【将来債権譲渡(集合債権譲渡)の要件・活用の例】
1 将来債権譲渡(集合債権譲渡)の要件・活用の例
将来債権(将来発生する債権)を譲渡することができるのか、できるとしてもその範囲などについては議論があったところですが、最高裁判例によって認められ、その後の民法改正によって法律で認められました。
本記事では、将来債権の譲渡ができる範囲について、説明した上で、この仕組みのいろいろな活用方法を紹介します。
2 将来債権譲渡を活用する実例
法律の規定や解釈の説明の前に、実際にどのような形で将来債権の譲渡が活用できるのか、説明しておきます。
典型的な活用方法は、将来発生する複数の債権(集合債権)を融資の担保とするというものです。実際に融資の際の担保とする場面では、債権譲渡登記を利用することが多いです。
将来債権譲渡を活用する実例
あ 実例
[1]現に発生していない債権(将来債権)を譲渡することが可能かについて改正前には規定がないが、実務上、将来発生する医師の診療報酬債権を担保とした融資を受けるための将来債権の譲渡等が行われてきた。
い 登記制度の整備
現在では、消費者ローンなどにおいて多数の債務者に対する集合債権(将来債権を含む)を「担保として譲渡」して資金調達をする方法などが行われており、動産・債権譲渡特例法では、債務者が不特定の将来債権譲渡について登記することができる。
※我妻榮著『我妻・有泉コンメンタール民法 第7版』日本評論社2021年p937
3 将来債権譲渡を認める条文
将来債権を譲渡することができるのかについて平成29年改正前の民法には条文がありませんでしたが、将来債権の譲渡は古くから行われており、判例でも古くから認められていました(後述)。
平成29年の民法改正により、将来債権であっても譲渡が可能であることが成文化されました。
また、将来債権の譲渡と、その債権に付された譲渡禁止特約との関係についても改正により成文化されました。
将来債権譲渡を認める条文
あ 条文規定
ア 将来債権の譲渡性
第四百六十六条の六 債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。
2 債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する。
3 前項に規定する場合において、譲渡人が次条の規定による通知をし、又は債務者が同条の規定による承諾をした時(以下「対抗要件具備時」という。)までに譲渡制限の意思表示がされたときは、譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして、第四百六十六条第三項(譲渡制限の意思表示がされた債権が預貯金債権の場合にあっては、前条第一項)の規定を適用する。
※民法466条の6
イ 債権の譲渡性と譲渡の制限(参考)
第四百六十六条 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
3 前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
※民法466条
い 法改正の経緯
新法では、将来債権の譲渡性を承認する規定を設けた。
※我妻榮著『我妻・有泉コンメンタール民法 第7版』日本評論社2021年p937
4 将来債権譲渡(予約)の要件・債権の特定
将来債権を譲渡するということは、まだ発生していない(存在していない)債権を譲渡することであることから、それをどのように特定するのか、いつまでに発生する債権であれば譲渡できるのか、といった、将来債権譲渡の限界についていろいろな見解がありました。
平成11年最判は、これについての判断を示して、解釈が統一しました。
平成11年最判が示した将来債権譲渡の契約が有効なものとなる要件はいくつかあります。そのうち1つめ(重要なもの)は、譲渡対象となる債権の特定です。具体的には、譲渡対象である債権の発生原因、金額、その債権が発生する期間などを特定(限定)することで、債権の特定ができている、つまり、債権譲渡ができる、ということになっています。
なお、譲渡対象となる債権の特定の問題ではありませんが、債権担保の目的で、債務者が将来取得する債権について譲渡の予約契約をする場合、予約の時点で被担保債権の金額を特定する必要はないとされています。
将来債権譲渡(予約)の要件・債権の特定
あ 要件
ア 将来債権譲渡の契約
将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の有効性については、次のように解すべきものと考える。
