯定方向
(1)まとめ
以上のように、賃貸人が更新拒絶をする(契約を終了させる)には、正当事由が必要です。正当事由の主な中身は、賃貸人・賃借人が当該建物を使用する必要性です。典型例は、当該建物に居住することが必要であるというような事情のことです。
詳しくはこちら|建物賃貸借終了の正当事由の内容|基本|必要な場面・各要素の比重
ここで、サブリースのケースでは賃借人(サブリース業者)の必要性は、通常のケースと異なります。もともとサブリース業者は自身が入居するわけではなく、第三者に賃貸し、その利ざや(払う賃料ともらう賃料の差額)を得る、という構造なのです。
詳しくはこちら|サブリースの基本(仕組み・法的性格・対抗要件・利ざや相場)
要するに、サブリース業者の必要性は住環境とは関係なく、経済的(金銭的)なものにとどまるのです。そこで、サブリースの場合は構造的に正当事由が認められやすいということになります。
(2)平成27年東京地判・正当事由肯定+明渡料50万円
平成27年東京地判では、賃貸人(オーナー)自身が建物を使用(居住)する必要はないという点で賃貸人に不利な事情がありましたが、サブリース業者の必要性が最初から小さいということにより、結論として、正当事由はあると認められました。
しかも、明渡料(立退料)は50万円と低い金額にとどまりました。これは、サブリース業者の利益(利ざや)の約15か月分ということになっています。
平成27年東京地判・正当事由肯定+明渡料50万円
あ サブリース業者の必要性
・・・被告(注・サブリース業者)は、本件建物を賃貸(転貸)して賃料を得ているにすぎないものであるから、本件建物を使用する必要性としては、本件建物を転貸して経済的利益を得ることに尽きるところ、その経済的利益は月額3万3000円(13万3000円-10万円)にすぎず、本件契約の終了によって被告の経営に影響を及ぼすような重大な不利益が生ずるものとは認められない。
い 転借人の保護の必要性
また、原告が転借人に対する被告の地位を引き受ける立場に立つことは前述のとおりであるから、転借人の事情(その保護の必要性)を考慮する必要性はない。
う 結論→正当事由肯定+立退料50万円
以上のとおり、原告(注・オーナー)側の事情(本件建物を占有負担のない形で売却するために本件契約を終了させる必要性)は、本来的な意味での自己使用の必要性をいうものではなく、それだけで正当事由を充足するということはできないが、他方、被告(注・サブリース業者)側にとっても本件建物を使用する強い必要性があるわけではなく、これらの事情を総合すれば、相当額の立退料を支払わせることで、正当事由を補完することができるというべきである。そして、その立退料の額は、これまでに認定した一切の事情及び後記4の賃料相当損害金の支払義務の状況等を総合勘案して、50万円と認めるのが相当である。
※東京地判平成27年8月5日
(3)下森定氏見解→正当事由肯定可能性は高い
下森定氏も、サブリース(マスターリース契約)では更新拒絶の正当事由が認められる可能性が高いということを指摘しています。
下森定氏見解→正当事由肯定可能性は高い
※下森定稿『サブリース訴訟最高裁判決の先例的意義と今後の理論的展望(下)』/『金融商事判例1192号』経済法令研究会2004年6月p2
5 明渡(占有移転)を命じる形式
この裁判例の重要な判断は以上のとおりですが、最後に、判決で命じる内容の形式が問題となりました。
実際には、サブリース業者自身が入居しているわけではなく、テナント(転借人)が建物に居住(占有)しています。そこで、単純に建物の明渡を認める(命じる)わけにはいきません。
最終形として、賃貸人(オーナー)と転借人(テナント)が直接賃貸借契約がある状態になればよいのです。そこで裁判所は、建物返還請求権の譲渡とテナントへの通知による占有の移転(指図による占有移転)を主文として示しました(命じました)。
明渡(占有移転)を命じる形式
あ 契約条項の内容
(地位の承継)
本件契約が終了又は解除した場合は、原告は転借人に対する被告の地位を引き継ぐものとする。
い 裁判所の判断(占有移転の形式)
ところで、原告は、本件建物の「明渡し」を求めているが、本件建物は転借人のBが使用占有しており、同人に対する被告の地位を引き受ける立場にあることは前述のとおりである。
そうすると、本件において、本件建物の明渡請求をそのまま認容するのは適切でなく、指図による占有移転を命ずるべきである(原告の請求は、黙示的にそのような申立てを含んでいると解される。)。
そこで、被告に対し、原告から立退料50万円の支払を受けるのと引換えに、Bに対して有する本件建物の返還請求権を譲渡すること及びBに対し指図による占有移転の通知をすることを命ずることとする。
う 主文の表記
被告は、原告から50万円の支払を受けるのと引換えに、B(住所・東京都千代田区〈以下省略〉)に対して有する別紙物件目録記載の建物の返還請求権を原告に譲渡し、かつ、上記Bに対し以後同建物を原告のために占有すべき旨を通知せよ。
※東京地判平成27年8月5日
本記事では、サブリース(のマスターリース契約)を、賃貸人が終了される際の正当事由を判断した裁判例を紹介、説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際にサブリース契約の終了に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。