【抵当権の準共有(可否の議論とパターン)】
1 抵当権の準共有(可否の議論とパターン)
所有権以外の権利も共有(権利者が複数人)となることが認められています。これを準共有といいます。
詳しくはこちら|準共有の基本(具体例・民法と特別法の規定の適用関係)
そのひとつとして、抵当権の準共有があります。
抵当権の準共有については、それを認めてよいか、という問題と、認めた場合にはどのような法的扱いになるか、という問題があります。
本記事では、抵当権の準共有を認めてよいかという問題について説明します。抵当権者が複数人となった経緯(パターン)を分類して説明します。
2 抵当権の準共有を前提とする判例
まず、抵当権が準共有となること自体は、認められています。この結論は、いろいろな判例が当然の前提としています。
有名な判例として、後順位抵当権の準共有者が、先順位抵当権の抹消登記請求をした昭和15年大判があります。
詳しくはこちら|第三者(共有者以外)の不正な登記の抹消請求の判例の集約
また、抵当権の一部代位によって抵当権が準共有となった平成17年最判があります。
抵当権の準共有を前提とする判例
あ 昭和15年大判
第一抵当権が被担保債権の消滅によって消滅した場合において、第二抵当権の共有者の右債権消滅の確認並びに第一抵当権の登記抹消を求める訴を提起するには、各共有者一人でこれをすることができる。
※大判昭和15年5月14日
い 平成17年最判
不動産を目的とする1個の抵当権が数個の債権を担保し、そのうちの1個の債権のみについての保証人が当該債権に係る残債務全額につき代位弁済した場合は、当該抵当権は債権者と保証人の準共有となり、・・・
※最判平成17年1月27日
3 原始的準共有・発生原因1個→可能方向
抵当権の準共有が認められるかどうかは、パターンごとに議論があります。
まず、抵当権が発生した(設定した)時点から準共有、つまり、複数の抵当権者が存在したというパターンを考えます。
このパターンをさらに、発生原因の個数が1個の場合と、複数個の場合に分けます。
最初に、発生原因が1個のパターンについて説明します。
典型例は、複数の銀行が共同して貸主となる、いわゆるシンジケートローンです。
法解釈としても、登記実務としても認められています。
原始的準共有・発生原因1個→可能方向
この指摘では、債権の個数については、具体的な言及はないが、5個の債権になると考えてよいと考えられる。
登記実務では、当初よりの抵当権者複数の登記例があるが、それは、同一の発生原因のものである。
※山田誠一稿『複数債権者・複数担保権者に係る問題』/『動産・債権譲渡担保融資に関する諸課題の検討』全国銀行協会・金融法務研究会2010年p41、42
4 原始的準共有・発生原因複数→両方の見解
抵当権が発生した時点から複数の抵当権者が存在し、この状態が複数個の発生原因によって生じた、というパターンを想定します。
登記先例には、これを否定するものがあります。
しかし、法解釈としては否定できない(認めるべき)という見解があります。
原始的準共有・発生原因複数→両方の見解
あ 登記先例→否定
・・・格別の発生原因の場合については、登記先例では、数人の債権者が独立に数個の債権を有している場合について、1個の抵当権を設定することはできないとされる(22)。
(22)昭和35年12月27日民事甲3280号民事局長通達、法務省民事局編『登記関係先例集追Ⅲ』(1965年)419頁。
い 実体法解釈→肯定方向
しかし、数人の債権者が独立に数個の債権を有している場合であっても、理論的には、それらを被担保債権として、1個の抵当権を設定することができるとの見解もある。
1個の抵当権が当初1人の債権者に帰属していたが、後発的に複数の債権者に帰属する場合は、抵当権が準共有となることは、(ⅱ)で述べた通りであり、当初から、1個の抵当権が、複数の債権者の準共有に帰属することを区別して考えなければならない理由はないように思われる。
また、1個の発生原因にもとづく数個の債権を被担保債権として抵当権の準共有が成立しうることと、格別の発生原因の場合を区別して考えるべき理由もないように思われる。
したがって、登記先例とは異なるものの、数人の債権者が独立に数個の債権を有している場合について、1個の抵当権を設定することはでき、その場合、その抵当権は数人の債権者の準共有に帰属すると考えるべきである。
※山田誠一稿『複数債権者・複数担保権者に係る問題』/『動産・債権譲渡担保融資に関する諸課題の検討』全国銀行協会・金融法務研究会2010年p43
5 後発的準共有・共同相続ケース
次に、最初は抵当権者が1人(共有ではない)状態から、その後の事情によって複数人になった、というパターンを考えます。
後から抵当権者が複数人になったパターンはいくつかあります。
まずは、抵当権者(債権者)が亡くなって共同相続があったケースについて説明します。
この場合、金銭債権は可分なので、各相続人に分割された状態で帰属します。この点、平成28年判例で、預貯金債権は不可分(当然分割ではない)という解釈に変わっていますが、預貯金以外の金銭債権はこの判例の射程外であり、従前どおりに可分となっています。
詳しくはこちら|一般的金銭債権の相続(分割承継・相続分の適用・遺産分割の有無)