(一)債権譲渡契約にあっては、譲渡の目的とされる債権がその発生原因や譲渡に係る額等をもって特定される必要があることはいうまでもなく、将来の一定期間内に発生し、又は弁済期が到来すべき幾つかの債権を譲渡の目的とする場合には、適宜の方法により右期間の始期と終期を明確にするなどして譲渡の目的とされる債権が特定されるべきである。
※最判平成11年1月29日
イ 将来債権譲渡の予約契約
・・・債権譲渡の予約にあっては、予約完結時において譲渡の目的となるべき債権を譲渡人が有する他の債権から識別することができる程度に特定されていれば足りる。
そして、この理は、将来発生すべき債権が譲渡予約の目的とされている場合でも変わるものではない。
※最判平成12年4月21日
い 債権発生の基礎となる法律関係→不要
「債権発生の基礎たる法律関係の存在」についても、これを積極的に必要とする趣旨ではないと解される(八木一洋・ジュリ一一五六号一三三頁、なお、道垣内弘人・ジュリ一一六五号六六頁は、本判決は「債権発生の確実性」から生まれる「取引適格性」を要求しているものと理解する。)。
※『判例タイムズ1036号臨時増刊 主要民事判例解説』p74~
う 被担保債権の額の確定→不要
・・・本件予約によって担保される債権の額は将来増減するものであるが、予約完結の意思表示がされた時点で確定するものであるから、右債権の額が本件予約を締結した時点で確定していないからといって、本件予約の効力が左右されるものではない。
※最判平成12年4月21日
5 将来債権の発生可能性→原則不要
前記の要件である債権の特定に関して、注意すべきことがあります。
債権が特定されたとしても、その発生可能性が低い場合には、発生するかしないか分からない債権ということになりますので、譲渡の対象とはならないのではないか、という発想があります。
これについて、平成11年最判は、債権発生の可能性が低くても構わない(債権譲渡は否定されない)と判断しました。
さらに、債権の発生可能性が低いのはよいとしても、債権が発生することがある程度確実である必要がある、具体的には、債権が将来発生する法律的基礎(たとえば継続的な取引契約)が必要なのではないか、という発想もあります。平成11年最判は、それすらも不要であると読めます。
ただし、契約の一般原則として、債権譲渡契約について錯誤取消がなされたり、公序良俗違反による無効となったりすることはありえるので、債権発生可能性が極めて低いような場合には、それが錯誤取消や公序良俗違反と判断されることにつながることはありえます。
将来債権の発生可能性→原則不要
あ 判例
ア 結論
右契約の締結時において右債権発生の可能性が低かったことは、右契約の効力を当然に左右するものではないと解するのが相当である。
※最判平成11年1月29日
イ 理由
ところで、原判決は、将来発生すべき診療報酬債権を目的とする債権譲渡契約について、一定額以上が安定して発生することが確実に期待されるそれほど遠い将来のものではないものを目的とする限りにおいて有効とすべきものとしている。
しかしながら、将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約にあっては、契約当事者は、譲渡の目的とされる債権の発生の基礎を成す事情をしんしゃくし、右事情の下における債権発生の可能性の程度を考慮した上、右債権が見込みどおり発生しなかった場合に譲受人に生ずる不利益については譲渡人の契約上の責任の追及により清算することとして、契約を締結するものと見るべきであるから、
※最判平成11年1月29日
い 債権発生可能性の位置づけ→公序良俗適合性
続いて、本判決は、目的債権の発生可能性の程度が契約の有効性に与える影響について検討し、契約当事者の意思を合理的に解釈すると、右可能性の程度のいかんは、右有効性を直ちには左右しないと解すべきものとしている。
結局、右可能性の程度のいかんは、一般原則に従い、錯誤の成否が問題となる場合や、目的債権の発生の可能性が全くなかったときにおける契約の有効性が問題となる場合(いわゆる原始的不能の理論の適用が問題となる場合)のほか、次に述べる契約の公序良俗適合性等についての判断の一要素として問題となるにとどまると考えられる。
本判決は、目的債権が将来発生すべきことにつきいわゆる法律的基礎が存在することを要するか否かについては特に論じていないが、その説示内容に照らし、右のような制限を設ける趣旨ではないと見るのが自然であろう。
※『判例タイムズ1036号臨時増刊 主要民事判例解説』p74~
6 将来債権譲渡の消極的要件・公序良俗違反
前述のように、平成11年最判が示した将来債権の譲渡の要件である債権の特定の判断基準は緩いですが、特殊な事情(特段の事情)がある場合には、将来債権譲渡契約が公序良俗に反して無効となることも示しています。
将来債権を譲渡するということは、譲渡人の将来の収入を移転することであり、その程度(譲渡する債権の範囲、発生する期間)が大きければ、譲渡人の営業活動に過剰な制限を加えることとなり、かつ、譲受人が譲渡人の財産を独占することで譲渡人の他の債権者に不当な不利益を与えることになります。このように、将来債権譲渡について不合理な事情がある場合には、公序良俗に反するものとして、債権譲渡契約の全部または一部が無効となることがあり得ます。
もともと、将来債権譲渡契約は類型的に、公序良俗違反になりやすいので、平成11年判例が、公序良俗違反についての基準を示したといえます。
将来債権譲渡の消極的要件・公序良俗違反
※最判平成11年1月29日
7 判例の事案のあてはめ
平成11年最判は、将来債権の譲渡の有効性について上記のような判断基準を示したうえで、医師の診療報酬債権(将来債権)の譲渡の有効性について判断しました。
具体的には、譲渡対象となる債権について、その当事者(医師と診療報酬支払基金)と債権発生原因(診療報酬)が特定されていることを当然の前提として、その期間と譲渡する債権の金額が明確に特定されていることから、債権の特定ができていると判断しています。
また、公序良俗に関しては、個別的な細かい事情を使わずに類型的に判断した、という特徴があります。具体的には、融資により整備される診療施設によって医師が将来にわたり診療による収益を上げ、以後の収支見込みに基づき将来発生すべき診療報酬債権を一定の範囲で譲渡する、という行為として捉えて、これは不当な影響が生じない、つまり、公序良俗に反しない、判断しました。
逆に、融資を受けた者(医師)の資産内容、収入の内容や契約締結の経緯などは判断の中で使っていないのです。
判例の事案のあてはめ
あ 判例
ア 債権の特定
2以上を本件について見るに、本件契約による債権譲渡については、その期間及び譲渡に係る各債権の額は明確に特定されていて、上告人以外のKの債権者に対する対抗要件の具備においても欠けるところはない。
イ 公序良俗適合性
Kが上告人との間に本件契約を締結するに至った経緯、契約締結当時のKの資産状況等は明らかではないが、診療所等の開設や診療用機器の設置等に際して医師が相当の額の債務を負担することがあるのは周知のところであり、この際に右医師が担保として提供するのに適した不動産等を有していないことも十分に考えられるところである。
このような場合に、医師に融資する側からすれば、現に担保物件が存在しなくても、この融資により整備される診療施設によって医師が将来にわたり診療による収益を上げる見込みが高ければ、これを担保として右融資を実行することには十分な合理性があるのであり、融資を受ける医師の側においても、債務の弁済のために、債権者と協議の上、同人に対して以後の収支見込みに基づき将来発生すべき診療報酬債権を一定の範囲で譲渡することは、それなりに合理的な行為として選択の対象に含まれているというべきである。
このような融資形態が是認されることによって、能力があり、将来有望でありながら、現在は十分な資産を有しない者に対する金融的支援が可能になるのであって、医師が右のような債権譲渡契約を締結したとの一事をもって、右医師の経済的な信用状態が当時既に悪化していたと見ることができないのはもとより、将来において右状態の悪化を招来することを免れないと見ることもできない。
現に、本件において、Kにつき右のような事情が存在したことをうかがわせる証拠は提出されていない。
してみると、Kが本件契約を締結したからといって、直ちに、本件債権部分に係る本件契約の効力が否定されるべき特段の事情が存在するということはできず、他に、右特段の事情の存在等に関し、主張立証は行われていない。
※最判平成11年1月29日
い 公序良俗適合性へのあてはめの特徴(類型化)
冒頭にも述べたとおり、本件においては、本件契約の一方当事者であるA医師の診療科目はおろか、同人の契約締結当時の資産内容、基金の支払に係る診療報酬以外の収入(国民健康保険分や、いわゆる自由診療に係る分)の状況、本件契約が締結されるに至った経緯等は、全く確定されていない。
本判決は、医師が診療所等を開設しようとする場合や診療用機器を設置しようとする場合を例に挙げて、本件契約と同種の与信契約の合理性について説示し、本件の確定事実に照らすと、本件契約のうち本件債権部分に関する部分について、その効力を否定すべきものとは解し難いとしている。