そして、抵当権は自動的に分割されることはなく、複数の相続人が準共有することになります。登記実務もこの考え方を採用しています。
後発的準共有・共同相続ケース
被担保債権は当然分割され、1個の抵当権は分割されずに、したがって、共同相続人の準共有となり、その1個の抵当権が複数の被担保債権を担保することになると考えられる。
登記実務については、このような考え方に立つと考えられる登記例がある。
※山田誠一稿『複数債権者・複数担保権者に係る問題』/『動産・債権譲渡担保融資に関する諸課題の検討』全国銀行協会・金融法務研究会2010年p37
6 後発的準共有・債権の一部譲渡
後から抵当権者が複数人になったパターンの1つとして、被担保債権の一部を譲渡した、というケースがあります。
このケースでも、結論としては、前述の共同相続と同じになります。つまり、債権は複数個、抵当権は1個(1個の抵当権を準共有する)という状態です。判例も登記実務もこの考え方を採用しています。
後発的準共有・債権の一部譲渡
あ 一般的見解・登記実務
1個の被担保債権のために1個の抵当権が設定されている場合、被担保債権の一部譲渡が行なわれると、被担保債権は、2個の債権になる。
すなわち、そのうちの1個は、譲受人に帰属し、もう1個は譲渡人に帰属する。
このとき、1個の抵当権は分割されず、抵当権は譲渡人と譲受人に準共有で帰属し、この抵当権は2個の被担保債権を担保する。
登記実務については、このような考え方に立つと考えられる登記例がある。
※山田誠一稿『複数債権者・複数担保権者に係る問題』/『動産・債権譲渡担保融資に関する諸課題の検討』全国銀行協会・金融法務研究会2010年p39
い 判例
被担保債権の一部が他に譲渡されたときは、担保の目的物が可分な場合であっても、特約により目的物を分割し改めて二個の担保権を設定しないかぎり、担保権の分割を生ぜず、一部譲渡人と譲受人との間にその債権額を持分として担保権の準共有関係が生ずる
※大判大正10年12月24日
※佐藤歳二稿『担保権の準共有者相互間における競売代金の配当』/『手形研究307号』経済法令研究会1981年1月p88
7 後発的準共有・一部代位
後から抵当権者が複数人になったパターンのうち、最後の1つは、(債務者以外の者が)債権の一部について代位弁済した、というケースです。
この場合、代位弁済した者は、債権者が持っている抵当権の一部を取得する結果になります。結局、抵当権は1個の状態を維持し、抵当権者が、(元の)債権者と代位弁済者の2人、ということになるのです。
なお、以上のパターンのうち、このパターンだけ、法的扱い(法的効果)が他のパターンとは異なります(後述)。
後発的準共有・一部代位
すなわち、そのうちの1個は、一部代位弁済者に帰属し、もう1個は原債権者に帰属する。
このとき、1個の抵当権は分割されず、一部代位弁済者と原債権者に準共有で帰属し、この抵当権は2個の被担保債権を担保する。
登記実務については、このような考え方に立つと考えられる登記例がある。
※山田誠一稿『複数債権者・複数担保権者に係る問題』/『動産・債権譲渡担保融資に関する諸課題の検討』全国銀行協会・金融法務研究会2010年p38
8 債権者同一・複数の債権・1個の抵当権→可能(参考)
以上の説明は、抵当権の準共有、つまり抵当権者が複数人、というものでしたが、これとは別に、抵当権者は1人で、被担保債権は複数個というケースもあります。判例も登記実務もこれを認めています。準共有とは関係ないですが、参考として指摘しておきました。
債権者同一・複数の債権・1個の抵当権→可能(参考)
あ 判例
当事者の合意によって、特定の数個の債権を一定金額の限度で担保する1個の抵当権を設定することは有効である(要旨)
※最判昭和35年5月9日
い 一般的見解・登記実務
なお、抵当権の準共有の問題は生じないが、同一の債権者の複数債権を被担保債権とする場合に1個の抵当権を設定することができるかという問題がある。
債権者を同一とする複数の債権を被担保債権として、1個の抵当権を設定することができると解されている。
登記実務においても、同一の債権者の複数債権を、1個の抵当権の被担保債権とすることについては、登記例がある。
※山田誠一稿『複数債権者・複数担保権者に係る問題』/『動産・債権譲渡担保融資に関する諸課題の検討』全国銀行協会・金融法務研究会2010年p43
9 準共有の抵当権の法的扱い(参考)
以上の説明は、抵当権の準共有が可能かどうか(結論は可能)、というものでした。別の問題として、抵当権が準共有となっている場合にはどのような法的扱い(法的効果)となるか、というものがあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|準共有の抵当権の法的扱い(共有物分割・実行・配当)
実は、準共有となった経緯(抵当権者が複数人になった経緯)によって違いがあります。むしろ法的扱いが違うからこそ、経緯を分類した意味があった、ということもできます。
本記事では、抵当権の準共有の可否と、準共有となった経緯のパターン分類を説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に抵当権の準共有に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。