※『判例タイムズ1036号臨時増刊 主要民事判例解説』p74~
8 債権特定の具体的な方法(特定要素)
前述のように、将来債権を譲渡するには、譲渡対象となる債権が特定できていればよいのですが、では、どのような要素で(事情)で債権を特定すればよいのでしょうか。
まず、個別の将来債権を譲渡するには、その当事者、債権発生原因となる契約や事件(不法行為の場合)、発生日時、金額を特定すれば、他の債権との識別が可能といえるでしょう。
将来債権を含む集合債権を譲渡するには、当事者、発生原因となる取引の種類、金額、発生時期を特定すれば、他の債権との識別が可能であるといえるでしょう。
債権特定の具体的な方法(特定要素)
あ 判例
本件予約において譲渡の目的となるべき債権は、債権者及び債務者が特定され、発生原因が特定の商品についての売買取引とされていることによって、他の債権から識別ができる程度に特定されているということができる。
※最判平成12年4月21日
い 判例タイムズ
ア 個別の債権
個別の債権は、当事者、契約又は事件(不法行為の場合)、発生日時、金額等によって特定されるが、
イ 集合債権
集合債権譲渡にあっては、当事者、発生原因となる取引の種類、金額、発生時期等によって他の債権との識別が可能であるかを判断することになるものと思われる。
※『判例タイムズ1065号臨時増刊 主要民事判例解説』p72~
9 債務者不特定の将来債権譲渡の特定方法(登記)
法務局が公表している登記に関するサンプルに、債務者が特定されていない将来債権の譲渡における特定の具体例が出ていますので紹介します。
実際に将来債権譲渡の契約書を作成する際に役立ちます。
債務者不特定の将来債権譲渡の特定方法(登記)
あ 債権発生原因欄の記録
《債務者が特定されていない将来債権の場合》
債務者が特定されていない将来債権(債務者不特定の将来債権)については、債務者の氏名・商号等の代わりに、当該債権を特定するために必要な事項を【債権発生原因】欄に記録する必要があります。
い 債務者不特定の債権特定事項の記述(記録)方法
ア 特定(記述)方法の説明
【債権発生原因】欄には「債権を特定するために必要な事項」(下記の例を参照)を組み入れた上で、「○○(債権発生原因たる契約等の名称・内容)に基づく○○債権(債権の種別)」のように記録するのが一般的です。
イ 特定要素の例
[債権を特定するために必要な事項の例]
・売掛債権を譲渡する場合
→具体的な商品名や契約の主体の属性(「○○区内に在住している者」等の債務者の地域属性等)
・請負代金債権や委託料債権を譲渡する場合
→契約の目的たる業務の内容や契約の主体の属性(「○○県内の顧客」等の債務者の地域属性等)
・不動産賃料債権を譲渡する場合
→当該不動産の所在地・名称・部屋番号等
・リース債権を譲渡する場合
→リースの対象物件名及びその製造番号等
ウ 登記記録(記述)例
具体的な記録例
⑫【債権の種類】売掛債権
【債権発生原因】
○○県内の顧客との○○(具体的な商品名)の販売契約に基づく売掛債権
⑬【債権の種類】その他の報酬債権
【債権発生原因】
○○県内の顧客との○○に関するデータ処理業務委託契約に基づく報酬債権
⑭【債権の種類】工事請負代金債権
【債権発生原因】
東京都内の顧客との建築工事請負契約に基づく報酬債権
債権を特定する方法の記録例
⑮【債権の種類】不動産賃料債権
【債権発生原因】
○○県○○市○○町○○番地所在の○○ビルディング○○号室の賃貸借契約に基づく賃料債権
⑯【債権の種類】リース債権
【債権発生原因】
コンプレッサー3台(製造番号○○、○○…)に係るリース契約に基づくリース債権
⑰【債権の種類】その他の債権
【債権発生原因】
東京都○○区内の顧客との有線放送契約に基づく受信料債権及び受信機器レンタル料債権
う 債権発生の始期及び終期の記録(記述)の例
債権を特定する方法の記録例
・・・この他に、債権発生の始期及び終期を【債権の発生年月日_始期】及び【債権の発生年月日_終期】欄に別途記録します。
※法務省ウェブサイト>債権譲渡登記>債権を特定する方法の記録例p4、5(枚目)
法務省ウェブサイト|債権譲渡登記・債権を特定する方法の記録例
10 債権譲渡の新たな活用方法(サブリースの改良)
将来債権の譲渡は、債権担保の目的で行われることが多いのですが、それ以外の活用方法も考えられています。それは、不動産のサブリースの仕組みの代わりに活用するというものです。
従来から(現在も)、投資用不動産のオーナーに対して、家賃保証をする仕組みとして、サブリース契約が活用されています。
不動産オーナーと管理会社との間で賃貸借契約を締結し、管理会社が入居者との間で賃貸借(転貸借)契約することで、空室が多い、あるいは、入居者が家賃を滞納した場合でも、オーナーには管理会社から賃料が支払われるという仕組みです。
詳しくはこちら|サブリースの基本(仕組み・法的性格・対抗要件・利ざや相場)
ここで、オーナーと管理会社との間の(マスターリース)契約の性質について、最高裁が、建物賃貸借契約である(借地借家法の適用がある)という判断をしました。
詳しくはこちら|サブリースにおける賃料増減額請求の可否(賃貸借該当性)と判断の特徴
そのため、収益の悪化などを理由にオーナーが管理会社との間の契約を解除したいと考えても、借地借家法の規定により、解除することが困難となってしまっていました。
詳しくはこちら|サブリースの終了(更新拒絶)における正当事由の判断と明渡(占有移転)の方式
そこで、オーナーが将来取得する賃料債権を管理会社に譲渡し、管理会社はその譲渡対価をオーナーに支払う、という形で家賃保証をするサービスが開発されました。この方法であれば、借地借家法の適用というデメリットを回避しつつ、家賃保証を実現することができることになります。
債権譲渡の新たな活用方法(サブリースの改良)
あ 債権譲渡を活かして開発された新サービス
RENOSY ASSET MANAGEMENT(東京都港区、以下・RAM)は、不動産テック総合サービス『RENOSY』(リノシー)の「不動産投資サービス」を通じて投資用物件を購入した投資家オーナー向けとして、新たな賃貸管理プラン『NEOインカム™』を11月に導入した。入居者と直接に賃貸借契約を結ぶ投資家オーナーが賃貸人の地位を持ちつつ、「賃料請求権」を切り離し、それをRAMに譲渡して対価を受ける。RAMが管理業務を受託する。従来の一般的なサブリース方式の〝転貸借〟の概念ではない、「将来集合債権譲渡型賃料収受スキーム™」として特許出願した。
同社を含めたGAtechnologiesグループ(同住所)は、不動産売買・賃貸借・投資のニーズに一気通貫に対応する『RENOSY』を提供している。その中でRAMは、投資家オーナーの物件の賃貸管理業務を受託している。提供する賃貸管理サービスで、基本の「集金代行プラン」や設備修理・交換費用を同社が負担する「ワイドプラン」はそのままに、更に上位に位置付けていた従来の「マスタープラン」に代えて今回、新プランで『NEOインカム™』を開発した。
い サブリースの問題点
一般的なサブリースでのマスターリース契約で用いられている投資家オーナーと事業者の間、事業者と入居者の間の〝ダブル賃貸借〟では、介在する事業者に「借地借家法」が適用される。投資家オーナーからの契約解除に正当事由が求められ、資産運用の自由度で不便な点に着目した。
う 新サービスの仕組み
投資家オーナーは、入居者と直接に賃貸借契約を締結する。
RAMは、投資家オーナーから当該の管理業務を受託する。管理受託物件から将来を含めて毎月発生する賃料を一括りに「将来集合債権」として買い取り、投資家オーナーにその譲渡対価を支払う。
外部サイト|住宅新法web・RENOSY・新たな賃貸管理プラン開発・サブリースの発想転換
11 将来債権の差押と譲渡の違い
ところで、債権譲渡の可否は、債権の差押えの可否と同様の解釈があてはまることが多いです。では、以上で説明した、将来債権の譲渡の解釈や規定も、将来債権の差押にもあてはまるという発想が浮かびます。しかし、これについては違いもあるので、将来債権の譲渡に関する判例(や条文)は、差押には当てはまらないと考えられています。
将来債権の差押と譲渡の違い
※『判例タイムズ1036号臨時増刊 主要民事判例解説』p74~
12 将来の賃料債権譲渡と破産の関係(参考)
ところで、賃料について将来債権の譲渡が活用されることもよくあります。この場合、破産手続の中で、不動産が換価できない、という問題が生じます。だからといって、将来の賃料債権の譲渡が無効になるとか、一律に否認される、というわけではありません。むしろ、将来債権の譲渡を活用した担保を活かすことを優先(促進)している、といえます。
詳しくはこちら|将来の債権譲渡と破産の関係(賃料債権譲渡による不動産の換価不能)
本記事では、将来債権の譲渡ができる範囲や、この仕組みを活用する方法について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、将来債権譲渡の問題に直面されている方は、活用方法を検討されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。